292.ヒーローと水路
試練の祭壇から奥へ暗い道(プロミネンスレッドのヘッドランタンのお陰でかなり明るい)を進む。
そして道を抜けると広い空間、先頭を歩いていたプロミネンスレッドが、落っこちそうになった所を三人で引き上げる。
「ここは一体何の広間なのだ?上は何か光が揺らめいてるし、下は真っ暗……」
プロミネンスレッドさんが聞いてくるが、自分もよくは分かっていない。
どこも同じ造りである事から、意味があるのだろうと思うが、現状何のヒントもない。
「すみません、分りません」
「こいつは照れ隠しで言ってるだけだから、あまり気にしなくていいぞ。しかし人工物であることは分るがなんというか……」
「人目にうつる場所ではないだろうな。施設と言うより、設備のような地下空間だ。上に水があると言う事は下水道?それにしては近くにヒトの住まいなどは無い場所だし……」
「一応下に降りるために坂道を下る事になりますが、階段の様なヒトが使うような形状になってないので、水路じゃないか?と言うのは当ってるかもしれません」
「まあ、取り合えず今は邪神の尖兵攻略だ!下へ向おう!」
言うなりプロミネンスレッドさんが再び大穴に飛び降りようとするので、抑えて横穴に連れて行く。
「ふむ、確かにこれは水路のようだ。見ろこの横穴は小さすぎてヒトじゃ通れまい」
マスク・ド・ツタンさんが言うと中から、糸をひく腐った魚に細い針金の様な足が生えた奇妙な生き物が出てきた。
マスク・ド・ツタンさんが大きく息を吸った所で、黒い犬が腐った魚を突き飛ばし、プロミネンスレッドさんに当る。
「え?何これ?気持ち悪い!」
手に持った大剣じゃなく、素手で振り払い地面にベシャッと潰れる腐った魚。
追い討ちのようにロックレッドさんのマイクから火の玉が出て腐った魚を焼き尽くす。
どうやらロックレッドさんは<火精術>も使えるらしい。
つまりマイクは杖であり、声を使った術の媒介でもあるのかもしれない。
そう言えば、ちょっと前の運営イベントで金銀銅の魔物が出てきた時に、変な形状の武器がいっぱいあったし、その中の一つか?
そんな事を考えつつ、水路を下へ下へと向かうが、アンデルセンさんと前回来た時と違い、妙にリアクションの大きなヒーロー達は、どんな敵にもちゃんとリアクションとコメントを落としていく。
ある意味とても律儀で、真面目にゲームをしているのか?
蟹の泡で装備が削られると知るや、全力で逃げる。魚やザリガニは全力で倒す。
どれもこれも邪神の尖兵の影響か異形化しているが、この三人にかかればただのネタに過ぎないらしい。
キャーキャー逃げ回ったり殴りつぶしたりして、とても楽しそうだ。
「なぁ、何となく分ったぞ」
「何がですか?」
「この水路だが、多分どこかに向って伸びてるんだ。蟹はその何処かに向う水路を塞いでるんだ。さっきから同じ方向に向いた時に蟹が出てくるから間違いない」
「つまり、ここから何処かへ水を運ぶ為の施設って事ですか?一体何のために?」
「理由は分らん!だが構造だけ見るならさっきの大穴の所に水が溜まり、あそこから何処かへ水が流れるのだろう。そしてここは水路でありながら、水路のメンテナンス用通路にもなっているのだろう」
「へ~!なんでそんな事が分るんですか?」
「それは現実の……ヒーローの勘だ!」
どうやら現実の方の仕事の関係らしいが、そういう事はあまりつっ込まないのがマナーだろう。
つまり、楔の邪神の尖兵を全て倒したらば、何がしかのギミックを使って水を何処かへ流し込むと言う事?
面倒くさい……。
結構辺鄙な所にある楔をまた一から廻ってギミック動かすとか、それはさすがに面倒くさい。
出来る事なら、誰かに仕事を任せたい!国務尚書にお願いして【兵士】派遣して貰えないだろうか?
邪神の尖兵を倒したのだから、普通の【兵士】でも出来ない事はないと思うのだが、あまり勝手な事は言えないか。
そして、辿り着く最下層。
相変わらず楽しそうな三人だが、ここは正念場だし流石に気を引き締めて……。
「ここが最下層か!邪神の尖兵と戦う為の準備は無いので、あとはソタローに任せる他ないが、出来る限りの支援はしたい!どうする?」
「いや、どうするもこうするも、ここまで送っていただけただけありがたいですよ」
「ここは砂で埋め尽くして、敵の動きを……」
「自分の動きも封じられるので、困ります」
「ならば!やはり音楽の力で!ソタローを応援しよう!」
「集中したいので、ちょっと静かにお願いしていただいてもいいですか?」
「うむうむ、つまり!黙ってるのが一番良さそうだな!頑張れソタロー!」
「頑張るといい」
「頑張れよ!」
最終的に本当に応援だけになり邪神の尖兵がフルフルと蠢く、広場に進む。