301.対邪神兵器
【古都】に戻ると兵長からクラーヴンさんを訪ねる様に言われたので向かう。
今やすっかり自分の装備はクラーヴンさんが作成しているものだと、NPCすらちゃんと把握している状態なので、別段変な話ではないのだが、正直ちょっと怖くはある。
何しろ、NPCから行くように言われるという事は、また何かのクエスト関連かもしれないという事だ。
最近は心踊る魔物もいないし強敵は望む所だが、いつだか闘技場で脳筋と戦ったり、社交界で戦ってみたりという事もあるから、ここは気を引き締めていこう。
ゴドレンの店に向うと、外になにやら残骸としか言いようの無い大きな金属の塊があるが、これは一体なんだろうか?
「ゴミでも拾ってきたのかな?」
思わず呟くと、何故だろうかゴミにしか見えない塊から、妙に敵意を感じる?
まあいいかと店の中にはいれば、ゴミバケツに車輪と杭とライトを取り付けたような、なんとも奇妙なオブジェが置いてある。
いつからこの店はこういう趣味になったのだろうか?
「イラッシャイマセ ソタロー【上級士官】殿 ご用向きは 国務尚書殿より依頼の 新装備の件ですネ?」
眺めていた変なオブジェから声をかけられて、一瞬脳がフリーズしてしまったが、これは前のからあるロボットか!
遂に完成したんだな!随分と流暢に話すようになって!
「実は用件は分っていないんですけど、兵長からの命令でこちらに伺いました」
「……兵長 【帝国】東部司令官に当る 【古都】の兵長で お間違いないですカ?」
「はい!間違いないです」
「おう!ソタロー、待ってたぞ。何やら急ぎの件らしいじゃないか?」
ロボットと話している内に後ろからクラーヴンさんから話しかけてきた。
「急ぎなんですか?自分はログインするなり兵長に言われて来ただけなんですが?」
「そうなのか?依頼主は例のお偉いさんだぜ。まあ俺のところに来る時点で察しているとは思うが装備の件だ」
「そりゃそうですよね。それで?何の素材を集めてくればいいですか?」
「あ?お前どれだけ報酬溜め込んでると思ってんだ。素材なんてのは全部お国の方から最高級のものが提供されるんだとよ」
「じゃあ、自分はなんで呼び出されたんですか?」
「ああ、それがな今回は二つ装備を作らにゃならんのだが、一応装備する本人の意見も聞かないとと思ってな」
「そうなんですか?それにしてもいきなり二つって……」
「ああ、それなんだがソタローは対邪神兵器を持ってるよな?何かそれを使って何やらを復活する為に何とかかんとからしいじゃないか?」
「白竜を復活させるクエストの途中ではありますよ」
「ああ、それだ。それでな対邪神兵器って普通は国が管理してるって知ってるか?」
「いえ、なんか邪神の化身のとき皆借りる事しかできなかったとかそんな話程度は聞いてますけど?」
「そうか、まあソタローも今回のクエストをクリアしたら国にその兵器を返さないとならん訳だ」
「そういう物だと言うなら、返却しますけど、それと装備に何の関係が?」
「あ~ここからは先方の話と俺のゲーム勘を混ぜた憶測になるんだが、どうやらソタローの対邪神兵器は次のダンジョンかなんかの鍵になってるらしい。だが兵器を鍵に使ったら当然ボスとは戦えない」
「まぁ……ボスが邪神の尖兵と同等の性質ならそうなりますよね」
「それでだな。どうやら鍵として使った後に、装備に対邪神兵器としての力が宿るらしいんだわ」
「はぁ……それなら邪神の尖兵と戦えるし、何の問題があるんですか?」
「いやだから、それを最終的には返却しないといけないわけだ。そうなるとソタロー用の大事な装備を国に渡さないとならなくなる。しかしソタローは今の装備を使うようになってどれ程経った?このゲームは何気に装備を使い込めば使い込むほど、使い手に馴染んでいくらしい。もしくは使い手が装備に順応するだけかもしれないが、いずれにしても装備をそのまま国に渡すってのはソタローの戦力ダウンに繋がるし、そうそう受け入れられるものじゃないだろ?」
「まあ、愛着もあるし、渡せと言われて渡せるものじゃないですけど、でもそういうルールなら渡しますよ」
「……ソタローも大概物に執着しないやつだな。まあいいそれでだな。返却しやすい様に対邪神の力が宿る用の装備を……」
「なんか長いですね……まあでも言わんとする事は分かります。返却する事前提の突貫工事で作った装備で、次のクエストに向かえばいいんですね?」
「ちげーー!俺が手を掛けてそんな中途半端な物装備させる訳ないだろうが!そこは最初に確認して、先方にも了解を得ている。【帝国】の歴史に刻まれる装備だから全力で作ってくれと言われてるってんだよ」
「えぇぇぇぇ……それならじゃあ自分はなんで呼び出されたんですか?」
「いや、この前のアップデートでスキル枠増えたろ?今控えになってるスキルがあるのかを聞きたくてだな」
「寧ろ枠余ってますけど?これと言って欲しいスキルもないし」
「よし、それなら装備スキルは不要だな。徹底的に強化につぎ込めるぞ……くっくっくそれなら邪神の化身後の技術を流用して……」
「あの、二つ装備作るって聞いたんですけど?」
「ああ、もう一つは普通に今のソタローの白装備、黒装備のパワーアップ版を作れって話だから、また追って話そう」
言うなり、既に次の装備の事に夢中になっているクラーヴンさんを尻目に、一旦帰る。