262.一方霧の大砦
-ガンモ&ニャーコン&シラッキー-
「っし!ここが大一番!何とか手柄立てようぜ!」
「この前の邪天使第一戦の時も同じ事言ってたけどな。でもまあガンモがそう言ってくれると俺もそれなりにやる気出るしな」
「まあな~。邪天使第一戦のメンバーにこそ滑りこめたけど、殆ど活躍できなかったもんな」
「なんだよ二人共!何が言いたいんだよ!」
「いや、文句があるとかじゃないんだって、たださ俺達は遊軍のクランの一プレイヤーしかもなんか滑り込んだだけの下っ端もいい所……でもなあ?」
「ああ、ソタローは中軍本隊の指揮官しかも1000人を任されるんだぜ?」
「だからなんだよ!俺じゃなかったらソタローに文句があるのか?」
「んな訳ないじゃんか。ソタローの事だから、またコツコツコツコツ地味に頑張ったんだろ?でも随分と差をつけられたもんだな~って、思うだろ?普通」
「うん、本当に全然俺達活躍できなかったもんな。例の宝剣の貸し出しにも全然届かなかったしさ」
「じゃあ、やっぱり無理言って中軍に入れて貰うべきだったってか?」
「いや、無理無理!外側に流れてきたあの黒い蜘蛛みたいなの倒すのでいっぱいいっぱいだったってのに、中軍は本当に無限湧き状態で、皆限界越えてたって話しだろ?元気だったのはソタローとか闘技最強とか何かヒーローみたいな奴とか、トップっていわれる連中くらいで、他は尽くグロッキーだったってさ」
「って言うかさり気なくトッププレイヤーの一人に数えられてるソタローはやっぱり只者じゃないな。どこでこんなに差がついちまったんだろうな……」
三人の中に微妙な空気が流れるのは、結構いつもの事だ。
本来明るく気のいい三人組であり、だからこそ実力は今一つでもムードメーカーとして嵐の岬のクラン行動に誘われる事も多い。
しかし壁にぶち当たって【帝国】から流れて以来、ぶち当たりっぱなしであり、その正体も分からないまま、それでも大きな喧嘩に発展する事はない。
「なあ……俺達何てソタローに言って【帝国】から出てきたか覚えてるか?」
「そりゃな、何かある度にそれを確認して何とかかんとかやってきたんだろ」
「ソタローに遅れを取ったままは嫌だからな。ソタローが隊長を追う様に俺達も強くなって戻るって……」
「そうだよ。それを信じたソタローは俺達が強くなった時に後れを取らないように、更に強くなったんだよ!ソタローはいつも何となく他人から遅れてる気でいる奴さ。俺達が強くなって【帝国】に戻らなかったらどう思うよ?」
「そりゃ俺だって強くなりたいし、早くソタローと白竜のクエストとかやりたいよ!」
「ソタローをいつまでも一人にして置けないよな。あの大雪の中今日もきっとNPCの【兵士】連れて歩き回ってるんだぜ」
三人の最大の壁はソタローの成長速度であり、同時に三人がやる気を保ち続けられる理由もソタローである。
そしてどれだけしんみりしても、すぐに立て直すのもこの三人の特徴。
「そこで、作戦がある!」
「待ってたぜその言葉!流石ガンモ!」
「どんな作戦だ?何か言い噂でも聞き当てたか?」
「いいか?この酩酊の霧の作戦にソタローは参加してないんだ。つまりここで差を詰めなきゃなんないってのは分かってるよな?」
「そりゃ勿論!ソタローはまだ未成年だから、酒は飲めないだろ?俺達はギリギリ飲めるからまた滑り込んだが、世界変遷級ボスの二戦目となれば報酬もデカイ筈だし、ソタローには悪いがこのタイミングを最大限利用する気ではある」
「そうだな。それで?どうやって追いつく?」
「今回のキーアイテムはどう考えても邪神特効武器の宝剣だ。これを手に入れない事には三戦目以降本当に活躍の場がなくなる可能性すらある」
「だな。貸し出し専用ってのが痛いが、それだけレアな武器って事だし、何とかして手に入れたい」
「でも、誰もが触れた瞬間ぶっ倒れるこの霧で、どうやって戦果を上げるつもりだ?」
「(あそこを見てみろ)」
ガンモが指し示す方向では黒服のあからさまな忍者が三人、腰にロープをつけて霧に突入しては引きづり出されるのを繰り返している。
「(アレがなんなんだよ?意味の分からない遊びしてるあからさまに変な連中だろ?)」
「(……俺には分るソタローと同じ空気、一見意味が無いんだけど、愚直にコツコツ積み上げる奴らの真剣な空気だ」
「(シラッキーもそう思うか……俺はずっと見ていたがあのロープ少しづつ奥まで進んでるんだ。本当に少しづつだがな。つまり、この霧を攻略出来るのはあの三人だ。丁度俺達も三人だし、為せば為ると思わないか?)」
「(確かに言われてみれば、楽しそうではあるが、凄い真剣だな。じゃあまずはアレだな)」
「(こっそり近づいて情報収集だな。もし人手を必要としていればしれっと手伝いを申し出て、さり気なく勲功を積もうって訳か)」
アイコンタクトでお互いの意思を確認する。ここからは詳しい説明などしなくても連携して動けるだけの練度とチームワークはあるのだった。