32.料理長クエスト
その後も【古都】周辺の村を巡り、ログイン時間いっぱいまで治療してはそのまま村で休んでログアウト。
【兵士】達も村を拠点に休み次の村に移動するので、別に置いて行かれることはない。
てっきり【兵士】は野宿でもするのかと思っていたら、
野営はそれ専用の集団でないと出来ないらしい。単独での野営もそれはそれで専用スキルが存在するって話だ。
ちなみに戦闘は率先して自分が最前に立つ様にしている。
何しろ【衛生兵】の集団だ。戦闘力はあるが、役割は怪我を治したり戦場で倒れたヒトを運び出す事なので、
やはりここは自分の出番だろう。
まあカピヨンさんは規格外の戦闘力で、片手メイスであっさりボスの頭部を叩き潰すけども……。
まあ自分も【訓練】のおかげか、盾を構えて体当たりすれば敵が吹き飛んで体勢を崩すので、
そこにクラーヴンさんが作った剣を打ち込めば、多少固い敵でも十分攻撃が通る。
軽い敵、例えばいつかの狼の集団なんかは最早敵じゃないので10匹でも20匹でも剣を振り回していれば、倒せてしまう。
ふむ、やはりそろそろもう一段強い敵を探すべきなのかな?
そんな事を考えつつも数日に渡ってこなしてきた【往診】のクエストも終了。
【古都】まで戻ってきて、解散。
「カピヨンさん色々と勉強になりました」
「それは良かったです。治療が行えるなら<手当て>道具では物足りないでしょう。支給の軍用治療キットで慣れたら、薬屋さんで購入するといいでしょう」
ふむ、当面は腰から治療キットの鞄を提げる事になるのか、一応支給の軍用治療キットは固い革の鞄に綺麗に小分けして治療道具が詰まっている。
鞄の口を開ければすぐに中身が確認できる状態なのでとても使いやすい。
しかも今迄使っていた<手当て>用の包帯よりよっぽど早く綺麗に巻ける謎の粘着素材布なので、これでもう怪我も怖くない!
これからも時折【往診】クエストを受けておけば<治療士>の熟練度も上がっていくに違いない。
さて、次のクエストを受ける前に、料理長の所へ行こう。
何しろあの青い瓶と赤い瓶、アレがあればきっと料理も捗るはずだ。
食事は大事と言われて<簡易調理>も持っているのに、料理が出来ないのはもったいない。
確か、鍋や包丁はクラーヴンさんが作っていたはずだし、日用品レベルの物ならそこまで高くはないだろう。
【兵舎】の食堂に向かい、早速料理長に尋ねる。
「すみません料理を出来るようになりたいのですが……」
「そりゃ【料理番】任務を繰り返して腕を磨けば誰でも出来るようになるぞ?」
「はい、それはそれで受けるつもりなんですけど、青い瓶とか赤い瓶とかって」
「ああ!アレが欲しいのか。普通は自生しているハーブなんかと交換するんだが、もしそういう素材になる物を<採集>するスキルがないなら、代わりに仕事を請けてもらう」
「じゃあ、仕事を請けるほうでお願いします」
「うん、決断が早いな。あまりそういう素材集めとかは好きじゃないか?」
「対応するスキルを持っていないので、どうしようもないです。これ以上スキルが増えても管理できる気がしないですし」
「そうかそうか、まあそこは向き不向きあるし、強制はしないがな。さてどの仕事にするか……、食材の【輸送】は重装兵じゃ不向きか、<採集>も出来ない……、食材になる獣を狩るにも<解体>は持ってるか?」
「いえ、持ってないです」
「そうかそうか、まあ噂は聞いていたからな」
「そうなんですか?」
「ああ、食堂ってのは何かと噂話の場所になりやすいからな。いろいろと話は入ってくるんだ。お前さんが北砦にこもって小隊を率いて魔物狩りをしているとか、この辺りの魔物なら狩るのに大して苦労しないのに<解体>が必要で、小隊で狩りをしているとか」
「いや、魔物も集団でいる事もありますし、小隊を率いた方が安全に【巡回】任務を完了できるからですよ」
「その【巡回】任務自体が随分と奥深くまで入り込み、あえて危険な魔物を狩ってるとか」
「いや、普通の魔物しか狩ってないです」
「ふむ、まあいい。戦闘は得意てことだ。じゃあ、うちと取引のあるアリェカロの牧場に行ってくれ」
「多分戦闘になるんでしょうけど、どういう任務ですか?」
「ああ、牧場ってのは野生の魔物から家畜を守る過酷な仕事だが、最近被害が前より増えてるらしくてな」
「つまり家畜を襲う魔物を狩って来いと」
「そうだ。何しろ任務を出せるか微妙なラインらしくてな。全ての牧場に【兵士】を常駐できる訳じゃないし、それでも被害が増えるって事は魔物が増えてるって事だ。悩みどころだな」
「つまり調味料の瓶と引き換えにちょっと様子を見て、狩れる魔物がいたら狩って、牧場の負担を減らして来いって事ですね」
「うん、飲み込みが早くて助かるぜ。何しろ【兵士】達の健康を支えるアリェカロの乳が不足したら困るからな」