295.内乱計画
「ひっくり返すと言う事は、国務尚書側の言い分が正義になる方法が有るって事ですよね?それならわざわざ国を割る必要ない気がしますけど?」
「保守にも改革にも正義など無いよ。どちらの方が各々にとって都合がいいか?結局ヒトは利と理で生きるものだ。無論それ以外がないとは言わない。しかしヒトを動かそうと思えば利と理に焦点を当てるべきだ。それ以外の部分を握っているのはそれぞれ本人であり、他者がどうこうできる物ではないのだからな」
「じゃあ、その利と理でヒトを動かす事と、国を割ると言うのはどう繋がるんですか?」
「この国の者が納得しやすい理で、皇帝陛下を排斥する。その上でそれが人々にとって大きな利があると示す。それが皇帝陛下排斥計画の大義となる」
「……白竜様を皇帝に即位させる?ってやつですか?」
「その通りだ。ヒトがヒトを裁き治めるなどという事がそもそも歪んでいるよ」
正直、危険思想な気がするけど、好きにやったらいいと思うのは自分だけだろうか?勿論現実でそんな事があれば大変なことだが、これはあくまでゲーム内に設定されたイベント的な物だし、多分NPCが大勢死にます!とかそんな話では無さそう?
そもそも邪神の化身を倒して何やら輸送路になる道を作った事で、この国がどんどん貧しくなるのが問題な訳だよな……。
あれ?それって隊長が悪いんじゃない?隊長に何とかさせればいいじゃん!
「あの、白竜皇帝がこの国のヒト達にとって自然な事ならそれでいいと思うんです。白竜復活の為に楔の邪神の尖兵を倒すのも請け負いますけど、ただこの国が貧しくなる一因って隊長ですよね?あの人に手伝わせればいいんじゃないですか?」
「うむ、そもそもこの話の発端は何故白竜様復活を急ぐのかと言う話だったな。正にその隊長が問題なのだよ」
うっわー、あの人本当に問題だらけだな。また指名手配にでもされるんじゃないだろうか?
何か慣れてきて、可哀想とかそういう感情が全く湧かなくなってきた。
「それで、白竜復活を急ぐ理由というのは?」
「うむ、隊長が行方不明になってくれたと言うのが、こちらとしては非常に都合がいい。皇帝陛下排斥の障害として、最も不確定要素が大きい相手だ。出来れば今にも動きたい程に焦れている」
「そんな危険人物扱いだったんですねあの人……邪神の化身討伐の立役者だし、もっとこの世界では慕われているのかと思ってました」
「いや、慕われてはいるさ。この国に所属しながら指名手配という逆境を跳ね除けて世界の危機を救ったのだから、この国の者にとっても英雄だろう。だが、隊長がこの国にいた時間は短い。この国の者の心情の深い部分に寄り添ってきたのはソタローの方だろう?直接的に中隊級ボスを討伐してきたのもソタローだ。そして長年の悲願である白竜様復活をここまで進めてきたのもな」
「はぁ、まあ偶々言われるままにやってきただけですけど?それより、あの人が危険人物である理由がよく分らないんですけど」
「うむ、つまりこの国の者の心情を深く理解しないまま、表面的な理由で皇帝陛下につきかねない事。戦闘能力及び経済能力で一個人としては絶大すぎると言う事。何より利と理じゃない理由で動くタイプだと言う事。それでも多くのものから慕われ支持されていると言う事。邪神の化身討伐直後のこのタイミングで行方をくらませてくれた事は本当に好都合でしかない」
「なるほど、積極的に排斥するのは難しい厄介な相手って事ですね。でもそれなら自分を含めてニューターの手の届かない所で解決しちゃった方が良さそうな気もするんですけど?」
「そうは行かない。何しろこの計画の大義は白竜様を皇帝に即位させる事で成り立つのだ。その復活の立役者であるソタローが私の陣営につく事で、多くの者も納得するだろう。国家体制変更の暁には内政のトップは私が、軍のトップにはソタローになってもらわねばならない」
……何言ってるんだ?このヒト……。
「それが一番寝耳に水なんですよ!なんで自分が軍のトップに?」
「勿論形ばかりで構わないし、好きに行動してくれて構わない。言うなれば隊長が【教国】の第13機関の機関長の肩書きを持つのとなんら変わらない」
「んな!頭が何かくらくらして来たんですけど、ええ……意味わかんない」
「まぁ、落ち着くのだ。ソタローは以前言っていたな?もう少しこの国の人達が自由に夢を追えるたらいいのにと。そして私は答えたはずだ、それにはこの国は貧しすぎると。農家の次男三男が食い扶持の為に危険な軍に身を投じなければならない現状が、それをさせないのだと」
「確かに言ってましたね。つまり国を二つに割るというのが、それを解決する手段だという事ですか」
「そうだ。そして何よりその人々の夢と言うのが、ソタロー君自身なんだよ」
「な、なぜ?」
「それは一介の【兵士】が白竜様復活を成し遂げ、将軍と呼ばれる英雄となるからだよ」
「自分が、ヒトの夢に?耐えられそうもありません。誰か別のそういうのが得意な人に押し付けましょう!そうだ!隊長なら山程そういうのくっ付いてますし、一個くらい増えても多分大丈夫!皇帝陛下排斥とか言う危険なことはやめて、国務尚書と隊長が手を組んで産業改革すれば、それは多分凄い事になるんじゃ!」
「……ソタローはそれでいいのか?勝手我侭理不尽無責任を地で行く者の後塵を拝し続け、君自身が守ってきたこの国の事まで預けてしまう。それを納得するのか?いつ『イライラしたからやった』とか言い出しかねない男に、任せる事が出来るのか?」
隊長……何も言い返せないよ。なんであんたもっと普通のまともな人じゃないんだ。