299.お喋りカトラビ街兵長
「ところで、なんとお呼びすればいいですか?」
「ああ、ここいらだと兵長で通ってるんだが、ソタローにしてみれば兵長って言ったら【古都】の兵長だもんな~……まあ、おっさんでいいぞ!」
「いや、おっさんって!兵長じゃ相当偉いんじゃないですか?そんな呼び方出来ませんよ」
「何言ってんだ。都の兵長と街の兵長じゃ雲泥の差さ~!俺なんかはど辺境の田舎もんだからな~まあこの街で生まれてこの街を守る事に誇りはあるが、偉いとかそういうのはちょっと分らん」
「でもさっきのお話だと、一応貴族なんですよね?」
「まぁな。一応この街の代表者の家系だな」
「何となくですけど、この街ってちょっと排他的な感じですか?」
「おっ分かるか?別に敵愾心が有るとかじゃないんだが、代々伝わる気風って言うのかね?【帝国】全体が独立気風の国だが、この街は街全体で共同体って感覚があるからさ。外に出た事無い奴も多いし、余所者にちょっと警戒心があったりするんだよな」
「あ~でもちょっと地方とかそう言う所ありますもんね。でもなら尚更この街の代表者をおっさんなんて呼べませんよ」
そんなこんな喋りながら、のんびりと街中を抜け、森の方へと向う。
よくよく見ると、カトラビ街の兵長はかなりラフな格好だ。
雪国だけあって温かそうではあるが、厚手のズボンにナガグツと分厚いセーターって……自宅か!
「そう言えばよ~ソタローは白竜様復活させたらどうするんだ?」
「どうって言うと?」
「そりゃ、白竜様復活って言ったらこの国じゃ歴史的偉業だぞ?何か望みはないのかよ?地位でも名誉でもさ」
「別にないですよ。上からの命令で邪神の尖兵を倒すだけなのに、望みも何も無くないですか?ただでさえ報酬渋滞して困ってるのに、別にいらないですよ」
「そう言う訳にはいかんだろ~よ~!この国の民の悲願だぞ?少なくとも【将官】は固いだろ……あれか?どこか都の一つでも治めてみるか?」
「いや、絶対いやです!何ですか都治めるとか!いやもう、報酬貰わない権利が欲しいです!」
「だろ?いやだろ?俺もなんだよ。この街を守る事に否は無いんだが、それで偉いとか何とかそんなのは面倒くさいんだわ。早く白竜様が復活して身分とかそんなもんに縛られない世界が来ないもんかね」
「……もしかして宰相派なんですか?」
「ん?ああ……そういうんじゃない。そういう派閥争いとかも面倒くさいんだわ。白竜様って言う超常的な俺達みたいなただのヒトじゃ抗いようの無い存在に上に立ってもらって、ヒトがくだらないどんぐりの背比べに血道を上げるような世界が変わってほしいって思うだけさ。そりゃ実力の順でそれぞれの役割が変わるのは別にいいんだがな」
「平等に実力を評価されたいって事ですかね?もしくは変な事でいがみ合ってないで、もっと【帝国】民同士協力し合えるようにするとか」
「いや、そんな立派なものじゃなくていい。いがみ合うこともあるだろうヒトなんだから、それでも今より自由ならそれでいい。土地に縛られず、地位に縛られず、自分の居場所を自分決めて、実力つけて欲しい物を手に入れる。シンプルでよくないか?」
「まぁ、言わんとする事は分かりますけど、つまり自由が欲しいって事ですか?確かにそれも夢の一つか……」
なんとも、とりとめの無い話しをしてしまったが、やはり白竜復活が鍵になるらしい。
そして、そのクエストを受けてる自分の所に色んな話がやってくるのは、つまりそういう事なんだろう。
白竜を復活させて、多分争いが起こる?
それも踏まえてのクエストに巻き込まれてしまったという事だ。自分が戦いたくないと言っても何も変わらないのだろう。
何なら本当に戦いたくないのか、自問自答する。
戦う事が嫌という訳じゃない気がするのだ。寧ろここまでつけてきた実力をぶつけられる相手がいるならそれは、楽しそうだ。
だが、今迄協力してきた【帝国】のヒト達に自分は恩恵を受けこそすれ、嫌な目に合わされたことは無い筈?
つまりお世話になってきたヒト達の不利益になる事をするのが、気がひけるだけ。
でもよくよく考えると、今の体制のままじゃなきゃ困るっていうヒトに会った事あったか?
別に現状でも不満ではないよ?っていうヒトはそれなりにいたが、逆に体制を変える様な事は反対だ!
なんてヒトはいなかった気がする。
つまり、今の体制がベストって訳じゃない?国の体制を変える事も、別に特段悪ではないのか?
いや、寧ろこのまま白竜を復活させれば、変わっちゃう。でも自分にそのクエストが振られてるのだから、これはゲーム的確定未来!
うん、難しい事は考えるのやめよう!変わるなら変わってしまえ【帝国】政治。
国民全体の悲願である白竜復活に心血を注ぎ込む事が、今の自分に出来る事だ。
そうと決まれば、やる事は一つ!最大筋力で暴れるのみ!
丁度、森奥に見慣れた石が地面から生えている。
「じゃあ、行ってきます!」
「おう!国民の悲願の為にも逝ってこい!応援してるぞ!」
楔の石をぶん殴り、地面が割れる。