241.記者会見
長机には横並びでマネージャーをしてくれてる鼠のヒト、自分、ガイヤさん、そして見知らぬ女性が並んで椅子に掛け、向かいには大勢のヒトがメモを片手にこちらを見て何やらメモをしている?
進行係の司会らしきヒトがいるものの、今はガイヤさんの横の女性が今回の対戦の経緯や会場その他の事項を説明中だ。
ここは記者会見場。
鼠のヒトにガイヤさんと戦う事になった事を伝えて、その日は調整程度の【訓練】をこなし、次のログイン時にはこの騒ぎという状況に頭がついていかない。
しかし浮ついているのは自分だけ、他の三人はまるで慣れっこのように、すました顔で真っ直ぐ正面を向いている。つまり自分だけがあっちを見たりこっちを見たり落ち着かない、そしてそれを自覚して更に変な風に見られないかドキドキする悪循環に陥っているのが現状だ。
女性のヒトはどうやらガイヤさんのスポンサーらしく、今回の対戦を仕切るらしい。
以前【砂国】でマダム・アリンの所に潜入したときに名前を貸してくれたヒトかもしれないので、あとでちゃんとお礼を言っておかねば!
と思った所で、今度は鼠のヒトが自分の立場なんかを説明してくれたので、これで終わりかとほっとした所……。
「では、質問時間に移りたいと思います。質問のある方は挙手お願いします」
え?これって自分も答えなきゃ駄目なやつかな?
「鉄壁の不屈にお尋ねしたいのですが、以前炎の巫女のクランメンバーと対戦、しかも10人抜きしていますね?これは実質敵対関係にあると捉えてしまっていいのでしょうか?」
答えなきゃ駄目なやつだ。しかも変なこと言ったら大変な事になるアレじゃないか?
「いえ、関係は良好です。メンバーそれぞれが違った形のスタイルをお持ちで勉強させていただいたと思っています」
これでどうだ?質問者が何か残念そうなのは何でだ?
「じゃあ、次は私が!【帝国】所属となれば『漆黒将軍』とも面識があるかと思います。炎の巫女との因縁を引き継いで戦うと言う事でよろしいですか?」
しっこく将軍?聞いた事あったっけ?あったような無かったような?伝説上のヒトとかだよな?なんでガイヤさんと因縁があるんだ?
「すみません、自分はその方の因縁はよく知りません。ニューターの中でも抜きん出た実力者であるガイヤに挑戦できる日を楽しみにして【闘技場】で腕を磨いてきただけですので、こんなに早くチャンスをいただける事を感謝しています」
質問者がなんか不服そうなのはなんでだ?
「はい!こちらの調べで鉄壁の不屈は今1000人を率いての大規模戦に挑む準備中だとか?それほどの立場の方が何故【闘技場】で対戦を?お金か名誉か?」
「次の戦いの準備の内、集団戦術、陣容が整い、あとは装備の完成を待つばかりとなりました。その間に少しでも己を高めておく事が、勝率を上げる近道だと思って修行に来ました」
質問者が尽くつまらなそうな顔なんだが、何を間違ってるのか分らない。
「うーん……以前、筋肉の祭典で優勝経験があると思うのですが、その際大会最高の祝福を得たとも記録があります。既に他の追随を許さない筋肉をお持ちでいながら、何を高める事があるというのでしょうか?」
「まず、一つ目に戦闘技術ですね。当たり前の事ですが強敵と戦う上で筋肉のみで勝とうなど当然不可能です。まだ見ぬ敵はきっと自分より遥かに生物的に優れているのです。それを埋める為に技術を磨くのは当然です」
また、座ろうとする記者?だが、自分はまだ一つ目しか話してない。
「そして二つ目に、これが重要です。筋肉はいくら鍛えても十分と言う事はありえません。どれだけ鍛え続けてもやめればあっという間に衰えます。ヒトの体は日々入れ替わっているのです。まず体の材料になる物を食べるべきです。そしてエネルギーになる物を食べるべきです。そしてそれらを使って徹底的に己を破壊し、再生させる!それが生きると言う事!つまり食事をする事と筋トレする事こそが、人生!……」
「うん、ソタローちょっと落ち着こうか」
何かガイヤさんに止められてしまったが、この何も分ってない記者の目を覚まさせてやる事こそ、優しさ!最も大事な事が欠落している可哀想なヒトを見てみぬ振りなどしたら、カピヨンさんになんと言われるか!
そう!元はと言えば、今の自分があるのはカピヨンさんのおかげ!鬼を背負う漢の背中を追いかけてここまで来たのだ。
「自分は筋肉の素晴らしさを伝えに来た!」
このあと自分への質問は鼠のヒトが答え、自分だけ喋らせてもらえなかった。
そして、あちらこちらの新聞には『筋肉こそ至高!体を鍛えろ!』『人生とは筋トレと食事、ヒトとは筋肉だ!』『いくら金を積んでも得られない究極にデザインされた武装にしてファッション!それが筋肉!』と、何かやたらと煽られるんだけど、なんでそんな筋肉ばっかり?
それにしても、失敗したな~。記者会見なんてあるなら教えておいて欲しかった。