表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MONOローグ~夢なき子~  作者: 雨薫 うろち
西帝国動乱編
36/363

35.眠熊

 夕飯を食べた後は休憩。


 何しろ夜には厩舎で寝ずの番だ。まあゲーム内だし眠くなる事も無いんだけど、一旦部屋を借りてログアウトし、最低限身の回りのことをやって再ログイン。


 丁度もう日も落ちようかという頃合で、持ち場に移動。


 自分の重量では沈んでしまうのでカンジキを借りて表に出ると、丁度アリェカロ達を厩舎に入れているところだった。


 そのまま厩舎までついて行き、カンジキを外して厩舎内で待機。


 一部明らかに新しい壁がぶち破られた場所なのだろう。全体的に密閉度が高く、アリェカロ達の体温でそこそこに温かい……。


 たまにのんびり過ごすには意外と癒されスポットかもしれない。


 大人しくゆっくり動くアリェカロ達に囲まれて、ボンヤリと柔らかい室内灯の中過ごす。


 室内灯って言ってもランプみたいなやつだけど、揺らめく影が幻想的で、まさに雪国の冬、ファンタジーの世界にいるんだな~と実感する。


 もそもそと餌を食べ、寝藁に寝そべり始めるアリェカロ達は、ちょっと位触れてもこちらに攻撃の意思が無いと分かるのか、嫌がりもしない。


 なんだかボーっとしたままどれ位時間が経っただろうか、厩舎隅の木箱に腰掛けて何を考えるともなく、どうでもいいような妄想に浸って遊び、徐々に寝始めるアリェカロ達を見るとも無く眺めていると……、


 消灯の時間なのか、チータデリーニ中隊長の弟さんがランプを消して回る。


 厩舎を出るときに軽く自分の肩を叩いてくれたのは、激励だったのかねぎらいだったのか?


 暗くなった厩舎の中で、じっと新品の壁を睨む。明らかに新品の壁は一箇所だ。


 つまり何度か来ている犯人はまた同じ場所から侵入する可能性が高い。


 幸い<観眼>を取得しスキルのまま合成した自分には暗がりでも、結構辺りの様子が見える。


 時々暇になると寝ているアリェカロの鼻上を掻いてみるが、ングゥゥゥと何とも言えない寝言のような鳴き声が可愛い。


 しかしそんな平和な時間もあっという間、待っている間は長い夜だなとも思ったが、頭のスイッチを戦闘に切り替え全力で警戒、即座に剣を抜き盾を構える。


 何しろ壁向こうに気配を感じる。自分のスキルなら大よそ周囲の生き物の位置は感知可能。


 <観眼>で視界を切り替えれば、壁向こうにある大きな影は絶対ヒトじゃない。何しろカピヨンさんよりも圧倒的にデカイ。


 相手は四つ足を地につき、頭突きをするように壁に追突!そして破壊。


 急な破壊音にアリェカロが一斉に飛び起きて、ンモォォゥ!と不満の声を上げている。


 入ってきたのは巨大な黒い塊、それは四つ足をついてなければ天井すら突き抜けそうな巨体だ。


 よくよく見れば全身毛むくじゃらで妙に力強さを感じさせる生き物が、アリェカロを物色し前足を伸ばした所で、一太刀ぶった斬る。


 こちらに気がついた黒い塊が、睨みつけて来た所で正体が分かった。熊だ。

 

 右前足を振り上げた所で盾をぶつけ、そのまま目を狙って剣で突く。


 一瞬怯んだ熊が、今度は後ろ足で立とうと両前足を地面から離したので、逆に自分は体を沈みこませ、


武技 衝突


 熊がまだ完全に立ち上がれていないところに思い切りぶちかまし、肩で思いっきり熊を押し飛ばす。


 尻餅ついた熊を更に追撃の、


武技 盾衝


 後もう一息で厩舎から追い出せるが、手数が無いのでやむをえず剣で袈裟斬り。


 熊が一太刀浴びた事で冷静を取り戻したのか、逆に強力な頭突きをかましてくるが、盾で受け流すように斜めから頭を殴り押し戻す。


 あまりに距離が近すぎて剣を振るえないので、熊と肩を合わせる様に押し合い。


 体重差では自分の方が軽そうだが、プレート装備の分も含めるとどうなのだろうか?


 はい!駄目でした!一歩二歩と押し返され始め、肩から点をずらして懐に入りこみ、後ろ足の甲を一刺し。


 熊がビクッと反応した所で、再び体を屈め力を圧縮し、


武技 衝突


 からの、


武技 盾衝


 で一気に距離を押し戻す。


 後半歩をどうにかと、思い切り熊の頭に剣を振り下ろせば、丁度額の真ん中を割るように剣が当たり、よろよろと怯んだように勝手に下がる熊。


 チータデリーニさんと約束したように外に追い出したが、追い出した後の事を相談してなかった。


 外に出て体の自由が利くようになった熊は後ろ足で立ち、両手を広げその大きさを誇示してくる。


 四足で立って進入してきた時とは大違いのプレッシャーに、思わず武者震い、全身が緊張し剣を持つ手に力が入る。


 今迄倒してきたボスサイズとは格が違う。大きさこそ自分一人で倒してきたそれだが、生命力も体力も底知れない。


 そこに、


 「おお!やっぱり眠熊か~!はは!よくこの巨体を押し戻したな。さすがカピヨンに習ってる事はあるぜ」


 外から雪の中をのっしのっしと歩いてくるのは、両手に一本づつ斧を担いで歩いてくるチータデリーニさん。


 明らかに普通両手で使う物だよな~と思われる斧を涼しい顔で担ぎながら、熊と相対する。


 「押し戻すまでは何とかしましたけど……」


 「おうおう、それで?カピヨンにはなんて教わったんだ?」


 「力とは愛だ!って聞いてます」


 「なるほどな~、一つの真理だな。見せてやるよ」


 そう言いながら斧を雪の中に捨て、素手で熊に掴みかかる。


 折りしも両手を広げ両側からチータデリーニさんを抱え込もうとしていた熊の腕の中に入り、もふもふとした毛皮に埋る。


 文字通りベアハッグととでも言うのか、相手の胴を締め上げ、


 グウォォォォォン!!


 と熊が苦しみの叫びを上げる。


 熊の方が苦しんでる?チータデリーニさんは熊の毛に埋って、腕も腰に回らないのだが、苦しんでいるのは熊!


 そのままのしかかる様に熊を転がして、額を割るようにひたすらパンチを連打。


 熊の首を完全に腿でロックし締め上げたまま、繰り出されるパンチで次第に力を失っていき、だらんと動きを止めてしまう。


 「まあ、こんなところだな~。お~い!熊倒したから<解体>するぞ!」


 と事も無げに弟さんを呼び、兄弟で熊を<解体>する。


 明日の朝食は朝から熊鍋だそうで……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] チータデリーニ氏、絶対に普通の士官じゃないと思ってたら案の定だった。両手斧とか素手とかさあ...師匠ポジじゃん...本部にはいない系の強者じゃん...。
[一言] 熊相手に盾でぶちかましかよ …素手ですか、はい
[一言] ( ̄□ ̄;)!!夜、倒したクマま、明日の朝には熊鍋に? さすがゲーム(笑) 熊鍋は熊肉を軟らかくするのが大変 壁]_・)ソタロー、成長したな~ 重いけど(笑)…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ