254.赤竜の化身
「分りました!ただ、ご飯食べさせてください!」
そう自分が言うと、赤竜の化身が光りながら中空に浮き始める。
赤く美しく輝くオーラが徐々に収束していくに従いその体も縮んでいくが、反比例する様に存在感は増していき、その密度がヒトの心を惹きつけて離さない。
そして自分とそう代わらないサイズになると地上に降り立ち、
『何か違うけどこんなもんか!』
と言う赤竜の化身は、リザードマンよりはいくらかヒュム寄りだが、尻尾も羽も生えてるし、なんとも言えないドラゴンニュート?
しかし、何かワクワクした顔つきの赤竜の化身の雰囲気から一緒にご飯食べる気なのだなと、察してしまい。何を作るか逆に迷う。
『何だ?食事にするんじゃなかったのか?』
やっぱりな~きっと自分じゃ想像出来ないほど振りの食事なんだろうが、何を出すか?遠征している身にもなって欲しい。
『肉だな!肉が好きだ!』
との事なので、何か肉料理を考えていこう。【帝国】で肉と言えばアリェカロかシェーベルだ。片方は荷を引く移動は遅いもののパワーのある肉、片方はスピードとスタミナを兼ね備えた締まった肉となり、どちらも深い味わいを宿す。
しかし、硬い!でもこの赤竜の化身なら平気かもしれない?
取り合えず【帝国】で買える肉を焼いて出すと、次から次へと口に放り込み、噛みしだく赤竜の化身に忖度は必要なかったっぽい。
『美味いな~ずっとこの地で寝てたから、こんな美味い物久しぶりだな~』
そう言いながら遠慮なく、胃に肉を沈める赤竜はただの欠食児童だ。
そこにいち早く瘴気の影響から立ち直ったのが、ミランダ様?若さとか関係ない、本当のピンチに諦めない強い心を培うのは経験なのだろう。
自分が適当に起こした焚き火を更にきっちりと仕上げ、怪しげな鍋で何かを煮込み始めた。
「ヒーヒッヒ!ヒィーヒッヒ!」
そして差し出されるのはドンブリ一杯の肉煮込み?
「これは?」
「赤竜の化身様と戦うんじゃろ?婆ぁ特製の煮込みじゃからとやかく言わずに食べな!」
それは香辛料とやたらと辛い何かが効いたモツ煮込み。
一口食べる度に体の奥底から熱くなる不思議な感覚に、箸が止まらない!がつがつと丼を空にしてお代わりをする。
炭水化物を食べたい気持ちを察したのか、やたらとぱっさぱさのパンを渡され、煮込みの汁を吸わせてがつがつと食いまくり、口をぬぐいながら赤竜の化身を見ると、向こうも既にその気らしい。
何故だろう?強敵を倒した安心感か、おいしい物を食べた満足感か、強すぎる強敵を前にした危険な感情か、アドレナリンを止められない。
『いいな~お前で良かったぜ!ボッコボコにしてやるからな!』
殴盾術 獅子打
赤竜の化身のパンチを盾で殴り返すが、その威力に吹き飛ばされた。だが今の自分に怯むという感情はない。
壊剣術 天荒
重剣に精神力を込めてぶん殴れば、赤竜の化身が腕で受け止め、楽しそうに笑い返す。
『なぁ、お前達は小さい代わりにその力を一つに出来るだろう?全部!全部使っていいんだぜ!』
その声に呼応するように、残った【兵士】達が自分の後ろに並ぶので、
八陣術 鉾矢陣
先頭の自分に力を集めるこの陣形に背中を押され、赤竜の化身を薙ぎ払うと、楽しそうに殴り返してきた。
「全力を受けてもらってもいいですか?」
『勿論だろうよ!俺がどれだけ暇だったと思う?俺が命の危機を感じる程の一撃をくれよ!』
壊剣術 天蓋
鋼鎧術 護土鎧
周囲の空間を固定したにもかかわらず、赤竜の化身は自分が何をするのか興味津々と言う様子だ。
鋼鎧術 多富鎧
鋼鎧術 天衣迅鎧
完全に準備完了状態で、打ち出すのは、
殴盾術 獅子錨
赤竜の化身の体がグッと落ち込むのを確認しながらも、重剣でぶん殴る。
その時、赤いオーラを発しながら自分の攻撃を跳ね飛ばす赤竜の化身は、正に神の遣いと言って差し支えない美しさだった。
絶対に抗うことの出来ない強力な力場に弾き飛ばされ、チャーニンに受け止めてもらった自分の前には元のドラゴンに戻った赤竜の化身の姿が浮かぶ。
『まぁまぁ楽しかったぜ!またやろう!』
それだけ言って、遠く天高く姿を消す赤竜の化身だが、赤い燐粉がまとわりつき、体の奥底にある力を引き上げるのを感じた。
「ひゃっひゃっひゃ!赤竜の化身様に認められたようじゃの」
何か嬉しそうな、ミランダ様に、
「何がおかしいんですか?」と尋ねると、
自分まとわりついている赤い燐粉は赤竜の化身が認めてくれた証だと言う。
どうやら、自分はヒトの限界を越える事が出来る超越者の権利を得たらしい?
何の事だかよくは分らないが、帰途に着く。
勿論連戦でお腹が空いているであろう大隊に十分な食事は用意した。
ポーさんが用意してくれた程の物ではないが、鞄に入ってるありったけの食材を消費して、クリームシチューにして出したら、皆満足そうに食べてくれたので、問題はなかろう。
帰り道はのんびり楽しく【古都】へ引き上げだ。
皆、疲れきっている中で深い雪を踏みしめる帰還の中、自分だけはやっと隊長に追いついた事を実感するのだった。