294.久々【輸送】任務?
邪神の尖兵を倒して、次のログインの事。
大抵いつも休みがあるので、闘技場にでも行こうと思ったのだが、受付に向うなり兵長に声をかけられる。
「ソタロー【輸送】任務をやって欲しいんだが、時間はあるか?」
「それはまあ、別に問題ないですけど、珍しいですね自分に【輸送】任務なんて」
「そうだな、ソタローが移動任務が苦手なのは分っているが、どうしても手が足りなくてな。何しろあいつがまたどこぞへと行方不明だろ?」
「ああ、隊長ですね。あの人はもう、そういうもんだと思ってるので、いいんですけど。それよりただの【輸送】に国務尚書が来てるのがおかしいですよね?それともこの前の報酬の件ですか?もう報酬が渋滞しちゃてんるんですけど……」
そう、ログインするなり国務尚書と顔を合わせるパターン。いつもなら報酬で国宝のレプリカとか渡される所だが、何か今日は不穏な感じ?
「報酬についてはソタローが必要とする物を言えば、最大限配慮しよう。いつでも言ってくれればいい。それより今回の【輸送】はカトラビ街だ。そこには最後の楔がある」
「ああ、そっちの任務も兼ねてるから国務尚書自らお越しに……、今迄そこまで煽らなかったのに、何か問題でも起きたんですか?」
「その話をしたいので、一旦会議室に向おうか」
そう言って国務尚書が先に会議室の方に向かうので、後ろをついて行く。
相変わらず、狭くて機密性の高いだけで飾り気もない小部屋。
まあ会議室だし、外に情報が漏れなければそれでいいのだろう。あとは何時間も話をする事もあるのだろうから、【帝国】の気温でも寒くならないように配慮されているとか?
国務尚書にうながされて着席するとすぐに話が始まる。
「さて、白竜様復活を急ぐ理由だが、一つはこの国に住む者の悲願だからだ。その理由だけで行く価値のあることだと思うが、もう一つ大きな理由がある。そしてそのもう一つを聞いたら後戻りは出来なくなるが、どうする?聞くかい?」
「じゃあ、聞かずに向おうと思います」
「くっくっく。残念ながらソタローには聞いてもらう。私の計画にソタローの存在は不可欠だからな。ちなみにもし賛同できないなら、ソタローはソタローで独自に動いてもらってもいい」
「ええっと、それは裏切ってもいいって聞こえるんですけど?」
「無論、私としては困る。しかしソタローとの信頼関係が無ければ出来ない計画だ。だからこそ腹を割って話したい」
「わ、分りました。話を伺います」
「私はこの国を割ろうと思う」
「……は?【帝国】を二つにするって事ですか?西帝国と東帝国とか?」
「いや、違う。前にも話した通り、私はこの国の産業体制を大きく変えたいと思っている。しかしその案は正式に皇帝陛下に却下された」
「だからって国を割っちゃまずいですよね?多くのヒトに迷惑がかかりますよ?」
「うむ、勿論案が却下された腹いせとかそういう事ではない。この国の未来を考えた時、今のままでは完全にジリ貧であり、衰退していく未来しか無いから、体制を変えようとしているのだよ。しかし余りにも保守的な皇帝陛下の一存で何も変わる事の出来ない現状を変えようと言う話だ」
「つまり、皇帝陛下が変化を受け入れられないタイプだから、引きづり降ろす?皇帝陛下ってそんな駄目な感じなんですか?お会いした事無いから分らないんですけど、悪政をしくタイプ?」
「いや、非常に現実的で勤勉かつ奢侈に溺れないお方だ。理想的君主と言っても差し支えないだろうな。だが、慎重すぎる性格ゆえにこれから必ず来る未来に付いていけない。それならば悪評が立つ前に排斥しようという事だ。何なら後世の悪評は私が全て受け持つ」
「はぁ、ええと……。何処から整理すればいい話なんだ?まずあれ必ず衰退するって言うのは?」
「うむ、我が国はただでさえ貧しい国だ。それが【王国】に出来た交易路のお陰で今は潤っているように見えるが、今後は貿易の中心から外れ、どんどん衰退していくと言うのが大方の予想だ。私に限らずな」
「まぁ、木と鉄は大量に有っても、特産は無いですからね。病気に強い土地で療養地にされてはいても、観光地としては雪しかないし。鄙びた田舎国家である事は認めますが」
「だろう?だから軍及び農家から工業者へと労働の比重を変える事で、新たな国家体制を作ろうと言う構想なのだが……」
「仰る事に無理があるとは思わないんですけど、なんで賛同者がいないんですか?流石に皇帝陛下といえども、大人数から進言されたら多少なり飲むしかないんじゃ?」
「賛同者は少なくはないが、多くもない。何しろ皇帝陛下が優秀すぎるのだ。皇帝陛下の決定をこそ信じるという者が少なくないのだよ。何しろ建国以来の武官国家だ。上が横暴でなければ素直に従うのが習い性になっている。上が優秀なら尚更盲目的に信じる性質が、この事態を招いている」
ふむ、誰が悪いわけでもない。でも将来の事を考えるならやるべき事がある。
「でも、話を聞く限り国を二つに割る?って言うのは失敗しますよね?」
「どうしてそう思う?」
「まず、皇帝陛下の支持が堅いので、乱を起こそうとする国務尚書が悪者になりますよね?将来について危惧しているヒトも少なくはないが多くは無い。つまり現体制でも打てる手を打っていくような中間的考えのヒトも少なくないと思いますし、そういうヒトからすれば、寧ろ現在に危機を呼び込もうとしてる国務尚書こそ、敵になる。そして失敗すれば、やっぱり皇帝陛下の保守的な考えこそ正しいんだって事になりそうな気がしますけど?」
「ソタローは『脳筋』の称号を持つだけあって、やはり戦力分析にも長けているな。それではそれらをひっくり返す話をしよう」