243.獄炎
[月夜に炎を纏いて舞う巫女に、重厚なれど鈍重なる遍歴の指揮官は翻弄される。だが彼はどんな時も歩みを止めない。屈する事を知らない魂が徐々に巫女を追い詰める]
全然追い詰めてないんですけど?
攻防の隙間にストーリー解説挟んでくるのはいいとして、あまりに状況と違いすぎませんか?
兎にも角にもこちらには追い足がない。重剣と中盾を使って遠距離攻撃を捌きながら進めば、緩々とは詰められるが、折角の詰め術も外されて、次の手が思いつかないのが現状だ。
「さあ、どうするんだい?このまま精神力を削れば、サブジョブが術士の私が有利だよ?」
言われてみれば、ずっと 天荒 と 獅子打 を起動しっぱなしで、しかもガイヤさんの術を相殺する度に結構持っていかれている。
となればガイヤさんが余裕こいている内にやる事は一つ!重剣を地面につき立て、治療バックから紫の薬を取り出し、
治療術 自己回復
範囲回復 より効果が範囲が狭い所為か、術発動までの待ち時間が非常に短い。
「え?なんだいそれ?もしかして……回復かい!?回復薬の持込は出来ない筈だよ!」
「そうですけど?これは術の媒介なので、一部術の触媒に関しては数量制限はありますけど持ち込み可能ですよ?自分もガイヤさん程じゃないにしても【闘技場】でよく戦ってますので、ルールは確認済みです」
何故か、がっくりと膝から崩れ落ちるガイヤさんを横目に、地面に刺さっている重剣に盾を立掛け、
鋼鎧術 多富鎧
最大生命力と精神力を増した所で、ガイヤさんが正気に戻り、
「まあ仕方ない!本気で削りに行くよ!」
赤いエフェクトを身に纏い、明らかにプレッシャーが変化する。
これ以上バフを掛ける間はなかろうと、重剣と中盾をすぐさま両手に構え、
壊剣術 天荒
鋼鎧術 獅子打
術を発動した所で、先ほどまでとは比べ物にならないサイズの火球を斬り払う。
赤いエフェクトを纏う前までがバスケットボールサイズならば、今のは大玉転がしの玉レベル!流石にここからは回避不可能と見た方がいいだろう。
そして、さっきと同様ガイヤさんの近くに浮く二つの火球もさっきまでとは桁違いに大きい。
そして再び撃ってくる豪火球を盾で殴ると、更に二つの豪華球が飛んでくるが、
鋼鎧術 耐守鎧
術で相殺、しかしそこから火のエフェクトが大きく広がり視界を潰す。
しかし、自分のスキルはそういった障害を透かして相手のシルエットが見えるので、ガイヤさんがこちらに走りこんでくるのも視認している。
手に炎を纏ったガイヤさんが殴りかかってくるのに合わせてこちらも重剣を振るう。
間合いを詰められ過ぎて良い位置では入らなかったもののガイヤさんの鎖骨を捉えて打ち下ろし、代わりに強力なレバーブローを貰った。
鎧の上からにもかかわらず体がくの字に曲がるのを抑えられない、ガイヤさんもつんのめる様に体を折るが、そのまま一歩踏み出しアッパーが自分の顎下を打ち抜く。
地面から引っこ抜かれるかのような衝撃に天を仰ぐように上を見ながら体勢を崩すが、なけなしの根性で前蹴りを繰り出すと、
足に圧と衝撃が加わり、呻くガイヤさんの声を聞きながら背中から倒れこんだ。
倒れこんですぐさま確認すると、勘で突き出した足にガイヤさんの方から追突してきたようだ。
立ち上がろうとすると、上から打ち下ろしの拳が降ってきたので中盾で迎撃、重剣を突き出して牽制しつつ、立ち上がって戦闘態勢に戻す。
急にガイヤさんが何の捻りもないストレートを打ってきたので、反射的に盾で殴り返そうとすると、それはフェイント。くるっと背中を見せられ誘い込まれるように重剣で斬りにいくと、そのまま回し蹴りが再び肝臓を抉る。
金属部なので<防御>は発動している筈が、かなり手痛いダメージを負う。
更に追撃とばかりに本命としか思えない大きな炎を纏った拳が飛んできて冑を掠める。
ギリギリクリーンヒットをまぬかれ、代わりに膝蹴りを繰り出すと、ガイヤさんの左腕にガードされてしまった。
だがここで止まってはいられない、
武技 鐘突
頭突きを見舞えば、偶々だろうガイヤさんの肘とぶつかり、お互い仰け反る結果に……。
出来た隙間に中盾をねじ込み、
武技 盾衝
一旦距離を作り出す。
そして、重剣を振り払えば、体を固めて受け止められた。多分火精とはまた違った術だろう。
フッフッと二回息を吐き出したガイヤさんが、上体を丸めて突進してきたと思ったら、今まで見せた事のない左右のコンビネーションでボディにボコボコ打ち込んでくる。
あまりの衝撃に吹き飛ばされ、再び距離が開いてしまった所に、走り込みからの両足をそろえたドロップキックで更に吹き飛ばされ、気がついたらリング端まで追い込まれていた。
重量級の自分をどれだけ吹き飛ばすんだと言う威力だが、泣き言を言っていても仕方がない。
何しろ生命力がかなり減ってきている。距離を取れた今が回復チャンスだ。