293.邪神の尖兵戦応援付き
フルフルと震える邪神の尖兵に近づいていく。
そろそろ間合いかというところで、これまでの試練で手に入れた対邪神装備を手に握りこみ、剣と盾を作り出し、足と胴に氷の防具を纏う。
寒いのはいつもの事の【帝国】にもかかわらず、背中に悪寒が走り、警戒心を高めると、
ぶよぶよの塊が解けるように展開し、細い紐状になって壁を伝う。
まるで蛇かミミズのようで、生理的嫌悪感を感じるが、今回は何の水棲生物だ?うなぎ?
しかし浮くでもなく、壁に引っ付いた状態なのはどういう事だ?
何にせよ攻撃してまずは体積を減らす。それから核を見つけて潰す。この行程は変わらない。
どうやって邪神の化身に攻撃を仕掛けようか、それが問題だ。
近づくなり逃げるように壁の高い位置に引っ付いた邪神の尖兵は一向に攻撃を仕掛けてこない。
「やはり出番のようだな。今から砂を生み出すから、それを足場にして敵を倒すがいい」
「マスク・ド・ツタンさんはこの状況を予想してたんですか?」
「いや、全く!」
ですよね。でも渡りに船とはこの事だ。足場を作れる術士と一緒に来れて運がよかった。
マスク・ド・ツタンさんがフロアの中央に立つと、手に持った槍を地面に突き立て、
その槍先から茶色いエフェクト共に湧き水の様に足元から砂がぶくぶくと噴出す。
すると、それまで沈黙していた邪神の尖兵が、急に蠕動し始める。
頭部と思わしき、短い触手が無数に生える部位が迫ってきた所を剣で迎え撃つと、
口と見られるぽっかりと穴の開いた部位が大きく広がり、マスク・ド・ツタンさんと自分を一緒に囲い込んだ。
迫る壁の様にズブズブとその口をすぼめてきた所を剣で切り裂く。更に鉤爪のついた足で引き裂き、盾でぶん殴ればドバッと破壊された邪神の尖兵の部位が爆ぜて蒸発する。
無事邪神の尖兵の口を破壊して、ちょっと引いた所で頭部の再生を始めた邪神の尖兵をよく見ると、壁にくっ付いていたであろう部位には小さな足らしき物が蠢き、更に生理的嫌悪感を感じてしまう。
最早これがどんな生物を模したのか分らないが、とにかく一秒でも早く倒してしまいたい。
その間もジワジワと足場が盛り上がるが、不思議と沈む事も無く砂の盛り上がりに押し出されて邪神の尖兵が張り付いた高さに向かって行く。
正直な所、これだけの砂が生み出せるのなら水路を通らず、上から砂で埋めちゃえば良かったのにとも思ってしまう。
まぁ、横着しても碌な事にはならなさそうだし、文句を言う間があったら、邪神の尖兵を倒す方法を考えた方が建設的だ。
それにしても消極的な敵だ。移動が苦手な自分としてはこういう敵が一番面倒くさい。
本当ならぐいぐい押して押して押し潰す方がやりやすいけど、逃げられるのは本当に苦手!逃げるな!向って来い!
いくら願っても、壁沿いをジワジワと逃げていく邪神の尖兵が本当にいやらしい。
「むぅ……ここが限界だ。あとは維持がいっぱいいっぱいだ。すまぬ」
「いえ、ここまで押し上げてくれただけでも助かります!ありがとうございます」
遂にマスク・ド・ツタンさんの術も限界、邪神の化身は壁に張り付いて高みからこちらを見下ろしている。目は何処にあるか分からないが……。
「ふっ!それなら俺の出番だ!俺の歌を聞けーーーーーーーーー!」
いきなりロックレッドさんが叫ぶと、フロア中に歪むよなエフェクトが広がり、邪神の尖兵も大きく波打ち砂の上に落ちてくる。
すぐさま壁際に走り寄り、手近な部位を剣で切り裂く。
細長くなったのが運の尽き、切り落とされた半分が蒸発しながら消えていった。
そのまま、一気に体積を減らした邪神の尖兵を倒してしまおうと思った所で、いきなり飛び上がり、頭から砂に激突するかと思いきや、そのまま砂に潜り込む邪神の尖兵。
水棲生物だと思ったのに、砂にも対応してるのかよ!
折角足場を作ってもらったと言うのに、寧ろその足場を利用して逃げる邪神の尖兵だが、ここで足場を消してしまうのは早計だ。
そんな事をすればまた壁にくっ付いて、逃げるに決まっている。
しかし、砂の中を逃げる邪神の尖兵を追う手段もない。さてどうするか?
「ふっ!分っているぞ!絶望に打ちひしがれるヒトがいるのなら、照らし出そう!希望と言う名の光の道を!太陽光線!!!!」
何を分ったのか?ランタンになっていた冑から、バイザーをしていなければ目が潰れるような激しい光を放ち、足場の砂に光を当て始めるプロミネンスレッドさん。
みるみる赤熱し、ダメージを負う。
じりじりと生命力を削られていく内に、足元から飛び出してきた邪神の尖兵を剣で切り裂く。
やぶれかぶれで反撃してきた所を盾で受け止め、もう一発殴る。
足の鉤爪で邪神の尖兵の胴体を固定して、更に切り裂き、やっと見えた核。どうやら胴体のど真ん中に潜ませていたらしい。
思い切り核をぶん殴れば、そのまま溶ける様に蒸発していく。
邪神の尖兵独特の臭いだけを残して、煙になって消えていき、何となく無言でフロアの奥に向うといつも通りの隠し道。
今回はいつも以上に長い階段があり、そこを抜けると太陽の光が迎えてくれた。
何となくほっとして、溜息一つつくと、
「なるほど、ソタローの邪神の尖兵戦はこういう感じなのだな」
「え?何のことですか?」
「邪神の尖兵はプレイヤーによって関連クエストや形状がかなり違うのだ。プレイヤー毎に割り振られた邪神の尖兵を全て倒すとその恩恵もかなり大きいらしい」
「そうだったんですか。ちなみに何体くらい割り振られる物なんですか?」
「それは本当にプレイヤーによる。何しろ集団で倒す事前提の場合もあるしな!クランなんかに入ってるとその傾向は顕著になるし!」
どうやら、ヒーロー達は邪神の尖兵の事を知った上で手伝ってくれたらしいが、じゃあなんで対邪神の尖兵装備を持ってないんだ?