270.バキバキ
指定された集合場所には既にかなりの数のヒトが集まっていた。
代表者だけの話し合いと聞いたのだが、死者の平原に仮設された指揮所はギュウギュウだ。
一応副官を連れて来てもいいということなので、ミランダ様とカピヨンさんにお願いした。
知恵袋と筋肉で、何とか面倒くさそうな代表者会議を乗り切ろうという作戦で行く。
死者の平原はかなり広い筈なのだが、既にあちらこちらで大軍を見かけている。本当にどれだけのお金を使ってこれだけのヒトを集めたのか?
取り合えず人のいない場所を見つけて大隊を駐留し、まずはこの代表者会議に参加して自分達の役割を決める。
皆が皆勝手放題したら当然秩序も何もないし、お互いの領分や役割を決める事で、上手くやっていきましょうという事だ。
まあ取り合えず、個人的にはよっぽど酷い扱いをされない限りは、地味に働ければいいかなという所、そしてその辺を理解して上手く事を運んでくれる人選として、ミランダ様とカピヨンさんという落ち着いた二人を起用した。
「あの【帝国】から来たんですが、今回のこの監視任務の指揮はどなたが取ってるんでしょう?」
指揮所にいたヒトに尋ねてみると、
「あん?【帝国】だと?田舎者が……グハッ」
別のヒトが奥から現れて、そのヒトをぶん殴った。
話しかけたヒトはその場に倒れて、動かない。死体でない事を祈ろう。
「揉め事を起こすなと言われたろうが!……さて、この場にいるという事は【帝国】の指揮官だろうが、身分を聞いても?」
「【上級指揮官】です」
「ふむ……【将官】を出してこないのは、どういう事だ?先遣隊という所か?それであれば危険の少ない平原外辺部に……ガハッ」
このヒトはかなり冷静なヒトだと思ったのだが、後ろからカピヨンさん並の身長とさらに優れた肩幅に、発達した三角筋を持つ白髭のマッチョが出てきて、冷静なヒトを殴り飛ばしてしまった。
「見て分らんのか未熟者め。この筋肉を見れば相手が只者でない事はすぐに分るだろう。【帝国】の大隊長だな?名を聞いても?」
「ソタローです」
「やはり、脳筋か……。中央司令室に来るといい」
言われるがまま後ろをついていくと、一つの大きな机を数人が囲んでいるが、明らかに尋常じゃない雰囲気が無形の壁を作り、並みの者が入り込む隙を与えない。
「なる程【帝国】は脳筋を出してきたか……隊長とも縁が深いと聞いているが、何故邪神の化身本体討伐に向わない?」
いきなり、喋り方に似合わず、かなり荒っぽい筋肉と浅黒い肌を持つ人物が尋ねてきたので、
「自分は未成年ですので、今回の作戦には参加できません」
と、答えると納得したようにすぐに黙った。
そんな中、仕切るように白髭マッチョの人物が語り始める。
「さて、おおよそ各国の代表者は揃ったようだし、各々の担当を決めようか?」
「だな?うちは気の短い奴等が多いし、さっさと決めて暴れさせてやった方が、よっぽど世の為になる」
答えるのはさっきの浅黒い男性。
「ふん、軍の代表なんだ、どこも似た様なものだろう。しかも俺達の担当を決めたあとはもっと小規模な傭兵団なんかの役回りも決めにゃならん。さっさと大枠決めてしまおう」
更に何となく親近感を覚える雰囲気の和風鎧の男性が続き、
「提案なんだが、役割で決めるとどうやったって、衝突が起きるだろう?だから土地に線引きして決めてしまった方が、後腐れなくていいんじゃないか?」
こちらは輝くフルプレートで身を固めているが、冑は外していて、かなりダンディーというか絶対【教国】のヒトが、フランクな雰囲気で発言する。
「それなら俺達は【馬国】の平原を監視する」
それだけ言って、出て行ってしまうのは明らかに獣人だったので【馬国】の将だったのだろうか?剽悍と言うのが似合う筋肉の持ち主だった。
「それなら、平原を分割してそれぞれの国に近い方を受け持てばいいな?南東側の砂漠に近いサバンナは気温も高いし、俺達の方が動きやすいだろう」
南東で砂漠という事は多分【砂国】の代表であろう人物は、色黒でしなやかという言葉がしっくり来る柔軟そうな筋肉だ。
「それでは、お互いの担当地域をそれぞれ監視するという事でいいな」
背が低く、それでいてかなり厚みと圧縮された密度の高い筋肉が今にもはちきれそうな人物は多分ドワーフだから【鉱国】の将か?
「先程から【帝国】の代表は何も発言がないようだが、納得したという事でいいかな?」
急に話を振られてしまった。確かに今は【帝国】代表なんだから、一言くらい話をしておかねばならないか。
「一つ質問なんですが、皆さんは宿営所や宿舎はどうする予定ですか?」
「それは戦闘団などを連れてきているので、セーフゾーンに駐留する気だが?」
「うちは村か町に話をつけて宿を借りる予定だ」
「平原の片隅の街長と話をつけてきたぜ?」
「【教国】から近いから、直接出向く気だが?」
「一応【帝国】では宿営地設営の為の職人を連れてきてますので、自分達は職人護衛をしつつ、それぞれの領域の宿営地設置に回りましょうか?」
これは何となく考えていた事だが、こういう各国代表がいる所で出しゃばらない方がいいんじゃないかと……。
何しろ隊長というあからさまに【帝国】の代表が邪神の化身討伐最前線に立っているのに、バックアップまで出しゃばったら他人はどう思うだろうかという事だ。
つまり、バックアップのバックアップに徹すれば、余計な目をつけられず、尚且つ国務尚書も胃が痛くならないだろうという配慮なのだが?
「ふむ……でも予算はどうする?他国の面倒まで見て回ったら、何かと入用だろう?」
「なんか、国のメンツとかでお金を出さなきゃいけないのに、何に使ったらいいか分らないという話なので、その辺は国務尚書と話をつけて来ています」
何か皆黙っちゃったけど、どうしたんだろうか?
「既に政治のトップと話がついているというのか……。それゆえの最低人数運用及び、切り札となる腹心の派遣とな……」
「うちはまだ、トップ同士の話がまとまらず、取り合えず格好だけ出てきたというのに……」
「ここで、何とか邪神の化身分体を見つけて国のメンツをと思っていたが、そんな方法が……」
いや、大軍を運用するんだから宿営とご飯は基本じゃん。何言ってるんだろうこの人達。筋肉だけはかなり発達してるみたいだけども……?