273.地味竹藪刈り
死者の平原のど真ん中にもかかわらず、明らかに武装をしていない集団がうじゃうじゃと集まっている。
服装もどことなく動きやすさ重視。初心者服や生産者が着ているような服ならまだしも、小豆色ジャージなんかはどこで手に入れるのだろうか?
手に持つのは、鉈やら桑やら手斧やら……、ちょっと地方の日曜地区清掃を髣髴とさせる集まりだが、一応ゲームの中だ。
集団の前には隊長とアンデルセンさんが少し小高い場所に立ち、号令をかけようとしている。
しかし、アンデルセンさんの、どこにいても規模がどうあれ、No.2オーラを出しているのは一体普段どういう生活をしていたら、ああなるのだろうか?
「はいじゃあ、作戦を説明します」
と隊長がいつもの気負わない雰囲気で話し始めると、
「いや、もう集めたメンバーと格好で分かるわ」
すかさずアンデルセンさんがツッコム。本当にいいコンビだ。
そして二人で何やら話していたかと思えば、
「うん、アンデルセンの予想通りなんだけど、この竹やぶを皆で開墾します」
誰もがそりゃそうだろうなと思う指示が出た。
当然アンデルセンさんのツッコミが更に入るが、その後お金の話になると、やはり隊長の金遣いはおかしいのか、やっぱりツッコマレている。
何のかんの話しているうちに自分達は勝手に作業をスタート。
まずは<伐採>可能なプレイヤーが竹を倒し、<採取><採掘>可能プレイヤーが根っこをひっくり返し、掘り出す。
さらに、竹の間に詰まった薮は<採取>プレイヤーがやっぱり刈り出す。
そしてそんな作業の中一際輝くのは、プレイヤー最強の騎士さん。
以前魔将の時に見かけて以来だが、いつの間にか邪天使戦にも参加していたらしい。
まあ、そりゃそうか。最強の敵に最強のプレイヤーをぶつけるのは至極当たり前の発想だし、自分だって知り合いなら助けを求める相手だ。
しかし、その作業スピードが明らかにおかしい、誰がどう見ても戦闘職には見えない作業効率!
それの手際の良さはまるで、熟練の【兵士】が初期の任務をこなす様な無双状態……。
何か隊長が未だにフラッと【料理番】をこなす時の分身をしているかのような処理速度を思い出した。
騎士は【王国】の【兵士】らしいから、やっぱり通ずる物があるのかな?
最強のプレイヤーは草むしりでも最強なんだな~。
自分も<採集>をしつつ、飽きないよう程々に辺りのプレイヤーの観察をしながら、のんびり作業につく。
そして、偶々隣にいた人物もやたら、気合の入った雰囲気を醸し出していたので、様子を伺う。
白いジャージに麦藁帽子、手鎌を振るって一心不乱に藪刈りをする若い男性……が、急に振り返り、
「おい!ソタロー!手が止まってるぞ!」
「あ!白騎士じゃないですか!最強の騎士もあっちで凄いスピードで作業してましたけど、騎士団って草刈が得意なんですか?」
「いや、マスターは困ってるヒトを助けてたら勝手に早くなったらしいが、俺は違う」
「そうだったんですか。じゃあやっぱり邪神の化身戦の報酬目当てで?」
「それが無いといえば嘘になるかもしれないが、何よりこの戦いは負けられない戦いなんだ」
「そりゃ、何か意味ありげなワールドボスですし、勝つ気ではいますけど」
「そういう事じゃない。必ず勝つと約束したんだ」
白騎士から妙な気迫を感じ、ちょっと怯んでしまったが、それほどの思い入れのある人を邪魔しちゃいけない。
「そうだったんっですか。じゃあお互い頑張りましょう」
そう言って、刈場を移動する。
すると隊長に目ざとく見つけられ、
「あっソタロー!ちょうど良かった手伝って欲しい」
「何かありましたか?」
「うん、これだけの人数がいるんだし、炊き出しした方がいいと思うんだ。藪を刈るより料理の方が得意そうだし、こっちを手伝ってくれない?」
「そういう事なら協力しますけど、何を作りますか?」
「さっきあっちに平原の野生馬がいたから、馬肉料理にしようと思うんだけど、どう?」
「馬肉ですか、扱った事無いですけど、何とかやってみます」
自分が返事をするやいなや、目の前から消えるスピードでどこかに向う隊長。何かまた速くなったなって言うか、瞬間移動と変わらない気がする。
まあ多分、隊長は馬を狩りにいったのだろう。その間に自分は料理の準備をするとしよう。
まずは鍋にニンニクとオリーブオイルをひく。
香りが出てきたら、玉ねぎとセロリを炒めて、
玉ねぎが透き通ったら、ウィンナー、茄子、ズッキーニ?、人参を入れて更に火を通す。
刻んだトマトを突っ込んで、ピーマンと料理用(酔わない)赤ワインを投入して弱火でコトコト煮込んで、塩コショウで味付けと調整!
そこで隊長が案の定馬肉を引っさげて戻ってきて、
「何作ってるの?」
「馬肉ステーキにするなら、付け合せにラタトゥイユもいいかなと思いまして」
「へぇ~~……トマト味か……。自分は味噌煮込みでも作ろうかな」
と、どうやら隊長はトマトがあまり好きじゃないらしい。
付け合せは出来たので、ステーキを焼いて付け合わせと一緒に盛って、出していくとどんどん消えていく。
どうやら、みんなの口に合ったみたいでよかった。
そんなこんな交代で休憩しつつ、作業を進める事、数日。周辺の竹藪が完全に綺麗になった。
当然ながらその間、炊き出しは自分達以外にも有志のプレイヤーが代わる代わる作りに来てくれた。