264.裏闘技
「ペルラ……これで私達の因縁も終わり、最後に言い残す事はある?」
「フロリベス……これから滅びる貴女にかける言葉も同情もないわ」
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ブラックフェニックスに連れられて夜の【闘都】を歩くが、この都は本当に活気があって、夜であってもあちらこちらの竿灯に火を入れ、皆楽しそうに過ごしている。
そして一つの古い闘技場の前に立ち、趣を越えたボロさにまるで家に帰ってきたような感覚すら思い出させる。
自分がいつの間にかホームとしている闘技場で、何が起こるのかと思ったら、何も言わずこれまたすっかり慣れた控え室に向かい、一つの札のような物を渡された。
「なんですか?コレ」
「敵はいくらでも復活する本当の化け物だ。核を破壊すれば一時的に戦闘不能になるから、そしたらそれを核に使え」
「コレを使う事で完全に敵を破壊できる?」
「いや、それでも再生を封じるのが限界だ。でもそうやって俺達は敵の『改人』を倒して、何とかここまでやってきた」
「そのカイジンの四天王が今回の敵という訳ですよね?なんでまた【闘技場】なんですか?」
「お前とも因縁のあるフロリベスだが、あいつが元々【砂国】の大商人の娘だった事は知ってるか?」
「ええ、まあ大所帯の隊商を率いていたけど、事故で一家離散でしたか?」
「その離散した一人が、レディさ。これは誰にも言うなよ?俺もお前も立場が悪くなる事だけは確実だ」
「一人は邪神教団の力を借りて伸し上がり、離れ離れの家族も別の手段で金持ちになって、何が問題なんでしょうね?」
「さあな。そういう事は余り深入りしない方がいい。そして今回お互いの代表が戦って、片方は全て失うって訳だ」
「確かに闘技はそういった代理戦争的な側面があるとは聞きましたが、一方が破滅って言うのはやりすぎなんじゃ?」
「だからこその裏闘技、当事者と見届け人以外は入れない【闘都】夜の姿さ」
「そんな重要な闘技を自分に任せる意味があるんですか?レディならもっと信頼の厚いガイヤさんとかもいるじゃないですか」
「そうだな。まあ上の考える事は正直俺もよく分らん。分るのはフロリベスは俺が出ると思って倒せる気満々、一方レディと蠍はお前さんを担ぎ出して、一杯食わせてやろうって腹だ」
「そんなやり方でマダム・アリンが納得しますか?」
「しないだろうな。だからこそ裏闘技って形を取る事で、商売上不利な立場に追いやりつつ、場合によっては俺が直接フロリベスに手を下すって事になるだろう」
「前見た限り、フロリベスは部下を上手く使って戦うタイプに見えましたけど、その実力はどんな物なんでしょうね?」
「さあな。だがまがりなりにも四天王だ雑魚って事はないだろう。まあお前さんには申し訳ないが因縁も何もない四天王ベガを任せる事になる。断るなら本当にここが最後だぞ」
「別に構いませんよ。ただ夜の【闘技場】で脳筋とやりあうだけの事です。脳筋か……」
その言葉を口にする度に武者震いが起きる。
そこまで賞賛される筋肉と言うのは一体どれ程のものなのだろうか?
頭の中にコレまで戦ってきたあらゆる筋肉が浮かんでは消える。果たして今の自分の筋肉がどれ程通用するのだろうか?
そんな事を考えている内に大事な事を思い出し、
「あの闘技が始まるまでまだ時間はありますか?」
「ああ、ちょっと早めに着いたからな。何かあったのか?」
「これから全力でぶつかり合うというのに、食事を取っていませんでした」
「なるほどな。確かに話に夢中で隠れ家で食事の一つも出さなかったのはこっちのミスだな。大急ぎで用意させよう」
「いえ、火があれば自分で作れますので、火だけ借りたいんですが」
「じゃあ、こっちだ」
ブラックフェニックスについて行くと、この【闘技場】の調理場に案内された。
かなり古風な様相だが、日頃【料理番】のクエストをこなしている自分には寧ろ使いやすい。
鞄から今持っている食材を取り出し、考える。筋肉に最もいい食事内容はなんだろうか?
PFCのバランスが生み出す。夜の闘技にふさわしい料理とは?
まずは鮭の塩焼きだ。コレさえ食べておけば十分すぎるプロテインが摂取できるし、脂質も十分。
逆に言うとコレを食べてしまうと他の食材の脂質が気になってくる所だが、あとは炭水化物と他ミネラル類に気をつければいいだけ。
つまり、米一択!
「出来れば玄米があればよかったんだけど……」
思わず呟くと、
「あるぞ?【森国】の任務でちょっと買い込んだ分があるから食べるといい」
そう言ってブラックフェニックスから、渡された玄米だが、今は水につけておく時間はない。
何よりここはゲームの中であり、そこは厳密にこだわらなくても一応ちゃんと食べられるご飯は作れる。
さっさと、玄米、味噌汁、鮭の塩焼きで戦闘飯を作り、かっ込む。
消化され熱を発し、力が湧きあがる。そして夜の闘技リングに呼び出された。