272.竹薮焼けた
湿原のあとは沼地、砂地、泥地と転戦して回る。
どの国も精鋭を送り込んできたのだろう。
殆どの場所で碌な魔物は残っていないが、足場の悪い場所は戦いづらいのか、御残りをこちらで平らげてく。
当然ながら主要任務は宿営所設営なので、適宜程よい場所に宿営所を建てまくり、他国の増援部隊いつ来てもいいように、余裕を持って設営していった。
十分に存在感を残せたろうと、思った頃。
「はい!皆さん!まずは肉を食べてください!それから炭水化物です!食べたら戦い、戦ったら設営しますよ!」
「う、うひ~~、やっと飯か……足がもつれる」
「じ、自分は目が霞みます……」
「腰が、腰が~痛い~~」
「こんな移動と戦いを繰り返してたら、精神がやられてしまう……」
何やら大仰な事を言っているが、明らかな戦力差のある中隊級のボスを倒しただけだ。
今の所、邪神の化身の影の形もないのに、疲れている暇なんぞ全くない。
とは言え、食事をしなければ体力が回復しないのも事実なので、ちゃんと食べる物だけは出す。
肉と炭水化物を一気に摂取できるお手軽かつ、中毒性のある料理と言えば!
ハンバーガー!!!!
まずはひき肉をとにかく混ぜて塊める!繋ぎ?そんな物は甘えだ!
嵩増しなんぞいらん!肉を圧倒的密度に押し固める!
フワフワ食感?知らん!甘えだ!
肉を塩コショウで焼きながら、その間にトマトソースと辛子とピクルスっぽい漬物を刻んだやつを容赦なく混ぜてソースを作る。
肉がこげる前にひっくり返してチーズを乗せ、スライストマトと葉野菜を剥がして用意していく。
バンズは、ムジークが用意してくれたのでバターを塗って軽く焼き目をつけつつ机に並べる。
そして、ここからは一瞬の迷いも持ってはいけない!
バンズ!葉野菜!パテ!ソース!スライストマト!バンズ!
「おあがりよ!」
「「「「うまーーーーい!」」」」
皆がっつく様子を見る限り、相当気に入ってくれたようで良かった。
まあ、大隊分作るのにはまだまだ時間がかかるので、食べ終わったヒトから手伝ってくれるとありがたいな~。
ハンバーガーと言えばジャンクなイメージが強いと思うのだが、ちゃんと栄養素を確認してみるとそんな事はない。
勿論付け合せにポテトやナゲットを組み合わせると脂質過多になってしまうが、ハンバーガー自体の栄養バランスはそう悪い物ではない。
強いて言うなら野菜が足りないという事か、それはもう余裕がある時に食べてもらおう。そうはもうモリモリと!
「うむ、これは上手いな!」
ふと、何か久しぶりの声が聞こえると思ったらロデリックさん?
「あの……いつの間にか食べてますけど、何かありましたか?」
「うん、一つはルクレイツァがご飯ばかり食べていないか、ちゃんと仕事もしてるか見にきた」
保護者参観行軍?
「ルークはちゃんと仕事してくれてるので、ご安心ください」
「ふむ、それではもう一つソタローに辞令だ」
「な、なんでしょうか?」
「霧が晴れたそうだ。未成年のソタローも参加できるので、邪神の化身本体に向かうといい。指揮交代の為に我輩が来た」
「そうでしたか……ちなみに自分以外は?」
「まだ瘴気は纏っているとの事で、今はニューターの戦力を集めるという事だ」
「了解!じゃあ自分は急いで現地に向かいますので、残りのハンバーガーはお任せします!」
そう言って、大隊の事はお任せする。引継ぎなどはミランダ様もカピヨンさんもいるし大丈夫だろう。
ハンバーガーを一個片手に持ち、食べながら大砦跡地に向う。
大砦跡地は確かに霧が晴れていたが、長----い竹が一本生え、周りは深い藪になっていて、内に人の入り込むのを拒んでいる。
そんな中、気さくに声をかけてくれるのはアンデルセンさん。
「お?ソタロー!早い到着だな!見ての通り霧は晴れたんだが、この通り藪だらけなんで今色々試してる所だ」
「そうだったんですか、それで隊長は?」
「霧の発生源を倒すので疲れたのか、一旦有志に任せるって言って、報告に帰ったぞ」
「そうでしたか……」
改めて眺めると、非常に面倒くさそうな藪と屹立する竹が何にもない平原にぽっかりと生まれた状態だ。
「ソタロー……筋肉で踏み潰すのは無理だぞ?」
「なんですか!筋肉で踏み潰すって!」
「いや、なんか称号を得たんだろ?『脳筋』とかって」
「それはそうですけど、踏み潰すなら術を使って体重で踏み潰しますよ」
「いやいや、それは同じ事だろ?この藪なんだが、直接触れると生命力を吸われ、もっと藪が生い茂るんだ」
「そんなの、攻略しようがなくないですか?」
「それがそうでもない。地道に刈り取る場合はちゃんと減るんだ」
「じゃあ、触れないように地味に地道に藪刈りですか?」
「最悪そうなるかもしれないが、今は何とか少しでも早く、藪を刈れる方法を考え中なんだよ、何か知恵を出してくれ」
藪を狩る知恵とか言われても、除草剤を蒔くとか?
「ふん!何をモタモタしてるんだい!折角の世界変遷級ボス戦で隊長ばっかり格好つけさせて、何も感じないのかい?私はやらせてもらうよ!」
ガイヤさんが言うなり赤いオーラを纏い地面をぶん殴ると、絨毯のように広がる炎で藪が燃え……。
灰になったところから、片っ端に藪が成長し、竹薮に変わっていく。
「もう少し試してからにすればいいのに」
「……私は用なしの様だし、帰るよ!」
帰ろうとするガイヤさんの腕を掴み、首を横に振ると、観念したように項垂れて地味藪刈りに参加する。