31.治療を教わる
「愛とは!信じる事!勇気を持ってぶつかって行くからこそ、そこに愛が生まれるのです!」
重装備を纏っているはずなのに、まるで体重がないかの様に振き飛ばされ、
身も心も軽く、どこまでも飛んでいく。白い翼が悲しみのない空へと自分を運び、
そのまま風になり、雲になる……。
「どうした?ソタロー?」
いつも通り兵長のところでクエストを受けようとしたら【訓練】と聞いた瞬間にトリップしてしまった。
「あっいや【訓練】は有意義なんですが、なにぶん追い込みすぎたと言うかなんと言うか」
「ああ、カピヨンに習ってるんだったな。あいつはとにかく真面目だが、その分己を追い込む所があるからな……そうだな。逆にあいつの【衛生兵】としての仕事に触れて来い。確か<治療士>を取得して治療の仕方を知りたがってたろ」
「えっと……吹っ飛ばされたりとか……」
「ふざけたりすれば保証の限りじゃないが、あいつは好き好んで他者を傷つける奴じゃない」
「分かりました。それで仕事って言うのは?」
「ああ、ちょっと入り組んだ所にある村なんかを回ってできる範囲の医療行為だな」
「え?軍がそんなの請け負ってるんですか?」
「寧ろそういう公共事業を請け負うのを軍に一括するから無駄がないんだろ。なにしろ辺境地に行くにはそれだけで戦闘力が必要になるんだ。医者を雇って文官連れて護衛もつけるってのか?」
「なるほど、できる範囲で社会保障をしつつ、重傷者なんかがいれば【輸送】も担うと?」
「そういう事だな。治療の仕方も覚えて地域住民に顔を知られて、カピヨンとの交流も深まる。いい事尽くめだ」
「分かりました受けます」
と、言うわけでカピヨンさんと【往診】クエストに向かう。
アリェカロにソリを引かせ、大荷物を運びつつカピヨンさんの【衛生兵】部隊と移動。
20人ユニオンを部隊と言うらしい。自分もそろそろ20人率いねばならないし、しっかり覚えておこう。
ちなみにソリの上の大荷物は村では足りなくなっているであろう物資の数々。【輸送】の任務も同時にこなすと言う事だ。
そして、カピヨンさんは輜重隊に所属していた事もあり【輸送】には慣れているのでなんとも頼もしい。
都や街は目立つし、ヒトも多くある程度把握できていたが、町や村となると、
え?こんな所に?ってな場所に平気で点在している。
今回は北砦から【鉱国】方面に向かう山中に点在する村を回る計画だ。
こんな所に住んでどうやって食べていくのかな~なんて思っていたら、カピヨンさんが心を読んだように解説してくれる。
「ここは山中の木を切って調整する為の村ですよ。本来の家は少し先の大き目の町にあるヒトが殆どです」
つまり植林業者の一時的な仕事用集落って感じかな?
村に着けば、家々からモコモコの服に身を包んだおじさん達が出てくる。
ソリから必要な物資を運び出し、そして荷物運びに参加しないヒトは列を作って待機。
家の内一つを借りて、治療開始。
カピヨンさんの部隊の人がお湯を沸かしたりしているが、実際何に使うのかはよく分からない。
どこかで引っ掛けたのか、斧でうっかり傷つけてしまったのか、鋭い切り口から出血のエフェクトが発生しているヒトには、
なんかパッド?のような物を貼り付け上から包帯を巻くと、
出血が治ったのだろう。エフェクトが消え、更にはフワフワと包帯から浮き上がる別のエフェクトは回復中を示す物だろう。
次は完全に足を引きずっているが、骨折かな?
棒を当ててバンテージを巻いている。
いずれも大き目の救急バッグの様な鞄から取り出しているが、アレが治療セットとかなのかな?
と見ていると、
お次は外傷はこれと言って見当たらないが、あからさまに青色が悪い。
「ソタロー君は<治療士>のスキルを持っていると聞きます。ちゃんと相手の症状を確認しなさい。<分析>も使うとなお効率がいいですよ」
なるほど、忘れてた。
ちゃんとスキルを使用し、確認すれば、最初のヒトは出血。次のヒトは部位破壊。今のヒトは中毒となっていた。
そして中毒のヒトにはなんと注射をブスッと打ち込む。
注射苦手なヒトとか辛いだろうな~と思ったが、
よく考えたら、そもそも剣とかでグッサリ突いたり、バッサリ斬ったりするゲームだった。
更には外の人達は顔色こそ良くないが、本当に何も問題無さそうと思って確認すると、
衰弱 となっていた。
衰弱はどうやって治すのかな~と様子を伺っていたら、
「こればっかりはお腹いっぱい食べるしかないですね。その上で治療します」
「お腹いっぱいですか?」
「ええ、その為に食料も沢山積んできましたからね。この手の辺境では何かと栄養不足に陥りがちですから基本です」
「カピヨンさんは料理も出来るんですね」
「まあ、東部輜重隊では必須スキルと言っても過言ではなかったので……、当時の隊長は料理も出来ましたが、何しろ限界まで歩かせる方でしたから、効率良く全員がお腹を満たすためには全員が料理の腕を磨くしかなかったのです。まあ大抵は疲れ切って隊長が100人分あっという間に作っていましたが、それでも満たしきれない分は自分で作れと、中々実践的な方でした」
「なるほど、料理は【料理番】で勉強はしていますが、まだまだなんですよね」
「ふむ、基本はあまり余計な事をしない事ですね。我々はこの青い瓶や赤い瓶を使って味付けをしてしまいます」
「あっ!それは!見たことがあります。その調味料はどうやって手に入れるんですか?」
「これは料理長から貰うしかないですね。料理長の頼みごとを聞けば代わりにもらう事ができますよ。とりあえず大量に作れるスープにしましょう。スープは青い瓶を使いますよ」
そういって、ソリから食材をどんどん運び出すので、自分は借りた包丁でひたすら野菜を切る。
食事が大事って話は前にも聞いたし、マイ包丁なんか作ってもらうこと出来るのかな~。