表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MONOローグ~夢なき子~  作者: 雨薫 うろち
西帝国動乱編
290/363

289.温泉騒動

 お互いに顔を見合わせる。


 温泉が湧いたという情報は事前にあった筈なのに、いざとなったら皆日和るって言う?


 「あの……調査に来たんですよね?取り合えず温水はありましたけど、どうやって調べるんですか?」


 「調べるように言われてはいるんですけどね~。ありました!って報告しただけじゃ駄目ですよね~」


 ルークはちょっとおどけているが、やっぱり雪のど真ん中に湧く温泉はちょっと怖いらしい、警戒する様子が透けている。


 「分りました!自分が行きます!自分なら死ぬ事はありません!」


 「すみませんソタロー……骨は拾います」


 「ソタロー……、辛ければすぐに出てもいいからな?」


 やたらと心配されるが、つまりそういう事だろう!プレイヤーである自分が入れと、そういう事だ!


 まさかに雪のど真ん中で裸になる訳にもいかず、服のままお湯に入っていく。そもそも初期装備のパンツだけは絶対脱げない仕様だし。



 「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 「「「「ソタローーー!!!!!!????」」」」


 「あったか~~い」


 近くで見ると、うっすら色づいたナトリウム温泉!ついさっきまで、かじかんでいた指先にジンジンと血流を感じる。


 凍えて力が入りすぎ、触れるもの全てを壊していたあの頃が、今はもう昔の事のようだ。


 何をそんなに力を入れる必要があったのだろうか?


 今はただゆるーーーく、重力に任せて体を引かれ、浮力に任せて浮くのみ。


 力が抜けて柔らかくなる体、肉体と精神が世界に溶け込んでいく……。


 温泉と言う媒介を通して、自分は世界の一部なんだと魂が理解し、安心感に満たされていく……。


 「え?冷たい!」


 気がついた時には温泉横の雪の上に投げ出されていた。


 しかし火照った体に染みる冷気が、心地よい……ああ整う~~~。


 「ソタローーーーー!大丈夫ですか?ソタローーーー!!意識取り戻してください!!!」


 「はうわ!な、何ですか?一体」


 「何ですか?じゃないですよ!温泉につかったきり、何を聞いても反応しないし、一体どれだけの時間温泉につかってたと思ってるんですか?仕方ないからロープ引っ掛けて引き上げたのに、『トトノウ!』とか言い出して上の空だし!」


 「ああ、すみません。あまりの気持ちよさに夢中になってしまったみたいで、でも危険は無さそうですよ?それどころか凄く気持ちがよかったです」


 「それよりソタロー、濡れたまま引き上げられたのに体は何ともないのですか?」


 「はい!すっかり整って、何の問題もないです。なんならここ最近の筋肉スランプも治ったかもしれません」


 「いや、はは!まさか筋肉のスランプまで治るなんてそんな……俺も入ってみるわ!」


 軽量で素早く柔軟な筋肉を持つルースィさんが、次の挑戦者らしい。


 皆心配そうな顔だが、自分だけは全身がすっきりとしていて、何の不安もない。


 ここは、何か温泉の後に食べる物でも作っておこう。


 冷たいものにすべきか温かい物にすべきかそれが問題だ。


 温泉で温まり、雪で冷やす。その後に食べる物は……鍋かな?


 ここは、白菜と豚肉……は無いので、アリェカロ肉でミルフィーユ鍋としゃれ込もう。


 作り方は簡単!白菜の間に肉を挟んで鍋に敷き詰めていく!


 そしてスープ用の青い瓶の調味料を振りかけて、水を入れて炊くだけ!


 ルークが物凄い形相でこちらを見てくるが、これは整ったヒト用のご飯だ。


 いつの間にやら雪に放り出されてたルースィさんが、至福の顔で雪の上で転げている。


 「確かにこれは、いい。時には雪の中で何時間も伏せ続けなけりゃならない体に、溜まった緊張感が全て抜け落ちて、すっかり楽になった」


 「じゃあこれどうぞ!」


 トドメの鍋を振舞うと、まるで光を帯びるかのように、すっきりとした表情のルースィさん。


 ちなみに師匠のようにキラキラを発する訳ではない。ただ肌つやといい、目には見えないオーラといい、光り輝いているのは間違いない。


 そう確信させるだけの雰囲気の差がある。


 「それ自分も食べます!」


 言いながらルークも装備のまま、温泉につかり溶けていく。


 次はスペーヒさん。最後にカピヨンさん。


 一通り全員温泉が終わると、どうやら納得したようだ。この温泉で筋肉のスランプが治ると言う事……。


 「これはいい湯治場になりますね。蓄積したダメージや疲労に効くようですし、確かに整うというのがしっくり来ます」


 「少々不便な地ですが、療養にもってこいでしょう。上に進言してみましょう」


 「問題は軍で使うのか、一般に開放するのか……」


 「それは一般に開放するんじゃないですか?国内の労働者が健康になればそれだけ生産性が上がるし、他国から療養に来てるヒト達に解放すれば収入源になりますよね?軍で独占するのは勿体無いと思います」


 個人的にはちょくちょく来てみたいのだが、正直今のまま装備でつかるのは現実の方の温泉や銭湯になれてる自分としては気持ち悪い。


 絶対脱げないパンツは仕方ないとして、せめてパンツ一丁で入れる方法はないかと思いつつ【古都】に帰還。


 ログアウトしてホームページのアップデート情報を確認したら、絶対脱げないパンツは格安の有料装飾として色柄変更可能になっていた。


 完全に見落としていたが、温泉を見つけた以上、温泉用パンツを選ばねば!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 温泉用パンツ 肌色?(゜ー゜)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ