269.監視任務
食事をして取り合えず今後の予定を決めようと【兵舎】の受付に向うと、国務尚書がいた。
このヒト本当に偉いんだよな?何か一人でフラッと来過ぎじゃない?
「ソタロー例の任務の件は、先方から最高の結果を得たと報告が入っている。褒賞は預けてあるから好きに使うといい」
「ソタローはここの所、次から次に困難な任務をこなしてるから、もう一財産築いちまったな。何でもできるぞ」
「任務の方は何とか上手く行きましたけど、お金の使い道は特に考えてないですね。何しろ装備も何も殆ど褒賞で賄っているので、逆に何に使ったらいいですか?」
「実はちょっとそのお金の事でゴタゴタしていてな……次から次へと困難な任務続きで申し訳ないが、邪神の化身の監視に向って欲しい」
「ちょうど次に何をするか相談しようと思ってたので、それは構わないですけど、お金でゴタゴタしてるって言うのはどういう事ですか?自分は余りそういうの得意じゃないですよ」
「事の発端は隊長だ。あいつがやらかした」
またあの人か~……。
「うむ、話せば長くなるが、邪天使は12の核を持つ事から、それを分離して別形態に変形しつつ、別行動で大霊峰を目指しているらしい」
「大霊峰というと……?」
「【馬国】の先、常人では到底山頂まで辿り着く事のできない、世界の境界線とも呼ばれる極限の地さ」
「大砦跡地に霧を展開している邪天使とは別にいるかもしれないから、死者の平原から【馬国】の高原にかけて、武装戦力を派遣しつつ監視網を敷いてもらいたいって言うのが隊長の依頼で、当然ながら妥当な話として各国から順次武装勢力の派遣中だ」
「つまり自分も監視の為に死者の平原に向かえばいいんですね。それにしても規模は大きそうでも、そんな大それた話には聞こえない気もしますが?」
「そこで、金の話が出てくるのさ。なにしろ隊長はちょっと金銭感覚がおかしいからな」
「ああ、一個人が動かしちゃいけないレベルの金で、世界中の武装勢力を自分の手駒として使おうとしている。まあ敵は邪神の化身だし、やむを得ない部分ではあるが……」
「歯切れが悪くなるような、危険な事をしようとしてるんですか?」
「いや、あいつの依頼はあくまで監視。そのために身銭を切ってるんだが、そんな事は国を代表してる連中からしたら、黙っていられない話になってくるってな」
「つまり、ソタローの任務は表向きは邪天使分体の監視、裏向きには隊長が大軍を使って余計な事をしないように監視する事だ」
「ええ……そんな調査能力、自分には無いですよ?」
「別にいいんだよ。どうせ隊長は本気で監視さえしてくれればいいと思ってるんだからな。だが内部的に監視をつけてるって建前ってやつが必要な事もあるんだよ」
「つまり裏向きの任務を背負っていそうな指揮官としてソタローを派遣するのだ。それで国際協調のバランスが取りやすくなる。まずは金の問題から解決しなくては……」
「自分の役割は分りましたけど、まだお金の事で問題があるんですか?」
「世界で対応しなくちゃいけない案件で、隊長一人に身銭を切らせるなんて、どう考えてもまずいだろ?」
「出資者が次から次へと現れてな。既に世界中の武装勢力を集めてもまだ余るので、どう有効に使うかという話になっているのだ。全く何をどうしたら、こんな混乱を巻き起こせるのか……」
「そうなると現地には武装勢力がうじゃうじゃいるんですね。喧嘩にならなければいいですけど」
「それは大丈夫だろう」
「うむ、多分心配は要らない。取り合えず北辺の怪物討伐に連れて行った者達を連れて行けるように手配した。更に交代要員についても、既に手配できている」
「それだけのヒトが拠点に出来るような場所って死者の平原にありましたっけ?」
「村か町に分散して宿泊するしかないだろうな」
「大変だろうが、上手く差配してくれ。ソタローの大隊には隊長の薫陶を受けて育ったそういう煩雑な事が得意な者も、いたはずだ」
「分りました。折角なので、自分もお金を使おうと思うんですけど、死者の平原に大隊が駐留できる宿舎か宿営所を作るとしたらいくらかかりますか?」
「お前さんも急にスケールのでかいこと言うな~……まあコレだけ溜めこみゃ出来ないこともないだろうが」
「……それだソタロー!他の国に先じて我が国は死者の平原に邪天使監視隊宿営所を作ろう!金は集めるより使う方が難しい。職人も送り込むので、監視任務と護衛任務を兼務してもらう事になる」
「了解。これで泊まる所は考えなくても大丈夫そうですね。それじゃ早速出かけます」
「おう、大河を渡る船も手配してあるから、真っ直ぐ南に向え」
そうして【兵舎】を出るときふと気になった事があったので、興味本位で尋ねた。
「ところで、隊長っていくら出したんですか?」
「金貨100万枚だ。はっきり言って一個人にそれだけの額を出されたら、商会だろうと領主だろうと国であろうとちょっとやそっとの金額ではメンツが立たん。つまり金だけ大量に余ってしまっているんだ」
普段余りお金を使う事がないので、想像がつかないのだが、国務尚書も大変だな~。