279.邪天使-消滅-
振り下ろされる蛸足を自分や重甲のヒーロー達が、盾で力を合わせて受け止める。
出来た隙に宝剣で一斉攻撃を仕掛ければ、抵抗すら感じさせずにスパスパと蛸足が切り刻まれていく。
確か無限再生という能力はなかった筈だが、一瞬で再生される足は、邪神の尖兵仕様なのだろうか?
邪神の尖兵の上位存在なので、あえて能力と言わずとも部位欠損は魔素が続く限り補われる?
だとしたら、体積がなくなるまで切り刻むか、核を見つけて潰すかの二択しかない。
「見ての通り、敵は魔素が続く限り無限に再生します!核を潰す為出来るだけ広範囲に攻撃を仕掛けてください!」
八陣術 彎月陣
隊形を包囲に切り替え、一旦目的を核探しに移行。
とりあえず攻撃を集中している内は食事をしない様なので、苛烈に攻め続ける事が今は肝要だ。
高まる士気にやや暴走気味だが、自分の指揮下であれば敵を見失う事はない。
とにかく今は感覚を張り巡らせて、敵の核の位置を探す。少なくとも隠蔽の能力と餌用レギオンボスを一撃で倒した能力の核はあるはずだ!
その時、足が巻き上げられるように一斉に空中に纏め上げられた。
いきなり攻撃対象を失い、つられて目で追いかけていると、
何をどうしたのか、旋回しながら一斉にその全ての足を振り回されて、プレイヤー達が吹き飛ばされる。
それは自分も例外ではなく、気がついた時には空を見上げていた。
すぐに立ち上がり、重剣と盾をその場に立てて、
鋼鎧術 天衣迅鎧
重量を増す。
そのまま重剣と盾を拾い上げ、巨大蛸を見ると一本だけ爪の生えた足を地面に突き立てる。
ドゴン!
音を認識した時には空中に放り出され、地面に叩きつけられた。衝撃が背中を突きぬけ息が詰まる。
何とか転がり、うつ伏せの状態からゆっくり膝を畳み込んで、頭だけ上げ巨大蛸をみると、再びレギオンボスを足で締め上げ食べ始めた。
立ち上がろうも立ち上がれない状況に、多分何かのデバフがかかっていると判断し、黄と赤の薬を治療鞄から取り出し、
治療術 範囲回復
立ち上がって、周囲に指示を出す。
「多分あの爪のついた足に核の一つはあると思います!あの足を使わせないように妨害しつつ、潰すチャンスを探しましょう!」
自分が指示を出さずとも、気がついたプレイヤーは多いのか、言い終わる間もなく爪の生えた足に向かって行くプレイヤー達。
動ける人達は本人で回復したのか、後方支援の回復を受けたのか?いずれにしても2割程度。
辺りを見回せば、回復のエフェクトを纏っている人達が次々と立ち上がっていく。
この調子なら程なく戦線に復帰してくるだろう。
完全に立て直すより今は食事の邪魔が優先、巨大蛸に駆け寄り振り下ろされた足を斬る。
爪の生えた足に何とか近づく為に、あえて攻撃をかわさず迎え撃ち、自分の攻撃の隙をついて軽量プレイヤー達が奥へと進む。
しかし、巨大蛸はその巨大さと裏腹に器用に7本の足を駆使して、進路を妨害する。
力づくで進む重量プレイヤー、隙を突く軽量プレイヤーの連携でも一進一退がやっと。
少しづつ復帰してくるプレイヤー達のおかげで、地道に押し返す。
再び爪の生えた足が地面につけられそうになった時、どこからか忍者風ヒーローが何故か木の葉を纏って現れ、
「今こそ主命を果たす時!この命に代えても!」
壮絶な事をいいながら、大型ナイフサイズの宝剣を突き立てたが、核には到達しなかったのか足は消滅しない。
再び爪の生えた足を空中に逃がしながら再生する。
忍者風ヒーローがどんな能力を使ったのか非常に気になるところだが、今は聞ける状況じゃない。
そこに更に三人の忍者が姿を現し、そのうちの一人が鎖を投擲、爪の生えた足を巻き取る。
そのまま動きを封じるのかと思ったが、爪の生えた足の動きは全く変わらない。
三人で力を合わせて引っ張っているが完全に力負けしている。
忍者風ヒーローも加わり、更に軽量プレイヤー達が集まっていく、重量プレイヤーの自分達は足を隙間を抜けられるだけのスピードがないので、妨害に専念。
やっと爪の生えた足と力が拮抗したと思った瞬間、目の前が真っ黒に……。
何が起きたのか、いきなり月も出ない夜の様に視界を塗り潰され、死に戻ったのかと勘違いしたが、登録地点へ戻されるまでのカウントが出ていない。
何故目が見えないのか、無意識にヘルムのバイザーに手で触れると、視界が少し戻った。
そのままバイザーを拭うと、元の視界が広がる。
まさか、スキルに寄る視界補助まで潰すとは、してやられた。
目の前には巨大蛸だけしか残っていない。食事が終わってしまった。また消えるつもりか?
「消える前に一斉攻撃!」
指示よりも早く皆動き出し力の限り巨大蛸に襲い掛かるが、全く反応がない?
急に日が翳ったと思ったら、頭上に広がる蛸の頭?
今度は視界を真っ白に塗り潰され、また真っ暗に……。
カウントが出ていると言う事は、死に戻ってしまった?
何だかんだ初めての死に戻り、真っ暗な空間にただ一人立ち、目の前に表示されるカウントを眺めるのみ。
最後一体何があったのか?自分以外は無事なのだろうか?不用意に近づきすぎて何も状況が分らず、ただ悔恨だけが残る。