257.邪天使-手下無限-
隊長の集団術で士気が高まり、すぐさまその高まった士気を使用するように全体の防御力が上がった。
自分の任されている大隊は殆ど集団戦経験のない人達ばかりなので、あっという間に暴走しかけたが、何とか自分の声は届いているようなので、まだ大丈夫。
取り合えず今回の戦闘の目的は、邪天使と呼ばれる山のような敵を後ろの大砦に突っ込ませる事となっている。
どうやらその大砦に何か仕込みをしているらしく、敵の生み出した手下を通さない事が、自分の任務だ。
出来れば士気が上がり過ぎは避けたい所だが、無理なら無理で<八陣術>の効果で自分が敵と認識する相手を強制的に攻撃させる事も出来るし、まずは焦らず戦線を押し上げていく。
そのとき頭上を一本の矢が飛び、うじゃうじゃと蠢き向かってくる敵の波に飲み込まれた。
一発攻撃を当てて敵の様子を探った模様だが、確かに敵は邪神の手下だし、下手をすれば邪神の尖兵の様に特殊武器がないと倒せない可能性もある。
うっかりしていたが、皆対邪神の尖兵用武器を持っているのだろうか?
『よし、じゃあ本隊はソタロー!中央は任せるから好きにしていいよ』
「ええ……そんな放り出すような指示……」
こっちは皆の武器を確認しなきゃと焦った所で、投げっ放しって!
『フォローはするから、好きにしな』
好きにしなって言われてもな……。でもまあ攻撃を一当てして出した答えなら、自分が任された中軍で戦えると判断したのだろう。
「じゃあ、隊長からの指示なんで、自分達が本隊として攻撃の中心を担う事になりました。しかし綿密な作戦を立てて、実行出来るほど集団戦錬度の高い集団でない事は皆さんも分かっている事と思います。それではどうするか!」
「暴れるぞ!」
「いいから俺達を敵陣に突っ込ませろ!」
「それでは、突撃します。しかし本来の作戦は大砦に敵を辿り着かせない事でもあります。その為編成を工夫します。前衛に近接アタッカーを集め、その後ろにタンク、一番後ろに遠距離アタッカー、支援回復と並びます」
「先頭がタンクじゃないのか?」
「それだと暴れにくくなります。近接アタッカーは犠牲も多くなりますが、片っ端から敵を削ってください。流れてきた敵を確実に仕留めるのがタンク及び遠距離アタッカーとなります。またサイドにはクランごとの塊が配置されていますので、そっちに流しても問題ありません」
「つまり、私は敵のど真ん中で暴れればいいんだね?」
「はい!暴れたい人は前線で敵を攻撃しまくってくれればいいです。あとの処理はこっちでやります」
これくらいのざっくりした指示で行くしかなかろう。敵はもう目の前、その姿は黒い丸から棒のような足の生えた、幼稚園生の落書き。
八陣術 衡軛陣
赤竜の化身戦以来しょっちゅう使っている陣形だが、何だかんだ相性がいい気がする。
最前面や敵後方に近接攻撃職を配置し、本隊及び支援回復、遠距離攻撃職を高耐久職で守る形を取る事で、敵に火力を集めやすい。
そして、接敵。
最前線で暴れる事を選択したプレイヤー達が溜めた術エフェクトを開放し、敵陣を蹂躙する。
見た所、邪神の尖兵のような無限再生や、放出攻撃はなさそうな雰囲気?
あちらこちらで、崩れ落ち瘴気を発して消えていく幼稚園生の落書きに、ちょっとほっとした所に報告が入った。
「おい!ソタロー!こいつらの攻撃、まったく防御できねぇ!」
油断する所だった~……そりゃ今までで最大の強敵、手下といえども何の工夫もない訳が無かった。
さて、どうするか、今から防御壁を作るなんて現実的じゃないし、前線を引かせて遠距離攻撃だけで仕留める?
やるべき事は時間稼ぎだし、一旦引かせて密度を上げて肉壁役に徹するのも、作戦の一つではあるけど……。
「あんた達!気合入れな!なんでソタローが攻撃職を前線に上げたと思ってるんだい!やられる前にやれってことだよ!」
「「「うぉーーー!」」」
何か勝手に自己解決してくれたので、一旦このままで行こう。ここはガイヤさんに任せておくのが吉だ。言ってみれば近接職隊の分隊長として見ておけば、そう大間違いもあるまい。
「ソタロー!こいつらの攻撃確かに<防御>も防具も抜いてくるが、術なら対応できるぞ」
タンク隊に残ってくれたプロミネンスレッドさんの意外に冷静な判断に、術を使って敵の攻撃を防いでいる間に遠距離攻撃職が隙間を縫って、トドメを刺す連携が作れてきた。
「それにしても、このソタローの術凄いな!攻撃力に術出力もバフがかかってるし、何よりこれだけうじゃうじゃいる敵を上手く認識できるから、漏れや不意打ちもない」
「そうなんですか?自分は流れで手に入れた術なので、使っているだけなんですけど<分析>効果がリンクしてるのかな?」
何となく余裕が出てきたので、自分も参戦しようと一歩踏み出したところで、偶然近くにいた支援役の術士が上を向いているのが目に入った。
てっきり敵は自分達同様、地表で戦うものとばかり思っていたのだが、空には黒いトンボの大群が真っ直ぐ大砦を目指して通り抜けていった。