244.巧者
[遊びの時間は終わり、炎の巫女が牙を向く。相手を認めるからこその本気!全力を出してもいい相手の出現に溢れる歓喜がその炎を更に燃え上がらせた]
何か解説しているけど、今はそれどころじゃない。
兎にも角にも大急ぎで、重剣を地面につき立て緑の薬を鞄から取り出し、
治療術 自己回復
すぐさま生命力を回復した。
正直な所、ガイヤさんのスピードに対抗する為には 空流鎧 を使いたい気持ちでいっぱいだが、そうすると術の相殺が 耐守鎧 でしか出来なくなる。これは問題だ。
そんな事を考えている内に、ガイヤさんが地面を殴りつけるとリングに絨毯の様な炎が広がってきたのでやむを得ず、剣を地面に突き刺したまま、
壊剣術 天沼
地面術で対抗し、影響から逃れる。
この術はよく闘技で使ってるし、何だかんだガイヤさんは予想済みだったのかな?これで術相殺の手が一個減ってしまった。
灰塗鎧 は相手の武器を重くするだけだし、術に効果があるのかは聞いてなかったな~……失敗した。
以前対術の説明を受けた時はまだ取得してなかったし、一か八かやってみるしかないか?
それとも盾と蹴りで対抗して、どこかで締め倒すしかないか?
ガイヤさんが豪火球を撃ってきたので盾で殴り返し、更に飛び込んできたので蹴り払うと、直前でステップで下がり、代わりに追いかけてきた豪火球二発が向かってきた。
鋼鎧術 耐守鎧
体を固めてその二発をやり過ごすと、その時にはガイヤさんの拳が顔を捉えて放たれていたので、首を傾けながら膝蹴りで何とか距離を作り出す。
拳は冑を掠め、そして上に気が向いているのを読まれたのか、同時にボディにも一発拳がめり込んだ。
膝を間に入れた分だけ、深さは無かったが術の乗った拳は十分に効く。
それでも前屈みになり、強引に肩で押し出すように、
武技 撃突
タックルで突き放して、その分距離を詰めてリングサイドから離れる。
しかし、先ほどのガイヤさんの術が未だに地面を焼いており、天沼 の外に出るとじわじわと継続ダメージを追ってしまう。
自分のその状態は多分読まれていたもので、ガイヤさんは表情も変えずに再び飛び込んできて、今度は地面スレスレを蹴り払い。
それを我慢だけで足で受け、代わりに上から盾で殴りかかると、もう一発蹴りが死角から飛んできた。
偶々盾で殴りかかったので、盾の上からだったが、クリーンヒットを貰いかねないタイミングに冷や汗が噴出す。
回転するように立ち上がったガイヤさんが、その回転力を利用するように巻き込みのボディブロー、それを右篭手で受け止めるが、相殺できてない分ダメージは入ってしまう。
それでも何かせねばと、
武技 鐘突
頭突きで返し、今度はガイヤさんの頭を捉えたが同時にボディにガイヤさんの膝蹴りを喰らう。
そこで急に支えられなくなる程、体を重く感じ、膝に手を当てて何とか体を支える。
中盾も捨て、両手で膝を押して体を支えなければならない状況に、重い頭を持ち上げガイヤさんを見ると……。
「やっとかい、本当に硬いね~ソタローは!鉄壁の名前に相応しいけど、ここまでだね。なんで体が支えられないのか、不思議かい?」
「そうですね。こんな状態異常は初めてなので、何か変な攻撃受けましたか?」
「変なじゃないよ。特定の部位に攻撃を集めれば、部位破壊が起きる。ずっと私がボディを狙ってたの気がつかなかったかい?」
言われてみれば、顔や足は散らす程度で、本命の打撃はボディばっかりだったような?
しかし、だからと言ってこんな中途半端な状態で終わるわけにはいかない。膝から手を放しゆっくりと体を持ち上げる。
何かフワフワとして上体が定まらないが、まあ立てない事もない。ただ歩くのはもう無理だ。
仮にこのまま豪火球連発で倒されたとしても、仕方ないだろう。それが決着と言う物だと思う。
自分の目を真っ直ぐ見て、ガイヤさんは肩から大きな羽のような炎を吹き出す。
そのまま、振りかぶり自分の心臓を打ち抜くように拳を打ち込んできたので、
武技 鋼締
自分は諦めるとは言ってない。吹き飛ばされるような衝撃を腕力だけで耐え忍ぶ。
そしてギリギリと締め上げれば、
「ふ、不屈の方の二つ名も本物みたいだね」
そう言いながら発動するガイヤさんの術に、文字通り吹き飛ばされた。
宙を舞う自分を眺めるガイヤさんの表情が、何かちょっと引きつったと思ったら、視界を壁に阻まれた?
周囲を見渡すと、そこは場外であり、自分が壁だと思ったのはリングの外周部だった。
生命力全損させられるだろうと思っていたのに、場外負け決着。
予想してなかった展開に、頭が全く追いつかない。
しかし、まあ負けは負けか。やっぱりガイヤさんは上手かったし強かった。
そして次の課題も見えてきたし、悪い負け方ではなかったかな?
[かくして歴史に語り継がれる事のない月夜の闘いは幕を閉じる。人並みを越えた両者が再び相見える事はあるのだろうか?]