258.邪天使-単騎特攻-
『撃ち方やめ!遠距離攻撃持っている人は自分と大砦に引き上げて、上空に対応しよう。悪いけど、地上部隊は近接攻撃で、頑張って耐えて!』
『それしかないだろうな。そっちは任せたぞ』
総大将である隊長と副官ポジションのアンデルセンさんの焦ったような指示が飛ぶ。
それはそうだ。こちらの戦略の為には敵を通さない事が前提だったのに、まさか空中戦力を投入してくるなんて、さすがに隊長も想定外だったのだろう。
自分だって空を飛ぶ敵は巨大怪鳥や赤竜の化身位しか戦闘経験ないし、あんなにうじゃうじゃ出られたら、焦らずにはいられない。
本隊からも遠距離攻撃職を引き抜かれ、少々タンク隊が苦しくなってきたが、
「安心しろ!我らはこんな事では折れない!そう!頭上に輝く太陽の様に我らの心は燃えている!」
プロミネンスレッドさんは元気そうなので一旦置いておくとして、ここは自分も出なければいけないだろう。
今回は足場も悪くないので重い黒装備で出てきてしまったが、さて吉と出るか、凶と出るか。寧ろ防御力関係ない相手なんだから、重量以外意味ないか。
あと、折角なのでずっと鞄の中に死蔵していた盾も使う事にした。魔将戦の時隊長から押し付けられた特典盾だ。隊長から譲り受けた物だし、隊長が総大将のこの戦いで使ってみようと。
逆三角形のいわゆる騎士盾をフロックコートで装備するのもアレだが、仲間の士気のおかげで防御力も多分凄い事になってる筈。
でも敵は防御無視なので、引っ張り出した意味は特になかった。
壊剣術 天荒
殴盾術 獅子打
集団戦用重剣と騎士盾に術を纏わせ、手近な邪天使の手下を斬り裂き、弾き飛ばす。
大した手応えではない。戦列から抜け、近接攻撃職が暴れてる乱戦場に向かい、片っ端から斬りまくる。
「オラ!あんた達が不甲斐ないからソタローまで出てきちまったじゃないか!気合入れな!」
ガイヤさんの檄が飛び、それまで力を出し尽くしていた近接攻撃職の人達が、そこから更に振り絞る。
「近接攻撃職の人達は開戦から飛ばしてます。一旦休ませようと思うんですけど」
「あまり甘やかすんじゃないよ。上の敵に対応する為に弓使いや何かを引き抜かれちまったんだろ?大変なのは皆同じなんだから、振り回してやんな」
「ここは我ら天空戦隊に任せて、お前達は休むといい!」
「いや、人々を救う為まずこの身を捧げる!我が名はバロン!邪天使の手下に鉄槌を降す者!」
「ヒーローを名乗るなら、日の当る所で戦えばいい。例え蹂躙されようとも諦めることなくあがき続ける。どんな手段をもってしても、事を為すのが悪の美学!」
何か厄介な人達が、凄い元気に飛び出してきたけどどうしよう。いずれにしても、邪天使本体が大砦にぶつかるまでまだ時間がかかるし、休憩はさせなきゃならない。
八陣術 彎月陣
「取り合えず、自分が前線に出ます。元気が余ってる人はついてきてください。建て直しが必要な人は素直に下がってください。自分に近い場所ほど激戦になるので、各々配置を選択してください」
それだけ言って、戦列を変更している内にその分敵に押し込まれてしまったが仕方ない。
何しろ敵の数は不明、どこまでもずっと敵の群れが続いていて、本当に無限なのではないかと思えてきた。
それならそれで、徹底的に時間を稼ぐまでだ。
上空戦力も何とか対応できてる様子だし、自分は只管前を向いていればいいだろう。それが本隊の役割と割り切る。
そんな時、
『じゃあ、全軍!後は任せた!自分は手下の発生源に突っ込んでみる』
『はぁ!?総大将自ら突っ込むって、アホか!』
全く隙のないアンデルセンさんのツッコミに、やっぱりあの人が副官でよかったと思ったのも束の間の事。
本気で敵本隊に潜入するつもりらしい、確かに遠目に見る限り頭部に大穴が開いているようにも見えるが、あんな高さ空でも飛ばねば潜入できないだろう。何を言っているのだろうか?
『じゃあ、ソタロー、自分は騎士団と一緒に強行突破、邪天使に直接乗り込む。騎士団はそのまま後ろに抜けて、挟み撃ちを仕掛けて殲滅速度上げていくから』
本当に指示が来たんだけど、もうこうなったら任せるしかないか……。
「分かりました。お任せします」
『クランの防衛の割り振りは俺がつけておくから、行って来い』
横目に土煙を上げながら敵本隊に斜めに斬り込む中隊が見える。そして土壁が現れたと思ったらその上を走る人影が一つ。
どう考えてもあのスピードは隊長だろう。人間技とは思えない異常なスピードで壁を走りきり、米粒のような小ささの影が文字通り空を飛ぶ。
飛行機やなんかの飛び方じゃない、ジェットエンジンがついているかのように、真っ直ぐ垂直に飛び上がる。
そして自分の視力じゃ見えなくなった所で、目で追うのを止め目の前の敵に集中し、どんどん斬り伏せていく。
隊長単体突入でどれだけの効果があるか分からない以上、作戦は作戦で実行されなくちゃならない。
自分が面倒を見れるのはこの中軍本隊だけなのだから、責任を全うしなければ……。