278.邪天使-食事と食事をさせない-
すっかり狩り慣れたレギオンボスが、普段どんな生活をしているのか、もし現実にいたらその巨体を維持するだけで、どれだけ食事を必要とするのか。
今まで全く気にした事はなかったが、邪天使を待つ間数日の事とは言え、毎日餌用レギオンボスを眺めている内に理解したのは魔物って魔物を食べるんだな~と言う事。
つまり、魔物も食物連鎖してた。
元は動物だし、自分達も魔物肉食べるのだから当たり前なのだが、そこいらに現れた魔物をレギオンボスが普通に食べる姿と言うのは初めて見た。
まあ普通の魔物は勝手にそこらに現れるのだから、完全に生態系をシミュレートしてる訳ではないと言うのは分っていたが、わざわざレギオンボスの食事まで設定されているとは、このゲームの変なこだわりが垣間見えた。
それでも、巨体を維持できるほどの食事量ではないのだけど、自分の目の前にいる餌用魔物は悠然と寝ている。
殆ど四六時中寝て、近くに来た魔物を食べる四足歩行でフサフサな毛の塊は正直な所牛なのか犬なのかすらよく分っていない。
せめて鳴き声だけでも聞こえれば分るのだろうが、寝るか魔物を一飲みで食べるかだけだもんな~。
そんな事を考えている内に、予定時刻がせまりプレイヤー達が集まってくる。
一応、総大将である隊長をトップに大隊、中隊を組んでいく。
大人数集まるが、幸いと言うか狙ったのか、レギオンボスは大人しく今の所攻撃してくる気配はない。
そろそろ一旦食事かと準備しようと思ったら、ポーさんはじめ、有志の料理プレイヤー達が集まって既に用意してくれていた。
しかも自分がやる焚き火でも作れる簡易調理ではなく、調理場でちゃんと作れるやつ。
ちなみに調理場を用意したのも、有志のプレイヤー。
このゲームの生産職の人達は変わり者が多い。
大抵の人は魔物を倒すゲームだと思っているが、生産職の人達は船も作るし、家も作る。
戦闘プレイヤー達とは別のつながりがあるらしく、大抵『ああ、それならあいつが』で、作れてしまう。
そして変なものを作るプレイヤー程、お金や目的を得られない所為か、NPCからのクエストをこなした数が多いらしく、やたらと作る物のクオリティが高い。
そうして出された食事は、カレーライス!
色々と解説されたが、要はやたらとこだわったスパイス。厳選された野菜。レア中のレア海産物。手強いレギオン豚肉。大霊峰から溶け出した湧き水。【森国】産の秘蔵米で作られてるってことだ。
兎にも角にも、食べてみて美味いかどうか、一口頬張る。
辛いと感じた瞬間には、全身が熱くなり毛が逆立ち汗が滴るのを錯覚し、旨味を感じた瞬間に全身の細胞に行き渡る充足感に包まれた。
噛み締めれば、米の甘みがグリコーゲンに変わって筋肉に吸収され、米にもルーにも含まれる水が、肉体のあらゆる傷を修復していく様を幻視した。
そのまま後は何も考えずにかっ込み胃に納めると、全身から力が湧いてくるのに同時に完全なリラックス状態という不思議な感覚にフワフワしてきた。
チラッと確認すれば複数のバフが掛かり、これから戦闘するには完璧な状態と言えるだろう。
『ンモー』
幸福感に包まれた完璧に仕上がった状況に、妙に間の抜けた鳴き声が響く。
ふと、見やれば、餌用レギオンボスが珍しく動こうとしている?
そのまま観察を続けていても、何故かぜんぜん動き出さない。ただ立ち上がって小刻みに体を動かしているのだが、何してるんだ?
その疑問に程なく答えが現れた。
フサフサの毛玉のようなレギオンボスに絡みつく、巨大な触手。よくよく見れば巨大な蛸が巻きついていた。
蛸……邪天使か!
「皆さん!戦闘態勢!出来れば邪天使がレギオンボスを吸収する前に、削ります!」
レギオンボスを捕食すると言う事は、多分邪天使もエネルギーが必要という事だ。
ここは食事をさせず、こちらはお腹が一杯。向こうは空腹。この状態を維持して出来るだけ有利に運びたい。
ドゴン!!!!!
耳の奥まで揺れるような音が鳴り響くと、そのままその場に倒れ伏すレギオンボス。
邪天使が何かしたのか、一撃でレギオンボスが倒れて動かない事に一瞬唖然とする。
倒れたレギオンボスにノタノタと絡みつく蛸足。
斬りかかる巨大な刃と赤い重甲!プロミネンスレッドさんが口火を切って、邪天使に襲い掛かる。
足先を斬りつけられた蛸は一瞬だけ怯んだ様子だった。
「作戦は変わりません!蛸が食事をする前に倒します。まずは徹底的に食事を邪魔してください!」
八陣術 鉾矢陣
一気に膨れ上がる士気と仲間に背中を押される感覚に、全身の筋肉が盛り上がるのを感じる。
壊剣術 天荒
そのまま蛸に特攻!指揮用の先端が平らな重剣で思い切り、斬りつけた。
仲間の士気上昇もあり、相当に攻撃力が増しているのかサクッと軽い手応えで蛸足を切断する。
しかし敵も蛸型をとってるだけあって、すぐに足先が再生された。
なんで陸上で蛸なんだろうとも思ったが、巨大な八本足と再生能力、どちらも厄介。
でも、今は不思議とやれる気しかしない。
右を見ても左を見ても前線のプレイヤー達は嬉々として邪天使に殴りかかってるし、その手には邪神の化身特効武器と言う宝剣がキラキラと輝いている。