284.一方【古都】【兵舎】裏
数日間のアップデート後の事、
「おい!やっぱり現れないか?」
「おっ!ガンモ!さっぱりだぜ。やっぱりこの騒ぎだし、どこかに一旦身を隠してるんじゃないか?何しろ相手は元指名手配で、しかも全く足取りすら掴ませなかった、かくれんぼマスター」
「何勝手に変な称号作ってんだよ。でも俺もちょっと賛成だな。何より周りが一斉に新要素を試す為に動いてるのに俺達だけ、こんな地味な見張りやっててもさ……」
「つき合わせちまって悪いとは思ってるけどよ。結局俺達今回の世界変遷級ボス戦も全然活躍できなかったじゃねーか!このまま続けて本当に強くなれるのか?毎日毎日そればっかり頭の中でぐるぐる廻っちまってよ!」
「そりゃあ俺もそうだけど。でもだからって何で隊長襲撃すんの?」
「そうだよ。隊長って魔将の時もあっさり見逃してくれたし、変わり者かもしれないけど、実は器の大きい奴なんじゃないの?」
「そりゃ格上な事も、悪い奴じゃないんだろうって事も分かってるんだよ。じゃなきゃソタローだって隊長についてかないだろ?多分。でも今回馬鹿共が隊長に喧嘩売っちまって、また雲隠れだ。俺だって本当は素直に下手に出てだな……」
「雲隠れしたのに、何でここで張るのさ?やたら確信的に【古都】の【兵舎】だ!って言ってたから、ずっと交代で張り付いてはいるけど、三人じゃ完璧とは行かないし」
「まあ、隊長のログイン時間帯ってアンデルセンさんと近いって噂だから、おおよその時間帯は学生の俺達なら十分張り付けるけど、でもそろそろ出てきてくれないとレポート提出もあるし」
「いいかよく考えろ!俺だってかつてはこの【古都】から始めたプレイヤーだ。そしてソタローを思い出せ。何か仕事を終えたらこの【兵舎】に必ず顔を出すんだ。それはもうどれだけ偉くなってもだ」
「なんで最近のソタローの動きまで知ってるのさ?」
「もう、ガンモはソタローの同期を越えて、愛しちゃってるんだな。ストーカーは犯罪だぞ」
「そういうのはヤメロ!とにかく隊長とソタローはやたらとNPCみたいな行動を取るんだ。任務が終わったら【兵舎】に報告がルーティンになってると言っても過言じゃない!」
「そりゃ、誰だってクエスト終わったら報告して報酬受け取るだろうに、何を今更?」
「そういう俺もお前もクエストなんてやんねーじゃん。隊長とソタローは何であんなにクエスト好きなんだろ?」
その時、背中に寒気を感じて勝手に押し黙ってしまう。
そして相手が一歩近づいて来る毎にその寒気は増し【帝国】の斬りつけてくるような冷たさを帯びる。
足音すら殆ど聞こえないのに、確実に自分達より強いと理解させてくる存在感。
震える手を握りしめてゆっくりと相対すると、その相手はタイトなフード付きコートを特徴的な大きなベルトで締め、下は体に張り付くようなタイツ状の服、さり気なく細かい意匠の刻まれたブーツ、不気味な仮面、左右色違いの手袋、斜め掛けの鞄の背中側には剣を背負ってる。
一見は只の軽量剣士ながら、向き合えばその覇気に圧倒される。一体こんな相手に誰が喧嘩を売ったというのか?
いや、今から自分は真っ向から喧嘩を売らねばならない。強くなる為に、ソタローに追いつく為に。
「あんた!隊長だな?ちょっと俺と勝負しろよ」
かなり声が掠れていた気がするが、何とか言えた。寧ろ言えなかった方が良かったかもしれない。
何故か相手は、少し力が抜けた様子だ。
「やめよーぜ!相手の格好、全身特典装備じゃん?無理に決まってんじゃねぇか」
「そうだぜ、俺は流石にそこまで頑張れないわ、現実もあるのに、ゲームばっかりできねぇって」
二人も完全にびびってるって事は今自分がこの相手から感じてる物と一緒の圧を感じているに違いない。
特典装備だの何だのと言うのは逃げるいい訳だ。そんなのは長い付き合いだし分ってる。本当だったら自分も逃げたい。
「うるせぇ!お前らはやらなきゃいいだろうが!」
それでもここは、意地を張らねばならない場所だ。
「ねぇ?聞きたいんだけど、あんた達はこのゲームをどうしてやってるの?怪我して治験とか?」
なぜか向こうから質問してきた。問答無用でぶった斬られると思ったのに……。って言うか何か変なプレッシャーが消えた?いやもっと深い所に沈めた感じか?
「あ?ちげぇよ。普通に楽しいからだけど」
「オレモー、フルダイブとかすげーなーって始めてはまってる」
「まあ、楽しいからだよな。離れた幼馴染とも遊べるし」
「ふーん、じゃあ、自分が一個聞いたから一個質問に答えるよ」
え?なんか凄い話が分るんだけど、本当に凄いい人なのか?
「え?じゃあ、どうやったら強くなれるんだ?」
そしてニャーコンがあっさり聞いちゃうんだけど、もうちょい考えろよ!でもその質問ナイス!
「強くなる方法ね。知ってるけど、あんた達じゃ無理じゃない?」
「あ?どういう事だ!」
「一応教えておくと、まず、身体能力を上げるには何か行動すればそれに準じて上がる。これはホームページのいう通り。
もし上げる速度を加速したければ魔物を倒せば余力が増えて、その分が成長しやすくなる。これがプレイヤーの身体能力が上がりやすいって話。
そして【訓練】する事で、その身体能力を使いこなせる。考えたとおり動けてると思ってるかもしれないけど、身体能力を十全に使うには【訓練】しなきゃ無理。
装備や特殊な情報については、まずクエスト。信用されて色んな人から話を聞いて、色んな頼み事を受ける。
それらをこなしている内に色んな敵と戦ったり、素材を手に入れて地道に強化して行く。こんなところ」
何か一気に話された割にちゃんと頭に入ってくる不思議な話し方だ。これが人の上に立つプレイヤーなのか?
「そうか・・・」
「自分の知ってる強い人は皆これやってる。近道とかチート?とかそういうのは知らない。楽しいと思える事も頑張れないんじゃ強くなれないんじゃない?」
「なるほどな。今まで、誰に聞いても攻略見ろとかしか言ってくれないし、どれが本当の情報かも分からなかったから、最強って言われてるアンタに聞きたかったんだけど。ここで張ってて良かったぜ」
「別に自分より強い人はいくらでもいるよ。騎士殿とかガイヤとか」
いや、やっぱりこの人が最強だ。ソタローも凄い人を追っちまったな。
「はは、まあいいさ。アンタ【兵舎】には入れなくて困ってるんだろ?ちょっと待っとけよ」
「(おい!俺達まだ強くなれるぞ!)」
「(何か全然変じゃないじゃん)」
「(取り合えず、アレだな。大声で【兵舎】前の奴ら誘き寄せようぜ)」
少し離れた裏通りで大きな声で叫ぶ。
「隊長いたぞ!!!」
「追いかけろ!」
「逃がすな!」