242.戦闘狂VS筋肉狂
[炎の巫女は多くの者に慕われた。面倒見がよく、何より強く、誰もが彼女に教えを乞うた]
[彼女の弟子はあらゆる場所で活躍し、それが更に彼女の名声を押し上げる。しかしある時彼女の高弟を次々に打ち破る者が現れた]
[相手に非がない事は知っている。ただ彼女は餓えていた戦いに、より己を高めてくれる好敵手に……。だから単身追いかけ、何の思惑もシガラミもない場所で気炎を上げ襲い掛かる。彼女の感情に呼応した火精達が楽しげに踊り狂う]
会場の中心に陣取ったガイヤさんの周りにいくつもの火の玉が浮かび上がり、それが空中でぶつかり破裂、会場全体を明るく照らし出し、まるで至近距離で打ち上げ花火を見るようなイリュージョンに歓声が上がった。
自分はこれから入場の筈なんだけど、どのタイミングなのだろうか?
いつもと違って夜間の【闘技場】で、いかにもメインイベントとばかりの演出をされて緊張しない人がいるだろうか?いやいない。
一応ストーリーだけ聞く限り、自分が例の5関所抜けた時、炎の巫女の弟子達を倒しちゃったから、敵を求める炎の巫女が追いかけてきちゃったと……巫女って何かそういう戦闘狂でもいいのかな?
[大地が揺れる。定住地もなくあてどなく彷徨う指揮官は行く先々で圧政や悪に苦しむ弱き者達を束ね、戦い救済してきた。その遍歴が彼の重みとなり、その重圧が集まる精霊を打ち消す]
突然会場から火が消え、一見真っ暗に見えるが、自分はスキルでガイヤさんの位置は確認できている。
どうやら自分の出番だ。途中転びでもしたら事なのでゆっくりとリングに上がるが、やたらと静かな会場に自分の鎧の音だけ響くと言うのは、なんともむず痒い。
[それは後に語られる事もない月夜の決闘、仁でも義でもなくただ己の技量をぶつける相手を欲する者同士のぶつかり合い]
ガイヤさんと向き合うと、ゆっくり明るくなっていくが、何をどうやったのかリングだけが綺麗に丸く、世界から切り取られたように浮かび上がる。
ガイヤさんは部分的に金属で覆った軽そうな防具と、露出部には刺青が入っている姿、自分は白装備の耐性仕様で挑む。
「さて、始めるよ」
ガイヤさんが一言発した事で、もうはじめて良いのだな理解し、バフを掛ける為に体の前で手を組もうとした瞬間、目の前に火の玉が迫る。
鋼鎧術 耐守鎧
左篭手で防御しつつ術で相殺、右手はすぐさま剣を引き抜く。
「あんたの強みは攻防バランスの取れたステータスの高さ、そこにセルフバフをかけて更に強くなるのは分りきってるんだから、邪魔させてもらうよ」
と言いながらも、拳から次弾を発してきたので、
壊剣術 天荒
重剣に術をまとって火の玉を斬る事で相殺、左手で背負った盾を掴み構える。
重剣にかけた術はこのまま維持でいく、何しろ相手は常に火を纏い、飛ばしてくるのだから、術士として対応するのがいいだろう。
更に飛んできた火の玉を今度は、
殴盾術 獅子打
中盾で殴りながら一歩前に踏み込む。離れていては結局何もさせてもらえない、距離を潰すのが今一番大事なことだ。
いつの間にかガイヤさんの少し上に二つの火の玉が浮いているが、一体何の役割だろうか?
まあ、このまま手をこまねいていても、一方的に火の玉をぶつけられるだけの勝負になってしまうし、勇気を出して、どんどん踏み込む。
次から次へと飛んでくる火の玉を剣と盾で交互に相殺し、何とか手数も間に合っているが、一方的に殴られている状況は変わらず、自分より軽量のガイヤさんに追いつくのは中々骨の折れる作業になりそうだ。
あくまで直線的に飛んでくる火の玉をリズムで一回ラッキー回避出来たので、大きく一歩踏み込んだところ……。
ガイヤさんの横に浮いていた火の玉が二つ襲い掛かってきた。
一個は重剣で斬り払い、もう一個は避けようとした所、カーブしてきて肩にぶつかる。
ついに一発相殺出来ずに喰らってしまったが、耐性装備のおかげかまだダメージ的には十分許容できる範疇だ。
一つ大きく息を吐き、気を入れなおして距離を詰める作業を再開する。
何発かまた撃ってきた火の玉を迎撃しつつ、ギリギリ避ける度に大きく距離を稼ぎ、今度は浮遊する火の玉二つも剣と盾で迎撃した。
間合いは十分、
壊剣術 天崩
巨大化する重剣でガイヤさんの足を払うと、予想通りジャンプして回避された。すかさず、
殴盾術 獅子追
盾を構えたまま、ガイヤさんの落下地点目掛けて直線を突っ走る。
「噴射!」
ガイヤさんを轢き飛ばす衝撃に耐えるつもりで体を固めた所に、頭上から炎熱が降りかかってきた。
ダメージに足が止まり盾を頭上に掲げた所で、ガイヤさんは空中で宙返りをしつつ少し離れた場所に降り立った。
「浮いた所を狙うのは定石中の定石、その裏を掛かれるのが一番メンタルに来るんだよ。でもまだ焦る時間じゃないよ。ソタロー」