251.再戦北辺の怪物-巨大-
背中の毛が逆立ち、皮膚の色が変色、尻尾から棘が生えたティラノサウルス達、残るは7体。
徐々に強化されているティラノサウルスをそれぞれ中隊長格が中心に抑えている。
トドメを刺すのに時間がかかっているのは、まだ本命の北辺の怪物が出る前の前哨戦で削られる訳にはいかない為、慎重に戦っているからだ。
勢いは落とさず、それでいて被害は最小限と本当にこのゲームのAIは優秀過ぎて、自分がやる事は殆どない。
そんな事を考えている内に、ミランダ様がいつの間にか前線に上がっていて複数の中隊を指揮してティラノサウルスを一体倒してしまった。
残り6体
ティラノサウルスの変化を見ようと思ったら、ルースィさんスペーヒさんカピヨンさんがいつの間にか連携を取って、一体倒ししまったので、
残り5体
となってしまう。
確かにティラノサウルスは中隊級ボスとしては割りと凡庸だし、当たる人数を調整すれば倒せるとは思うけど……。
「ソタロー、油断するな。敵がまた変化するみたいだぞ?」
【重装兵】隊に入っていた先輩から、声をかけられて気を取り直す。よく考えたら自分が抑えてる間、一番ダメージ与えてたのこの人だと思いつつも、ティラノサウルスの様子を観察する。
それまでバラバラに戦っていたティラノサウルス達が、一斉に駆け始め戦場中央に集合、その間巻き込まれた【兵士】達はガンガン撥ね飛ばされていくので、【衛生兵】隊が救助に向う。
一箇所に集まったティラノサウルスはお互いがお互いを喰らいはじめ、地獄のような様相に誰もが見入る。
最後に残った一体が、全てをその大きな口で噛み砕くと、徐々に巨大化していく。
ただでさえ中隊級ボスとしてかなりのサイズだった筈が、天を突く巨大怪獣へと変化し、こちらを睥睨する。
巨大怪獣の口元に溜まる光に本能的な恐怖を感じ、
八陣術 魚鱗陣
「全員集合!的は大きいです!押し切ります!」
殆ど悲鳴の様に指示を出して攻撃をしかけていく。
そこに光が降り注ぐが、それは柔らかさも救いもない、ただ破壊の具象。
隣にいる【兵士】達すら目の前から消滅するかのように白く視界を塗りつぶされて、心が虚ろになっていく。
……仮にこの攻撃で一人になったとしても、なんとか一撃加えて終わりたい。
鋼鎧術 耐守鎧
光の奔流を術で相殺するように鎧に全力の精神力を込めた。
気がついた時には雪に膝をついて、目の前の巨大怪獣の足を見ていた。治療鞄から緑と紫の液薬を取り出し、
治療術 自己回復
とにかく一発殴る為に、立ち上がる。
壊剣術 天荒
回復したての精神力を重剣に注ぎ込み、巨大怪獣の小指の先を潰す。
『ギュォォォォォォン!!!』
大きすぎて、現実離れした巨大怪獣の叫び声が響き渡るが、ただのBGMに聞こえてきた。
恐怖とか興奮とか振り切ってしまったかのように、何も感じないまま巨大怪獣の指先を重剣でぐちゃぐちゃに潰していると、
「ソタローや。【術兵】隊は今の攻撃で回復に時間掛かるから、もうちょっと慎重にやんな」
何かちょっともごもごしたしわがれた声は、ミランダ様?
振り返ると、お互いで回復しあいながら隊列を整えなおしている。
そこから飛び出してきたチャーニンが、駆け寄り、
「やっぱりこの装備すげーなー!流石に終わったと思ったが、耐え切っちまったぜ!」
興奮して話しかけてきたところに、
「こらチャーニン!見て分るようにそう何発も耐えられる物じゃないんだから、調子乗ってないで隊列揃えて畳み掛けるよ!」
いつものスルージャの窘めが入った所で、先輩に肩を叩かれ、自分の精神力が切れた事に気がつき普通の液薬で最小限の精神力を回復しつつ、媒介の紫と赤の薬を取り出して、
治療術 範囲回復
近隣の【兵士】達を含め、精神力を回復。
敵は大きすぎる所為か動きは緩慢だが、とは言えさっきの攻撃が次いつ降り注ぐとも分らないし、大急ぎで体勢を立て直す。
八陣術 彎月陣
体勢がおおよそ整った所で、囲い込んで一斉攻撃を開始、【術兵】は再び例の攻撃に備えて慎重に動かすとして、そのほか攻撃に加われる【兵士】達は畳み掛ける為に、全力攻撃を指示した。
各中隊長の号令で、強力な集団攻撃が行われ、巨大怪獣をよろめかせ、その分厚い鱗を剥いでいく。
もし、この巨大怪獣によじ登る事が出来たら頭を潰してやるのにと思うが、残念ながらそんな技能を持つ【兵士】がいない以上、達磨落とし方式で足から崩していく他ない。
そうこうしている内に、また巨大怪獣の口元に危険な光が溜まっていく。
しかし、撃つ的を迷っているのか、中々吐き出さず左右を見ている?その隙に、
壊剣術 天崩
脛を巨大化した剣のエフェクトでぶん殴ると、つんのめった巨大怪獣が、完全に自分をロックしたので、
鋼鎧術 彩光鎧
いっそ光って、自分が的になってやろうと覚悟を決めた。
「全員自分から離れろ!」
そう言って、先程の光を受ける準備を整えている内に、次から次へとバフが掛けられていく。
精神力も生命力も全快の状態で、巨大怪獣と目が合うが、今度は先程のようにはいかない。
殴盾術 獅子打
鋼鎧術 耐守鎧
重剣をしまい、ただ全身でこの強敵の攻撃を受け止める。
再び視界を塗り潰す光に、敵の強さを感じ、そしてそれを受けきる充足感に満たされた。
光が終われば、再度攻撃を仕掛け、背中から倒れ動かなくなる巨大怪獣に、どこか寂しさを覚えるが、まだ真打が残っている。
巨大怪獣が地に染み込むように消え、揺れる雪が溶解し、目の前に温水プールができたかと思ったら、あっという間に蒸発し、赤熱する地面から赤く巨大な生物が飛び出した。