259.邪天使-一戦目大詰-
「すみません、重甲の方々は盾も鎧もあまり効果が無いとは思いますけど、潤沢な生命力で後衛を守って下さい!」
供給される手下の数に流石に全員息が上がってきている。事前に食事をしているとは言え、これだけ戦いっぱなしで、体力回復などした場合空腹度が少し心配だ。
そうなると、殲滅より持久を重視するタイミングに差し掛かったと見てもいいだろうと見ての指示だったのだが、
「つまり、肉壁になれって事だろ!ならば!『キャストオフ!』」
プロミネンスレッドさんのそれまで装着していた太陽を模したような鎧が弾け飛び、兜以外殆ど裸に全身入れ墨の様な絵柄が刻まれている。
そして巨大な両手持ちの大剣をそれまで以上のスピードで振り回す。
「え?プロミネンスレッドさん、あの姿にこだわりがあったんじゃ?」
「ふん!ヒーローとは装甲ではない!正義の心こそ人々を照らす日輪となるのだ!あと、大会の時の戦闘員Aの変身が羨ましくて、考え抜いた末に見つけた攻撃特化スタイルだ!」
「あっそうですか……」
その後も方々で、装甲や大盾を捨てる姿が見受けられる。皆やはり体力が限界なのだろう。何しろ敵は防御貫通持ち、ただ重いだけの防具などない方がいいかもしれない。
ここが正念場だ。まだ自分はいくらか余裕があるし、ここで暴れなければ!
『おい!ソタロー、気負わなくていいぞ。まだ嵐の岬も余裕あるし、どんどん流せ。責任取るのは隊長だし、お前は好きにやっていいんだぞ。それにもうすぐ隊長が術を使えばいくらか楽になるからな』
「アンデルセンさん。じゃあ、今そっちに流すので、お願いします。左翼は少し下がって休んで下さい。回復お願いします。それにしてもこの規模の戦闘を一人で把握しながら、術一つで戦況を変えて、本人は敵本体に単独突入って、まだ追いつかないか……」
『いや、気にするなって、ソタローはソタローだろ。あと隊長は把握してるんじゃなくって、任せたから困ったら言ってきて、ってスタンスだからな。そうじゃなきゃ、総大将が敵本体に突入するかよ』
その時、
『隊長抜けたぜ!今反転が終わった所だ』
『あいよ!任せるよ!『行くぞ!』』
騎士団が無事戦場を突き抜けて敵の後ろに回ったらしい。
直後、全軍の士気と攻撃力が大幅に上がり殲滅度が上がっていく。
でもそれ以上に総大将が意味の分からない方法で敵本隊内部に潜入した事が、プレイヤー達のテンションを上げているようだ。
勢いに乗るプレイヤーを少し落ち着かせたかったが、今水を差すのは良くないかと、タイミングを見計らっていた所で、
ふと、どんどん味方の士気が高まり、収拾がつかなくなってきた。
『おい!隊長!何やってんだ?士気が際限なく上がってそろそろやばいぞ!』
『ごめん、士気削るボスと戦ってるから、調整頼む』
どうやら、この状況は隊長が邪天使内部に潜入し、何がしかのボスと戦っていることで発生している現象のようだ。
つまり潜入作戦は上手く入ってるが、こっちはこっちでこの混乱をどうにかしなければならないという事か。
こうなったら仕方がない。周りのクランの方は任せるしかないが、この本隊は集団戦素人ばかりだし、暴走前提でやる。
「自分の隊の人達は、暴走しても自分が敵と認識する相手を自動で攻撃するようになります。安心して暴れてください!」
「何にも安心できないけど、仕方ないね!隊長もあの中でボスと戦ってるんだから、雑魚狩りで泣き言言ってられないよ」
どれだけ経ったろうか、士気とバフだけは高いが、あとは気力の持つ限り暴れまわっているだけの状態が続き、体力が切れてしまった者も少なくない。
黄色い薬液を取り出し、
治療術 範囲回復
これでもし空腹度が限界を超した人がいたら、その人は離脱してもらうしかない。
覚悟を決めて体力回復を使いながら、敵を斬り倒し回っていると、急に敵の動きが止まった?
邪天使本体だけは順調に近づいてきて、今はもうほぼ真上だ。このまま落っこちてきたら死ぬなと、そんな感想しか思い浮かばないほど圧倒的サイズと存在感。
まあだとしても、とにかく手下を一匹でも多く倒さねば……。
「ソタロー!手下の供給が止まったらしいぞ?」
「プロミネンスレッドさんはなんで分るんですか?」
「我らの仲間に忍になった者がいてな。今回偵察係だったのだ。そいつから連絡が入った!」
これは朗報だ。ずっと同じ敵を無限に倒し続けるという苦行で折れそうになっている全員の気持ちを建て直し、畳みかけよう。
「皆さん大詰めです!敵手下を殲滅して、今回の作戦の完了を見届けましょう!」
自分が言うが早いか、動ける者は片っ端から邪天使の手下に襲い掛かり、殴り潰し、斬り裂いていく。
そして、邪天使が頭上を通り抜け、背後の大砦上空に到達した。
『ふぅ、総員退避!でっかい花火をぶちかますよ!』
全員大砦に釘付けだ。ちょろちょろと残っている邪天使の手下を最早ただの邪魔扱いだ。散々倒して倒し飽きたと言った所か。
その時邪天使が大砦に落っこちた?
尋常じゃない衝撃が周囲に、見た事のないサイズのエフェクトを発せさせる。
自分は重量的にも問題なかったが、防具や何かを外していた人達は根こそぎ吹っ飛ばされたっぽい。
何かもっとこう……爆発的な罠だと思ってたんだけど、アレでいいのかな?
舞い散る埃や塵の合間に地上に立つ邪天使が見える。ダメージ食らったのか?
その時、今度は地面から空に向って抜ける薄紅色の衝撃が、再び周囲の者達に襲い掛かる。
危険な光が落ち着くと、そこには罅だらけの邪天使がまだ、そこに在る。ただあちこちボロボロで、何か中身が見えそうなので、近づいていく。
『皆~大詰めだよ~敵が大ダメージ食らっているうちに皆で、聖石の場所見つけるよ!』
隊長の号令で人が集まり、ボロボロの邪天使の周囲を探索すると、フルフルと震えている何かがぶら下がっているようだ。
皆でそいつを観察していると、隊長が剣身の透明な不思議な空気を漂わせる剣で核を貫き破壊する。
そのまま釣鐘型の外殻が崩れ落ち、空気中に溶けて消えていく。
繭の様な物がその場に残ったが、どうやっても傷つかないようだ。と言う訳で、今回はここまで、
「皆お疲れ様!次にこいつがどんな形態になるか分らないけど、また力合わせて頑張っていこうか!」
「「「うぇーーい!」」」
さっきまで限界と言う様相だったのに、終わったら凄い元気な人達だ。