281.邪天使-自爆終了-
防御力で耐えるつもりだったが、
体重×重力加速度
の衝撃はちょっと尋常ではなかった。
ポーズがないからと言って 天衣迅鎧 は下に降りてから使うべきだった。
「いてててて……」
「はいどうぞ~、フェニックスフレアボム無料配布中で~す」
何か白衣の人にボタンのついた筒を渡されたのだが、どういう事だ?
周りの様子を見やると、皆その筒を持ち待機している。最早武器すら持たずに筒だけ持って何かを待ち構えている。
両手で筒を持って震えている人がいるかと思えば、何か悟ったように全身から力を抜いて、ボンヤリ空を眺めている人もいる。
「ソタロー!お前は最後まで見届けろ!出来るだけ離れるんだ!」
「そうだ!ここまで俺達の指揮をしてくれてくれた前線指揮官のソタローは最後まで見る権利がある」
「いや!ソタローにこそ俺達の最後を見届けて欲しい!だからソタロー司令はこの場から離れるんだ!」
ん~……ん?何を盛り上がってるのか、自分は未だに状況を把握できてない。
そのときヒーローの一人が、爆発して散った。
爆発の一瞬前にトカゲがヒーローの後ろに現れたと思ったが、つまりそういう事か?
瞬間移動するトカゲに攻撃された瞬間に、自爆してるのか?
え?自爆特攻で邪神の化身と戦ってるの?
でも爆発音が聞こえる度に、打ち上げられるトカゲとそれを一斉に攻撃するプレイヤー達。
一つ深呼吸して踏み込むと、黒地に星を散りばめたようなキラキラと光るローブのお姉さんが自分を押しとどめた。
「どうやら一定範囲内のタンクから順次攻撃されているみたいよ。あなたが踏み込めば真っ先に狙われるわ」
「でも皆最後まで見届けられない事を覚悟して踏み込んでるじゃないですか」
「そうね。でも私達はあなたに生き残って欲しいの。だから下がって見守って」
「あの、なんで皆自分を生かそうとするんですか?プレイヤーなんだから皆同じじゃないですか」
「確かにあなたとは邪神の化身戦からの付き合いだけど、精々パーティ戦しかした事の無い私達を疎まずに指揮して、活躍させてくれたのはあなたよ。勿論戦闘員Aだって私達を下に見たり疎んじたりしてるとは思わないけど……」
「戦闘員Aって闘技場の大会で優勝した骸骨の?」
「そうよ。あなた達は隊長って呼んでるわね。私達がやりたい事を実現できたあの大会の優勝者よ。出来る事なら戦闘員Aと指揮官のあなたを生かしたいけど、戦闘員Aは自分で何でも解決しちゃうからね……。せめてあなただけでも生き残って顛末を見届けて」
「そんな!自分も戦わせてください」
「ソタロー司令!もしここで勝負が決まらなかった時、最後の砦はあんただ!」
他のヒーローにも押し留められ、自分は崖際で待機する事になった。
丁度その時、戦況が動いたのか、生き残った人達の動きが止まった。
パッと見、全身鎧の人達は全て死に戻ったのだろう。次狙われるのはハーフプレートか?
トカゲが妙に濃度の濃い、黒いドロドロに変わって溶けていく。
ドロドロの池が広がり、その中心に何かがゆっくり生えてきた。
更にはその中心の柱状の何かにドロドロが集まり、凝縮されていき、人影になった。
普通のヒトサイズの影。深くひたすらに黒いシルエットが、まるでそこだけ空間に穴が空いたかのような錯覚を引き起こさせる。
そして始まる虐殺。
人影が消えたと思った時にはプレイヤーを斬り、黒い一閃がプレイヤーを両断すると、そのプレイヤーは光の粒子に変わる。
斬られたと認識する間も無いのか、自爆すら追いついていない。
やっと一発自爆があったと思ったが、その時には既に黒い人影は移動している。
連続高速瞬間移動からの一撃必殺。
シンプルだが誰にも止める事の出来ない一方的な展開に、
「これは無理だよ……最後に強制負けイベントって事?」
思わず弱音が吐き出されてしまう。
最後の砦とか言われた所で、あの黒い一閃はどんな相手でも素通りするかのような速度で振られてしまう。
つまり筋肉でどうにかなる代物じゃない。
そんな絶望的な状況の中でも人の動きがあり、人が輪を作りながら離れていくと思えば、
中心には隊長、少し離れた所に剣聖の弟子が深呼吸をして集中している。
隊長の左手がゆっくり首元に近づいていき、指が動いたと思った瞬間に周りがゆっくりと動くように感じられた。
何故だろう隊長に集中すれば集中するほど、ごま油をフライパンで熱しているイメージが……。
そのまま自分が攻撃されているわけでもないのに、スキルで感覚が引き伸ばされ、一瞬の攻防が目に焼き付けられた。
黒い一閃が胴に食い込むと同時に動き出す隊長。
右手に持ったショートソードが邪神の化身の胸部に剥き出しになった核に吸い込まれていく。
黒い一閃が抜ける時には、核も真っ二つになり、
更には瞬間移動した剣聖の弟子が黒い人影の剣に埋め込まれた核を真っ二つに斬り割った。
二人の連携で二つの核を潰すと、その場から黒い瘴気の煙が立ち上がり、同時に大量の光の粒子も世界に解けていく。
その光景に見蕩れていると、頭の中に初めて聞くやたらと派手で大きなファンファーレが流れ、思わず頭を抱えてしまう。
生存
大隊指揮
戦略的支援
邪神教団壊滅支援
魔素供給阻止
いくつか貰えた筈なのに手元に何も来ないと思ったら、ちゃんと頭の中に説明が聞こえてきて、各自拠点で選んでくださいって……。