351.姐御
次から次へと舞い込んでくる悪い報せに、手の打ち様もなく、焦りがつのる日々。
殆どが労せずに取った土地とは言え、既に東半分及び、カトラビ街と【黒の防壁】は落とされてしまった。
戦力の中心を【旧都】に集めているという事情もあるが、それにしても巻き返しのスピード感が尋常じゃない。
【兵士】の運用は言うに及ばず、食料を取引材料に使った交渉、隊長単体戦力での潜入占拠と、正攻法にこだわらないやり方で次から次へと町村を寝返らせる。
流石に西部地域に着手する段階でスピードが落ちたようだが、何もせずに手をこまねいていれば、いずれ全部隊長の物になってしまうだろう。
それこそ、皇帝も宰相も排斥しかねない勢いすら感じる。
何しろ隊長が参戦した理由が、民を餓えさせたからと言うもの。
実にシンプルで分りやすい理由で、えげつない事を平気でする。しかも正義だなんだと気取らない。
気に入らないから白竜を殴る。いないならいないでトップに責任を取らせると息巻いているらしい。
頭がおかしいんじゃないか?と思うが、そんな相手にやられっぱなしの自分は何なんだとなるので、やめて置こう。
しかし、隊長が【帝国】の中心まで攻めて来たのだ。そろそろ接触不可避となるだろう。
相手は猛スピードで巻き返しをはかってると言っても、精々一大隊程度しか動かせていない。
対してこちらは守備の老【将官】1大隊と攻勢の自分1大隊で仕事を割った。つまり総数では上となる。
宰相と元皇帝の手勢については余りよく分らないが、おおよそ互角と見ていいらしいので、信じる事にした。疑った所で切りがないし。
釈然としないのは【黒の防壁】は黒の森からの壁となる為、中立を保つと言っていたのに、隊長側に殆ど無傷で渡してしまった事だ。
表向き食糧難で困っていた家族を助けてもらったからと言っているらしいが、本当だろうか?
黒の森からの魔物を防ぐ代案がない限り、明け渡さないと言っていたはずだが、誰か代わりの人員でも詰めさせるのだろうか?はたまた別の裏取引があるのか、判然としない。
つまり現状、戦力的にはやや有利な筈だが、隊長の存在がひたすらどこまでもネック。そんな感じ。
とにかく今はどこで攻勢を掛けるかそのタイミングを計る事に集中していた。
いつの間にか日に日に目減りする食料、余り長い事手をこまねいている訳には行かないが、何の考えも無しに大隊を動かせば何が起きるかも分らない。
なんともストレスの溜まる日々に、全てを吹き飛ばす勢いで現れたのが、ガイヤさん。
「ソタロー!『時は来た!』って事だね!」
「お久しぶりです。えっと?どういう事でしょう?」
自分の対応に、オーバーリアクションでヤレヤレとゆっくり首を振る。
「あんた、隊長といずれ戦いたいって言ってなかったかい?」
「言いましたっけ?」
「言ってたかどうかは関係ないんだよ!あんたが心にいつも隊長の影を追っていたのは分かってる。そしていつか越えるつもりでいた事もね!」
「まぁ、このゲームを始めるきっかけである事は確かですし、戦ってみたい気持ちもありますが?」
「だろう、そうだろう……だが駄目だね!その程度の気持ちでやられたんじゃこっちが困るんだよ!何でか分かるね?」
「え?ガイヤさんが以前、隊長に負けたから?」
「はっきり言ってくれるじゃないか!その通りだよ!でもまあソタローは何だかんだ忙しい合間を縫って闘技場でメキメキ力をつけた、ある意味じゃ私の後輩だし、もっと燃え滾るような熱い気持ちがあるって言うなら、譲ってやってもいいんだよ?」
「え~っと隊長への挑戦権?」
「そう!さあどうしたいんだい?私にその心をぶつけてみな!」
「何でですか?」
「はぁ……分らないのかい?本当に?」
「すみません」
「ソタローの実力は以前見てるし、きっとあの頃より更に強くなってるってのも分かってるさ。それでも相手はあの隊長、このゲーム屈指の実力者だよ?しかも不気味な事に例の邪神の化身を倒して以来プッツリと行方不明なんて、またぞろ見えない所でやらかしてる証拠だよ?もし仮に隊長もアレから更に実力をつけてるとしたら、あとは気持ちの差だと思わないかい?」
「寧ろ、そうだとしたら普通に実力の差が生まれてる気が?」
「何言ってんだい!あんたもこのゲーム屈指のプレイヤーまで上り詰めてるんだから、いきなり大きな差は生まれ無いってんだよ!十分気持ちでどうにかなる差だね!間違いない!」
「そういうものですか?」
「そうさ!隊長がいくら変な事をしたとして、ソタローの方が伸びシロがあったんだからね。あとは本気で倒すって言う気持ちだけだよ」
何か急に勢いだけで、隊長と自分がほぼ互角みたいに言われるんだけど、
でも戦いたいのは確かだし、それを白竜にも願っている。
「自分は隊長と戦いたいです」
「ん~~~何で戦いたいんだい?」
「更なる高みを目指す為、自分はもっと強くなりたいので」
「……そうかい!それなら私がちょっと隊長の所に行って、話をつけてきてやろう!」
「え?何でですか?」
「私もいつか隊長と雌雄を決するけど。でもあいつは強くなる事に興味がないんだよ。こっちは渇くほどにそれを望んでるって言うのにね。だからソタローの力への渇望をぶつけてやって欲しいのさ。それでこそ私が戦うに相応しい相手になるだろうし」
「それって、気持ちの差も覆されてるんじゃ?」
「いいから!ソタローは気持ちを作っておきな!小細工せずに正面から戦うように上手く言ってきてやるからさ!」
何か一方的に色々押し付けて、どこかへ言ってしまうガイヤさん。
まあいつもお世話になってるし、別にいいんだけど。




