256.邪天使一戦目準備
『作戦は簡単。邪天使を大砦に突っ込ませるだけ』
ずっと地平線まで見える平原のど真ん中、背後には街か都かと見まがう大きな砦、目の前には今まで見た事無い数のプレイヤー達が蠢く。
そんな平原に浮かぶ山のように巨大な釣鐘、いつの間にか邪神の化身の名前は『邪天使』と決まったそうな。
そしてボスのサイズの括りとしては、世界変遷級ボス。つまり運営からするとこのボスとの結果如何で、大きなアップデートがあるよと言うことらしい。
腕に覚えのあるプレイヤーが集まったが、大半は集団戦素人ばかり、クランで集団戦を得意としている人達は遊軍として周りを固め、この単独能力にだけは自信のある烏合の衆を中軍として纏るのが自分の仕事って……無理じゃん?
そんな中、総指揮官である隊長の指示は大砦に突っ込ませろって!シンプルで凄く助かる。変人でもやっぱり歴戦の指揮官だ。
今のプレイヤー達の状態を見て、分りやすくシンプルな指示を出し、目的を一つに絞るのは有効だと思う。
正直複雑な指揮を出来る状況でない事だけは確かだ。
「まあ、そう気負わなくていいんだよソタロー。責任は隊長が取るんだから、アンタは如何にここにいる暴れん坊共を敵に突っ込ませるかだけ考えな」
と、ガイヤさんが言ってくれるものの、腕に覚えのある人ってのは結構癖が強いもんだからな~。
「少年!憂う事はない!我らヒーローがきっと君の明日を守ってみせる!」
癖強い最先鋒の赤い重甲の人に話しかけられるんだけど、どう捌いたらいいんだろうか?
「あんた!ソタローが困ってるだろ!いいかい!ここに集まってる暴れる事しか能のない筋肉馬鹿共!ここにいるのが、お前達の指揮官ソタローだ!現状私達プレイヤーの中で二人しかいない1000人を率いれる本物だよ!いいから黙って言う事聞きな!」
流石ガイヤさんあっという間に周囲を黙らせ従わせるカリスマ性、この人が指揮した方がいいんじゃなかろうか?
「分った!ガイヤの言う通りだ。だが、俺達は少年の言葉を聞きたいんだ!さあその熱く燃え滾る魂をぶつけて来い!」
このパターンってアレだよな?熱く燃え滾る魂って事はそういう事で間違いないと思うんだが、いいのかな?もうすぐ決戦なのに……。
壊剣術 天沼
鋼鎧術 天衣迅鎧
殴盾術 獅子錨
ゆっくりと赤い重甲の人に近づき、手を差し出せば向こうも応じるように掴んでくるという事は間違いないだろう。
ギリギリと手を握り潰し、そのまま、
武技 鐘突
頭突きを食らわせ相手がくらついた所に、
武技 鋼締
手を放してそのまま胴体を締め上げる。
「がはぁぁ!」
何か叫びながら、赤い重甲の人がタップしてきたので離す。
すぐに仲間らしき人が駆け寄ってきて、赤い重甲の人に肩を貸すと、
「俺はプロミネンスレッド!ソタロー司令の熱い魂を受け取った!いざ行かん!」
どうやら自分の魂を受け取っていただけたようで助かるが、
『よし!敵が来る前に食事にするよ!ここからどれだけの戦いになるか分からないんだから、まずはお腹を満たす!』
隊長から次の指示が飛ぶ、当然の指示だ。指揮をする者なら誰もがまず食事を重視するのが当たり前、特にこれから戦う相手は何かと不明な点が多いのだし、最悪戦いながら食事する事まで視野に入れねば!
当然ながら自分もこの話を受けた時点で一番最初に相談した相手がポーさんだ。
どんな敵か分からないので、まずはスタミナがつく食事を提供したいと相談した結果『ニラレバ』の素を大量に作ってもらえた。
ニラレバの素を鍋で温めて、熱々ご飯に掛けるだけで体力にバフがかかるという優れ物だ。
ちなみにご飯にしても、兵長に相談したら大量に用意して貰えた。これが無制限!
「これから、どんな戦いになるか自分にも予想は全くつきません。どんな過酷な任務を言い渡すとも知れません。だからこそ体力をつけてください!これからニラレバ丼を配給します!お代わり自由です。沢山食べて、全筋肉にエネルギーを行き渡らせ、生命力の限界まで諦めることなく戦いましょう!」
そして、どんどんニラレバ丼を配りまくり、途中伝令がやって来る。
「敵は大量の部下を生み出して進軍中、間もなく接敵となるが、目標は変わらず敵を大砦に突っ込ませる事となる」
「つまり、敵を蹂躙するも慎重に耐えるも自分の裁量次第という事ですね?」
「その通り、隊長に伝える事は何かあるか?」
「いえ、隊長は隊長の指揮に集中してもらえるよう、こちらも最善を尽くします」
自分がニラレバを配りながら伝令の人に返答すると、何故か不思議な顔をしつつ、それでいて納得したような顔で帰っていった。
最後に自分もニラレバ丼をかっ込み、濃い目に味付けられたそれに胃袋が熱くなるのを感じる。
これは卵を入れても良かったかもしれない。もし次の機会があったら是非そうしよう。
敵の軍勢が自分の目にも写る。
鋼鎧術 多富鎧
鋼鎧術 天衣迅鎧
地面は【帝国】と違い、十分歩きやすい。場所によってはぬかるむが、自分にとっては同じ事、ゆっくりと敵に向かって歩き始め、第一戦目の陣容の中心を司る中軍を押し上げる。