25.蟹パーティ
大河に出でて、大型犬サイズの蟹がいっぱいうろうろしているゾーンへ移動。
魔物がいつでも目に映る場所に群生している場所はいい狩場だと思うが、今日も誰もいない。
何しろ過疎地なので、いい狩場も何も、雪で足が埋もれるような寒い地に誰も来たがらない。
自分の様に下に毛皮の服でも着てれば問題ないのだろうが、中々皆そうも行かないのだろう。
「うし!ここらで狩るか!」
「じゃあ、景気づけにファイアーボール!!」
と、ニャーコンが蟹に火の玉をぶつける。
「火の精霊の術ですか?」
「おう!そうだぜ!やっぱり魔法と言えば火だろ!まあこのゲームじゃ術って言うらしいがよ。後タメ口でいいぜ!歳もそんなに変わらないだろ?」
「ああ!気をつけます。それにしても精霊ごとの違いとかまだよく分からないんですよね~」
そう言いながらもニャーコンが釣り出した蟹を一発殴れば、そのまま泡を吹いて倒れる蟹。
「えぇぇぇえ!ソタローって攻撃力全振り?すげぇーパワーじゃん!」
「あっいや、そんな事無いです。タンク頑張ろうと思って……」
「おら、お喋りしてないで雑魚魔物位サクサク狩るぞ!」
ガンモの号令で、一斉に周囲の蟹達を狩りまくる。
自分は一番防御力の低そうなニャーコンの近くに付いて、危なければ盾で庇う。
<方盾>を取得しておいた事で、近くの仲間なら守れるって言うのは、非常に助かる。
しかし、戦闘が進むにつれて、生命力の消費が危うくなってきたので、
ポーションを取り出してグイッと呷る。
ポーションは先日クラーヴンさんが作ってくれた剣帯にさり気なくポーチが取り付けてあったので、そこに挿しているのだが、
細かい所に行き届く、気の使い方がなんとも見た目に合わなくて、人は見かけによらないとはこの事だな~なんて思ってしまう。
そうこうしていると、片方の鋏だけやけに大きい巨蟹が姿を現した。
まあ、何だかんだ自分はこの一帯の魔物は一通り倒したので、こいつも知ってる。
正直一人でも倒せるが、どうするか?
……まあ皆で倒した方が被害は少ないだろうし、狩れる数も増えるだろうし、
まずはクロス陣形!
「うぉぉぃ!何だこの足元のマークと引っ張られる感じ」
「え?俺真ん中でいいの?真ん中?」
「多分自分を先頭に後ろ三人って言う形になってる筈だから!一応先頭の自分に攻撃が集まりつつ、自分の防御力がちょっとだけ上がるらしいんだよね」
「そうなのか!じゃあ、タンクは任せるぜ!俺達で少しでも早く倒せるようにガンガンダメージ与えていくから!」
と言う事で、大蟹退治!
蟹だけあって横向きに突進してくるが、そこは脚を一本関節剣を通し、ダメージを与えつつ、
武技 盾衝
盾を構えて腰を落とす事で発動する。動きはシンプル!盾を構えたまま体当たりをするだけ!
コレで蟹を跳ね返せば突進が止まるので、そのまま他の脚もガンガン斬り付け、ダメージを重ねる。
そして大きな鋏を振り上げてくる。頭上に振り上げたと言う事は次は振り下ろし。
コレは流石に正面から受け止めると大変な事になるので、
「鋏避けます!」
と一言言えば、メンバーもぱっと蜘蛛の子を散らすように大蟹から距離を取るので、安心だ。
鋏が振り下ろされ、河原の小石が飛び散る。
それを盾で払いのけ、再び蟹に距離を詰めて攻撃再開。
脚はなんか変な色に変色してきているので次は胴体狙い、剣の重さをそのまま大蟹に伝えるように、斬り込み突き込む。
「よっしゃ!ソタロー受け取れ!FB!」
ニャーコンが杖を空に掲げながら叫ぶと、自分の剣に炎のエフェクトが宿る。
その状態で大蟹を殴ると相当嫌なのだろう。仰け反る蟹にさらに追い討ちを掛けていく。
そのまま、自分の剣、ガンモの槍、シラッキーの矢で蟹を地味に削り倒して勝利した。
「いや~なんか良かったな~。ソタロー前衛大変だったろ!」
「そんな事無いよ。一人で狩るよりよっぽど楽だったし助かった」
「え?ソタロー!お前一人であの蟹狩れるのか!マジかよ。あいつ結構固いししぶといだろ?」
「え?うん、しぶといけど、鋏だけ気をつけてコツコツやれば、倒せるよ?」
「ああ、ソタローは重装備で防御力があって、剣もなんか打撃力が強そうだもんな。蟹みたいな敵と相性いいのかも……」
そんな事を話しているとガンモの<解体>が終わり、
「蟹肉出たぞ!食材ってなってるから、食えるんじゃないか?」
「いやでも、生は流石にやばいんじゃないか?ワンチャン食えても、不味そう」
「あの、自分が<簡易調理>持ってるし焼いてみようか?」
「なんだよそれ!焼き蟹って事か?食いてぇ!!」
「じゃあ、近くの村でスキルだけ変えてくるよ」
そう言って、ダッシュで近隣の村に向かい【教会】で<簡易調理>のスキルをセットする。
しかし【教会】は本当にどこにでも存在するものだ。どれだけの影響力を持っているのだろう。
そして、すぐに3人の待っているセーフゾーンに向かう。
フィールド上で焚き火のある地域は魔物が入ってこないセーフゾーンになっている。
魔物に追われていたりするとその限りではないが、魔物の方からは入ってこないって事だ!
そこの焚き火では煮炊きが出来る。何度か北砦の【巡回】で外を回っている内に先輩から教わった。
今の所、禄に調理器具も持っていないのだが、そのまんま焚き火で直火って訳にもいくまい。
どうするかなと、とりあえずドロップした蟹の甲殻に蟹肉を載せて焼いてみる。
徐々に泡を吹き、いらない水分が飛び、見た目だけは綺麗な赤と白に変化。
火から上げ、原始的に皆で手に蟹肉を取り頬張ってみる。
「……」
「……うん」
「……蟹の味はする」
「なんか大味ですね。蟹酢も醤油もない状態でダイレクトに蟹の味を楽しんでるけど……」
「そう、大味だな。自分で採ったものを食べてる満足感と思ったほどの味じゃない残念感の狭間に言葉を失っちまったぜ」
「ああ、それそれ!折角食べたのに、なんか残念って言うか、な!」
「まあ、蟹は普通に食った方が美味いって事だな!」