239.あとは自分だけ
クラーヴンさんとポッターさんの二人はテンション上がったまま耐熱装備の開発と量産に取り掛かったようだ。
予算交渉もあっさりと済ませ、キャッキャと素材選定を始める姿を見ると、何故か全身に寒気が走り鳥肌が立ち、
これは関わっちゃいけない世界だと本能が感じ取り、あとはお任せで静かさり気なく立ち去る事にした。
トッププレイヤーは生産職だろうが、戦闘職だろうが、深く関わると大変な事になる。つまりお任せできる事はお任せして、自分は最後の課題に取り掛かろうと思う。
それは自分の強化、集団戦については<八陣術>を手に入れ、熱に対する装備の目処もたった。とは言え、装備生産完了までの時間何もせずに無為に過ごすのは勿体無い。
出来る事ならもう一つくらい切り札が欲しいが、こんな時に相談するべき相手は……、
「ソタロー……君がすでに仕上がりに仕上がった筋肉を持ちながら、まだ我々を頼ってくれるというなら、全身全霊で僕達の持ちうる切り札を伝授しようではないか」
「難敵を前に更なる修行でその敵を乗り越えようなんて、主人公やってるねソタロー……もしかしたら北辺の怪物を倒すと言う偉業をなした者の師匠として僕達の名前も【帝国】の歴史に名を刻まれてしまうかもしれないね」
師匠達のキラキラが過去最高をマークしていて、いつも薄暗い【古都】が妙に明るい気がするが、それは一旦置いておこう。
「師匠達にはいつもお世話になってますし、まだまだ自分に足りない事が多いのも分かっているんですが、具体的にどうすれば強くなれるのかイメージが湧かないんです」
「ふむそうだね、はっきり言って現状攻撃力防御力共にソタローは世界の上位に食い込んでいる実力者だ。それでも自分の戦闘力に不安を感じると言うなら、より特化した能力や得意とする状況に持ち込む手段と言う事になるかな?」
「確かに兄さんの言う通りソタローは、まず正面からの殴り合いで押されると言う事はない筈だね。それだけ圧倒的筋力と言うのは汎用性が高い。その筋力で装備上限を引き上げ、一発当てれば敵の生命力をごっそり削り取る。本来なら敵の方が脅威に感じる筈なんだが」
いつの間にか自分は世界上位に食い込んでいたらしい。全く実感がないのだが、それもこれも師匠達や、筋肉の育て方を教えてくれたカピヨンさんはじめとする周囲の環境のおかげだろう。
「そうなると、自分に出来る事は地道に筋肉を鍛える事くらいしかなさそうですか?」
「うん……ソタローの筋肉はそれはもう大変素晴らしいモノだけど、それだけで物事を解決するのはそろそろ限界だと言う事だろう。だから得意なフィールドに持ち込む絡め手と言うのが必要になるのではないかな?」
「確かに身体能力的な部分では筋肉を極限まで高めたソタローなら今が限界だろう。だからこそ術でそれを補強する為に僕達がいるんじゃないかな?だから、早速具体的な話を始めよう。まずは僕からだ。ソタローの筋力を全力で活かすときこの雪国で一番のネックはなんだい?」
「重量で足が埋る事でしょうか?でも素早い敵が相手の場合は寧ろ足の遅い自分に有利に働いてくれますけど……」
「そう!ソタローの強みは圧倒的ウエイト&パワー!装備で解決できる段階を超えた極限の筋力を手にした今、この雪国での決戦術を伝授しようとそういう事だ!」
「まさかこのときが来るなんて!ソタローが【闘技場】で己を高めていたのはこの時の為だったんだね!何しろこの術を取得すれば、足場を気にして闘う必要はなくなる。その代わり敵も同じ条件になる。つまり、正面衝突で決着をつけざるを得ない状況に持ち込むそんな術さ!」
何か徐々に師匠達のテンションが高まっていくけど、どういう事だろうか?そりゃ足が埋らなければ 天衣迅鎧 で筋力と重量を大幅に高めてある意味自分の全筋力を使うことは出来るが……。
「その顔、不安を感じてるのかい?安心したまえ!この術は 天沼 の様に剣を手放さねばならないものじゃない!」
「そして、重剣や盾を持っている状態で発動できないと言った制限もない!」
「それじゃ、リスクが何にもないじゃないですか?」
「ふふ!これは我ら兄弟の絆!<壊剣術>と<鋼鎧術>の双方を習得していなければ意味を成さない!」
「そう!僕達二人から術の伝授を受けたソタローにしか使えない、まさしく決戦術!」
「ルークは?」
「ほら、あの娘はちょっとクールって言うか【帝国】の極寒に心の温度を吸い取られたような冷徹な性格だから」
「そうだね。勿論可愛い妹だし、大事には思っているんだけど。決戦術を開発しようっていったら『え?面倒くさい。それよりおいしい物でも食べようよ』って言われてしまってね」
「そうでしたか。それでその決戦術と言うのは?」
「まずは<壊剣術>の使い方だが、重剣に精神力を流して更に影響力を広げる性質を利用して自分の周囲の空間に自分の精神力を満たすのだ!」
言われるがままに重剣を天を突くように掲げ、自分の周囲一帯を精神力で満たす。
「更にその上に<鋼鎧術>を乗せる様にして、周囲を固定化して強力な壁と床に作り変える!」
何かよく分らないが、取りあえず鎧にも精神力を込めると、それが周囲に拡散されていく。
「これで、どうなったんですか?」
「雪は足を沈めず、入った者を逃がさない強固な壁が出来上がった。ちなみに誰を入るか決めるのはソタローだ」
「つまりこれは、ソタローが選んだ相手と決闘するフィールドを作り出す術となるね」
壊剣術 天蓋
鋼鎧術 護土鎧
セットでしか意味のない術を取得した。