255.器の違い
「ただ今戻りました」
「ああ、どうやら上手く行った様だな。一回り成長したのが見て取れるぞ」
「そんな見た目で分るような物ですかね?」
【古都】の【兵舎】に一直線に帰還して兵長に報告を入れる。とは言え、事前に【偵察兵】を先行させて連絡だけは入れているので、これはほとんど確認だ。
「赤竜の化身様に認められ、成長の限界を越えられる様になったと報告にあるし、正にその通りの力強さを感じるな。今まで通りに伸び盛りとは行かないだろうが、うまく調整しながら己をより完成に近づける段階にきたという事だな」
「何か認められたというのは聞いたんですけど、まだ自分の筋力は打ち止めじゃなかったって事だったんですね。まあでもこれで自分に課せられた大きな仕事は一旦お終いですし、ちょっとじっくり筋トレにでもいそしみます」
すると、何か苦い顔をする兵長。自分が筋トレする事に何か不都合があるのだろうか?
「ソタローはこの国に潜在する問題を幾つも解決に近づけてくれているし、とても良くやってくれているのだが、もう一働きしてもらいたい」
「まあ、それは別に構わないですけど、どんな任務です?」
とても言いづらい事のように、腕を組み大きな溜息を一つついて、兵長が話すのは、
「ついに邪神の化身が復活した。そこで指揮をしてもらいたい」
話に聞いた伝説の敵の復活……。
アイコンタクトで確認すると嘘でも冗談でもない様だ。復活はほぼ確定未来だったとして、何故自分が指揮官になるんだ?
「いや、あの邪神の化身という物が存在するのは知ってるんですけど、自分はやっと1000人指揮したばかりですよ?当たり前の様に魔将とか伝説上の何かを倒せる様な域には達していないんですが?」
「そうだな。そうだろうともよ。俺もお前はじっくり現場を踏ませて育てたかった。それがこんな一足飛びに出世させて、挙句にこんな大事を任せるに至っちまった事は遺憾なんだが、それでも今回の邪神の化身はお前達ニューターじゃないと駄目なんだよ」
なるほど、つまり瘴気が関係しているという事か。確かに濃い瘴気じゃヒュム、つまりNPCは戦えない。
まるでタイミングを合わせたようだが、それにしても降って湧いたような話だし、何のストーリーもなしに戦う相手なのかな?
「それで、その邪神の化身ってどんな相手なんですか?それとも情報収集からですかね?まだ戦うまで時間があるとか?」
「うむ、まず敵の能力だが今の所分かっているのは、酩酊させる霧、空中を泳ぐ力、攻撃を防ぐ透明の壁、強固な壁すら破壊する衝撃、無数に手下を発生させる分裂能力、異常に硬い甲殻、瞬間移動、完全隠蔽、必殺の剣、遠くの標的を消し飛ばす破滅の光、炎を吹き出し加速、大量の瘴気を纏うと、言った所だ」
何その僕の考えた最強ボスみたいなの。
「まあ、あの分りました。その邪神の化身と言うのは、赤竜の化身の様に数段階の技能があるって感じなんでしょうね。それでその、自分が指揮するという事ですけど、時間の猶予はどれ位?」
「数日後【王国】の平原にある大砦、かつて魔将と戦ったあの場所で一戦目が行われる事は決定した。あとの事はその結果如何で決まる」
「え?あの?一戦目って数日かけて戦う相手なんですか?しかも決戦までかなり近い気がするんですけど、準備は?」
「それは既に各国協力して、急ピッチで進めている。はっきり言って敵は強大だ。世界がかかった大きな戦いになるし、当然ながら長期戦も視野に入れているさ」
何か話が物凄い大きな気がするんだけど、そうなるとやっぱりいきなり自分が指揮って言うのは、無理があるんじゃないか?
「自分が何かイメージしているのと話がかなりズレてる気がするんですけど、ニューターを1000人率いて、特殊な敵である邪神の化身を倒せばいいんですよね?」
「間違っていないが、邪神の化身は1000人で相手にできる規模じゃない。何しろ格で言えば神の使いである白竜様や赤竜様達と同格の敵だぞ?今回投入される人員及び資金及び資材は無制限!つまり世界総戦力で戦わねばならない世界の敵だ」
あれ~視界がグニャッてなったぞ~。無制限?世界総戦力?その指揮が自分って?しかも急に!
「流石に自分には荷が重過ぎます!いきなり無制限指揮なんて!」
そこで兵長が慌てたように訂正する。
「違う違う!俺の言い方が悪かったな。ソタローには1000人を指揮して一翼を担って貰いたいって事だ。実質ニューターの中で1000人の指揮権があるのは2人だけ、だから一翼をお前に任せたいんだよ」
やっと理解が追いついた。ほっと一息つき、高まる鼓動が正常に戻るのを待つ。
「つまり、自分と隊長が先陣を切って合わせて2000人で敵の戦力を削ると、いわゆる切り込み隊になるという事ですね」
「いや、違う。今回の総指揮権は隊長に託された。あいつは各国軍の特徴と地理を知り尽くしている事から、決戦地を選ぶ所からあいつ任せってことになるし、既に各国政府の了承も後押しもある」
やっと追いついたと思ったら、またスルッと遥か先へ行く。指名手配にもかかわらず好き勝ってやってるのかと思ったら、世界の危機で総大将って、何考えてるの?あの人……?