297.カトラビ街
【古都】から北に進めばチーリィ川に出る。
極寒に近い環境ながら凍りつく事のない不思議な川は、住むヒトの少ない【帝国】北部を支える水源だ。
ヒトが少ない所為なのか、誰もが大事にする資源だからなのか、そのままでも飲めそうなほどの清流が静かに流れ続けている。
そのまま西に向って川沿いを下り続ければ、徐々に周囲の視界が開けていく代わりに、正面には山が見えてきた。
【帝国】東北部は高低差があり、チーリィ川は渓谷の低きを流れる川となっているものの、
【帝国】中央北部まで行くと周辺が平坦になる代わりに、カトラビ街がある山が聳え立ち、圧迫感に気押される。
まるで川を堰き止るように位置する山だが、近づけば川の水を真っ直ぐ引き込むように山にトンネルが掘られいていて、トンネルの入り口には衛兵が立ち、自分達の用向きを聞いてきた。
「見るからに大仰な陣容だが、どういった要件だ?」
「【古都】からの【輸送】任務で来ました。中隊で荷物を引っ張ってきただけですが、人数が多すぎましたか?」
「いや、普段は部隊での【輸送】が多いからな念の為の確認だ。縦隊になり進むといい」
うながされるまま、自分を先頭に一列になってトンネルに進むと、流れる川沿いに道が一本、ヒトが行き交うのがやっとの絶妙な狭さとなっている。
トンネル内部には雪が無く、アリェカロにひかせたソリを押さねば進めない。
確かに行軍がしづらく、守りに堅い地形かもしれない。チャールイが言ってた大昔の戦争の話を思い出す。
トンネルを抜ければ、妙に明るく感じて空を見上げるが、やはりいつもの【帝国】の曇り空だった。
街とつくだけあって、中々広い土地のようだが、周囲を山に囲まれ少し息苦しい気もしなくはない。
小さいながらも畑がいくつか見え、更に工房らしき建物も散見される。
どうやら山に隔たれたこの街内部でも、ある程度成り立つように設計されているのではなかろうか?
ヒトの多い密集した街と言うよりは、生活のしやすい田舎街というイメージが近い気がする。
【輸送】隊が辿り着けば大抵の街であろうと町であろうと喜ばれるものなのだが、そこまで歓迎ムードでもないという事は、余所者に対して多少排他的な空気があるのか、または生活に困窮すると言う事が少ないのだろう。
荷物は役場に卸し【兵士】達は、この街の【兵舎】へと向わせた。
一部の【兵士】達は部隊に分けて別の任務に付いてもらう。
自分にはもう一つの任務がある為、街を探索。すぐに楔に向かうにはちょっと今日のログイン時間としては中途半端だし、何より今回は一人で攻略だ。慎重に行きたいと思う。
街内部をフラフラと歩いていると、やはり生活に必要な建物が中心で、大抵の住人は街を維持する仕事に就いているようだ。
正に生活する為、食う為の街と生活があり、地に足がついているという言葉がしっくり来るスタイルに、何となくほっとしてしまう。
壁のように聳え立つ山に近づくと、内側から見る分にはいくらか傾斜が緩く段々畑が広がっていた。
緩い階段の様に広がる畑、畑の間に小川のような細流が見えるが、山のかなり上のほうから流れてきている。
ある程度高い所まで上り、街を見下ろせば、チーリィ川が街の中心を分断するも、全体としてまとまりのある美しい街並み。
向かい側の山部には森が見えることから、木の産出量に関しても生活に必要な分は伐採できるのだろう。
心なしか雪の降り注ぐ量が少なく感じるが、それでも薄く積もる雪の反射が山に囲まれた街全体を明るくしているようにも見える。
水と畑があるから生命維持には事欠かないだろうし、あとは鉄をある程度内部に保有していれば、立て篭もるのにはこの上ない地形だ。
仮にチーリィ川上流から毒を流されても、周囲の山から流れてくる小川の水がある。
多分これは山部から溶け出す雪水だろう。
あとはトンネルを通らずに山から敵が攻めてくる場合だが、これは見るからに無理がある。
外から見た限り、かなり切り立っているように見えた山を登れるヒトなど早々いないだろうし、いたとしても数は少ないだろう。
つまり、この街内部に立て篭もる【兵士】を駆逐できるほどの人数を送り込む事は不可能に見える。
よっぽど単騎戦力が高く、あらゆる地形を踏破する様な理不尽な存在でもなければ無理だ。
例えば赤竜の化身なら、空も飛べるし戦力としても申し分ないかもしれない。
街内部戦力をまとめるにしても、赤竜の化身と戦う戦力を集め、内部で戦闘など到底無理だろう。
多分戦争時代は、トンネルで力押しにしたのか?白竜が上から攻めたのか?それくらいしか、思いつかない。
一応、戦力分析が済み自分なりに街の状態を納得できた所で、食事にしよう。
この街の名産は根菜類と葉野菜だ。家畜や蛋白質関連は鶏卵が中心、あとは豆類も少々作っているか?
うぅぅむ……本日は大根だな!
まずは葉っぱを細かく切って、油を引いたフライパンで炒める。味付けはシンプルに塩と生姜だ!
そして、大根の主役である白い根っこ部分!
ここはもう、鶏肉と一緒に炊く他ないだろう!
スープ用の青い瓶、鷹の爪、塩で煮るだけだ。
出汁とかの取り方が分からない自分には、やはり料理長の調味料が万能すぎて助かる。
やや洋風の仕上がりにはなるものの、そもそも材料がシンプルなので、変な味にはならない。
あとはこれで米でもあれば!とも思うが、自分の隊では基本パン。
何しろパン職人志望がいるので、美味しいパンが食べられる。
山に囲まれた、雪の街の木陰でのんびりご飯としよう。あとは【兵舎】で寝るだけだ。