274.竹が飛び街を作る
すっかり綺麗になった竹周り、下手なことをすればまた藪が生えてきかねないので、皆大きな竹を見上げるしかない。
戦闘職、生産職が力を合わせ、邪神の化身本体をようやっと追い詰めたのだ。それは感慨深い。
正直な所なんで邪神の化身が竹になってしまったのかは分らないが……本当になんで竹なんだろう?
そんな中、急に竹に登り始める怪しげな三人組が虫食いのような丸い穴から内部に入りこむ。
それを見る他のプレイヤー達が竹を触ったり撫でたりするが、どうやら藪と違い、竹は生命力を吸われたり、藪が生えたりはしないようだ。
しかし、こんなツルツルした竹をよく登ったもんだと、関心していると、
隊長も登り始めた。
いや、本当にすぐ邪神の化身登るよな~。
ちなみに自分はそういうの登る能力が全く無いので、下から見上げるばかりだ。
何かと何かは高い所が好きと言うが、登った人達は楽しそう。
何やらきゃっきゃきゃっきゃとやっているが、よくあの小さな穴に入りこめるなと、自分は感心するばかり、ごく一部の変人達が内部に入りこむのは放っておいて、この竹を何とか切り倒せないかなと思っていると……。
突然目の前が真っ赤になり、業火に包まれた。そしてそれを理解した瞬間に、
鋼鎧術 耐守鎧
敵との戦闘でもないのに防御術で耐える他ない。
気がついた時には周囲を巻き上げられた土煙が舞っている。
目を細めて辺りを見回すと、何やら青い膜?うっすらと光るシールドに包まれたアンデルセンさんが上を見上げていた。
つられて、自分も空を見上げると遠く彼方に炎のような物が見える?あれがさっきの竹か?最早形も判然としない程の点になってしまった。
「あの竹はロケットだったんだろうな」
「ロケット?って事はさっきの炎は噴煙だったんですね。それにしても竹がロケットって、邪神の化身の目的がさっぱり分かりません」
「隊長曰く、狙いは大霊峰の向こうにある世界樹じゃないかって話だから、ミサイルをぶち込む要領で世界樹に邪神の化身の一部を突っ込ませるんじゃないか?」
「そ、そんなのどうやって止めるんです?」
「さあな~、そこは中に潜り込んだ隊長と三羽烏に任せるしかないな」
「三羽烏?」
「隊長と仲良しの変人忍者達さ。忍者なのに全く忍ぶ気のない黒装束の三人組なんだが、何気に腕はいいらしい」
相変わらず、アンデルセンさんのコミュ力というか人脈は広い。しかし隊長不在の今もっと大事な事は、
「じゃあ上は任せるとして、残された自分達がどうするかですよね。やはりここは副官のアンデルセンさんが仕切る形に……」
「おい!ソタロー!あの竹どっか行っちまったけど、どうするんだ?」
「ソタロー取り合えず仕切ってくれ!藪は片付いたんだから、生産プレイヤーは安全圏に返すか?」
「世界変遷級ボスとの戦いがこれで終わりじゃ、あっけなさ過ぎるぜ!何かないのか?」
「じゃあ、霧攻略中も別行動で邪神の化身分体監視任務に付いていたソタローが仕切るという事で」
「いや、隊長のあとを引き継ぐのはアンデルセンさんじゃ?」
「俺はいつでもNo.2なんだ!繰り上がる事はない!取り合えず、この場にも待機人員がいた方がいいだろうし、俺はこっち担当しておくぜ」
ぐぬぬぬぬ、なんで急にこうなった?まあしかし、邪神の化身本体が空の彼方に飛んでいってしまったのだから、分体に力を注ぐのは理にかなっている。と思う。
「分りました。ただ邪神の化身分体監視任務は各国代表NPC達も参加しているので、一旦会議に参加して貰います」
と言う事で、時間を持て余しているプレイヤー達をぞろぞろと引き連れて、バキバキの油断できない筋肉達がひしめく会議に向う。
ちなみに現状の死者の平原は平和そのもので、偶にスケルトンが発生するものの、一蹴できる。
その為生産プレイヤー達も物見遊山のようについて来た。
前回より随分としっかりした造りの建物の中には【馬国】の獣人を除く、各国【兵士】代表達が既に集まっていた。
「すみません。また一番最後になってしまって」
「いや、大砦の邪天使攻略をした者達を連れてきたのだろう?その事も含めて、これからの行動を決めるとしよう」
いつもの髭の偉丈夫が応えてくれる。
「現状、死者の平原一帯の魔物はおおよそ狩りつくした。偶に通常魔物が出る事もあるが一般【兵士】でも対処可能な程度だし、正直な所俺達はやる事もなく、暇を持て余してる。なんならはじめはスルーするつもりだった場所まで入り込んでる始末だ」
「そもそもそっちの脳筋が、入り込みづらい足場の悪い地域まで綺麗に掃除しちまったからな。各国の戦力を集めたはいいが、完全に過剰戦力になっちまってる。そこにニューターの戦力まで加わるとなると……」
と、どうやら戦力は足りてるので、解散してくれないかというニュアンスだ。
しかし、自分もプレイヤー達を代表してる以上、一応案の一つくらいは歩きながら考えてきた。
「監視の部分では引き続きお願いする他ないんですけど、現状宿営所を拠点として行動してますよね?」
「そうだな。うちもやっと予算割が出て来たものの、すでに宿営所が建てられてると聞いて、泡食ったように帰ったわ。また予算組み直しだそうな」
「それでですね。宿営所近辺に商店があったら便利じゃないですか?こちらはニューターなのである程度戦闘力もある商人を常駐できますけど?」
「フム……」
「ああ、じゃあこっち頼む!暇を持て余した連中を軍の物資で食わせるだけじゃ、暇を潰しきれないからな。酒やら嗜好品も売ってくれるなら買うぜ」
「いや、待て!それはどこの国も状況は一緒だろう。今回の戦いは給金も多いし【兵士】達も交代で息抜きする位の金は持ってるはずだ。ついでに自分達の武器を修理修繕してくれる職人も派遣してくれたら助かる」
「えっと……」
偶々ついてきていたクラーヴンさんの方を見やると、頷いたので、
「大丈夫みたいです。ニューターの職人及び商人を宿営所近くに派遣します。近隣に商店が立ち並びますがその辺はご配慮ください」
と各国代表達に伝える。どうやら後は上手く調整してくれるみたいなので、ちょっと肩の荷が下りた。