260.邪天使-はぶられ未成年-
何か、いつまで経っても皆そこら中で騒いでは記念撮影をしている。
確かに世界変遷級ボスというのが、今迄プレイヤーが出会ったボスの中で最大最強である事は疑うべくもない。
それにしたって皆浮かれすぎじゃなかろうか?まだ倒したわけではなく、次への形態移行期としか思えない繭状態なのだ。変に刺激して何か起きたらどうする気なのだろう?
隊長とバルトさんが何やら話し合っているが、やはり今回の戦いを仕切る重要人物同士だし、きっと深い話をしているのだろう。
自分はこの場を去ってしまって大丈夫なのだろうか?周囲の人達の予想では変化には時間がかかるだろうという事だったが……。
考え事をしている内に、繭が音をたてて割れ始めた。
空気を引き裂くような音に、思わず耳を塞ぎながら様子を見ていると、繭の罅から白い煙が漏れ出している。
それが徐々に積もる様に霧を作り出すが、あまりに不気味なので一旦距離を取ると、周囲が騒然としたので振り返り様子を伺う。
すると誰かが霧に触れたのか、その場に倒れ、何人かで救出している。重量の余裕的には自分が行くべきなのだろうが、足の速さ的に自分だと霧に捕まりかねなく、なんともやきもきする状態だ。
「よし!霧に関してはNPCに監視してもらおう。自分達プレイヤーはログイン時間に制限があるわけだし、流石に連戦は無いとここの運営を信じる。と言うわけで、少し離れた場所で皆で酒と飯食って祝勝会したら解散!酒と食材は置いていく。自分は監視の依頼をしたらログアウトするから、仕切りは各クランのTOPに任せるから仲良くしてね」
大声で隊長が指示を出すので、自分はどうしようか迷う。なにしろ自分は特にクランに属していない。
しかし、隊長が上に報告及び依頼を出してくれるなら、急ぎで戻る必要もない。
「よし!ソタローはコローナファミリアの仕切りに入りな!隊長が山程食材置いて行ったし、祝勝会だよ!」
「はい、ちょっと待った~!ソタローは実質一戦目の頭張ってたようなもんなんだから、コローナで独占はズルイだろ!嵐の岬も最近は料理も出来るようになったし、来いよ!」
「いやいや、待て待て、嵐の岬は魚ばかりだろ?ソタローは若いんだからやっぱり肉だよな?騎士団は、俺が今から肉焼くから、ゆっくり食っていけよ」
「待てーい!ソタローは我等が中軍の大将!正義の味方として、こっちで一緒に食事にしよう!」
どうやら、食べながら方々回らなくてはならなさそうだ。まあ仕方ないこれで知り合いが増えれば今後の戦いも、コミュニケーションが取りやすくなるだろうし、一箇所づつ回るか!
「ガイヤさんお疲れ様です。中軍前線をお任せできたので、自分もかなり戦いやすかったです」
「何言ってるんだい。あんたが中軍本隊を指揮した事で、最大の戦果が得られたんだから胸はりな!隊長の奇行の穴埋めするのがどれだけ大変かは誰だって知ってる事だよ」
「ありがとうございます。ところでさっき霧に触れて倒れた人って?」
「ああ、何かあの霧は酷い酩酊状態にする物らしいね。だから一旦遠巻きに監視って事らしいよ。確かソタローは未成年だったろ?絶対触るんじゃないよ」
「はい!でもそうなると……」
「まあ今回は一旦お休みかね?流石に未成年が酩酊になる事はないだろうし、他の状態異常に差し替えなんだろうけど、一瞬でぶっ倒れるレベルの状態異常だからね~。攻略作戦がある程度煮詰まってから、また指揮頼むよ」
「そうですね。そしたら霧攻略の間何してようかな?」
「おーい!ソタロー食べてるかー!」
とそこへテンション上がったアンデルセンさんが現れた。
「いや、まだ何も出来てませんよ。霧の事を聞いてただけです。嵐の岬はもう何か作ったんですか?」
「うんにゃ!ボスに任せて一足先に飲んでるぜ!副官として頑張ったから先に飲んでろってさ!」
道理でテンションが高いと思った。霧に触れてくればいいのに。
「うん、どうした?ソタローは飲んでないのか?」
片手にやっぱりお酒を持った赤騎士が現れたけど、こちはまだ冷静だ。
「自分はまだ未成年なので」
「そうか、白の奴と同じくらいって聞いてたから、てっきり飲めるのかと思ってたぜ。それで何の話だ?」
「いえ、霧の攻略で……」
「ソタロー司令!正義の為に共に歌おう!」
駄目だ、完全に酔っ払ったヒーローも現れた。誰か霧に投げ込んでくれないかな?
「って、ガイヤさんまで飲み始めて!皆さんお酒持込で戦ってたんですか?」
「いや、違うよ。隊長が置いていったから飲んでるのさ」
「隊長はどこでどうやってるのか知らないが、このゲーム中の珍しい酒を収集してるからな~。ただ酒って最高だな~」
「いやそれにしても、隊長は一体どれだけの量いつも持ち歩いてるんだ?」
「バンバラバンバンバン!バンバラバンバンバン!」
ん~酩酊させる霧の前に、普通に飲み会参加できないんだが?