23.レギオン戦
「おい!とりあえず景気づけにファイアーボールだ!」
バルトさんが叫ぶと、周囲から火球が放たれ、それが先ほど嵐の岬の面々が設置していた樽に引火し、大爆発を引き起こす。
耳をつんざく轟音に思わず盾を構え、その裏で身を小さくして爆風に耐える。
まだ耳鳴りがするが、周囲を確認すると釣竿を持ったおじさんと女の子が自分を盾にしていた。
まあ、二人とも如何にも軽装備だし、重装備の自分が守るのは当たり前だろう。
寧ろすぐに自分を見つけて隠れた二人の機敏さや目端の利く所はもっと見習いたい所だ。
そこにアンデルセンさんが来て、
「早速始まっちまったが、その二人の他に何人か支援連中を面倒見てくれるか?折角参加したのに守りで悪いが」
「いえ、レギオンなんて初めてですし、役割もらえるだけありがたいです」
そうして、自分の周りには服装備の人達が集まり、一応パーティを組む。
その間も嵐の岬の面々は怪鳥に激しく攻撃を浴びせ、徹底的に飛ばせないようにする作戦のようだ。
そして、自分が守るように言われた人達もなにやら術を使っている。さっきからエフェクトが飛びかっているのだが、何の術かまでは分からない。
「あの、釣竿って何に使うんですか?」
「そりゃ釣りに決まってるだろう?」
「そうじゃないヨ!何で戦闘に釣竿持ち込んでるか聞かれてるんだヨ!この竿はね杖の代わりに使うんだヨ」
「そう!さっきから青いエフェクトが出てるだろ?コレが<水精術>を使ってる証拠さ」
「スイセイ術?」
「ああ、水の精霊さ!俺は釣りばっかりやってる所為か、水精と相性が良くてな」
「何言ってるのサ!【海国】は海ばっかりなんだから<水精術>なんて誰でも取るだロ!」
なるほど、確かに言われてみると青いエフェクトが多い気がする。
つまり【帝国】だと白いエフェクトの精霊と相性がいいのかな?
その時、怪鳥が一羽ばたき、急な突風に盾を構え耐える。そして相変わらず目端の利く二人はすぐさま自分の後ろに、気が付かなかった二人は風に飛ばされ木に激突。
服しか着てない二人には、結構なダメージが入ってしまったので、大急ぎで<手当て>を施す。
最近合成したばかりだが、まあまあの回復量。ただスキルを取得した時に、しれっと書いてあったが治療用道具というのが存在するらしい。
手に入れたら回復量がどれだけ上がるだろうか?
ちなみにそんな事している間にも、嵐の岬は攻撃の手を止める事はない。
やはり鳥は飛んでこそ強いのだろう。地面から一瞬浮き上がろうと脚に力を入れたところをバルトさんのあからさまにファンタジー大剣で斬り払われ、膝を突く。
怪鳥が羽を一扇ぎして、周囲の近接戦闘員を仰け反らしたり、吹き飛ばしたりしても、距離の遠い位置にいる遠距離攻撃要員の矢や術が飛んできて、怪鳥の動きを阻害する。
ちなみに、自分が回復できると知れるや否や、あっちからもこっちからも人が集まってきて<手当て>を頼まれ、護衛どころじゃない。
回復ってもっと術?とか色々あるだろうにと思うが、今の所ひっきり無しだ。
「おい!来るヨ!」
女の子の声と共に、
キィィィエェェェェ!!!と怪鳥に相応しい鳴き声が響き渡る。
「おい!早く士気回復術を!!」
「なんですか?それは?」
釣りおじさんから何か要求されたがよく分からない。
詳しく聞きたいのだが、体が痺れて動かない。そしてそれは自分だけじゃなく、全員同様。
いきなり攻撃の手が止まり、不気味な静寂に包まれる。
そして、怪鳥だけ両足で立ち、膝を屈め勢いをつけた瞬間、一斉に全員体が動き始め、突如怪鳥の姿が消えた。
いや、消えたと思ったのは目の錯覚で、落とし穴に落ちたようだ。
そこに上から猛攻を掛けて、倒しきろうと嵐の岬のメンバーは全力を絞りつくす。
そして、自分は引き続き<手当て>する。
「そろそろ生命力も削れてきたし、もう一回何か来る頃だヨ!」
女の子の声にすぐさま伝言ゲームで前線まで指示が飛び、全員が警戒した瞬間、
怪鳥はまるで自分の体に打ち込むように、真下に口から何かを吐き出す。
術エフェクトとは比べ物にはならない、エフェクトの噴射に、勢いで体が持ち上がり、そのまま羽ばたき、空中に浮いていく。
誰か、弓でも術でも……と思ったが皆震えてたり、体の動きが完全に止まっていたり。
何事かと思ったが、逃がすわけには行かない。
自分一人だけでもと思い走って怪鳥の元に駆け寄るが、既に剣の届く範囲ではない。
周りを見ても、敵に近ければ近いほど、まるで動かない人が多い。
駄目か……逃げられた?
すると、空中を銀に切り裂く一閃が怪鳥の左目に突き刺さる。
振り向けば、ビエーラさんをシェーベルの後ろに乗せたカヴァリーさん参上。
かなり遠くから狙撃した筈だけど、あの鹿だか山羊だか分からない動物で、辿り着いちゃったんだ!
そして、震えながらもまだ症状の軽い遠距離攻撃部隊が再び攻撃再開。
さらには釣りおじさんが、青いエフェクトの術を使うと、完全に動かなかった筈の近接戦闘員が動き出し、攻撃に加わる。
「水精術って状態異常を直せるんですね!アレは何の状態異常なんですか?」
「え?ああ、水精術は状態異常を直すのが得意だが、割と何でも直せちゃうので、何を直したかは分からないんだ」
「ええ……」
「アレは凍結だヨ。凍傷の酷いやつだから、同じ薬で状態を緩和できるかもしれないヨ」
「分かりました!やってみます!」
こうして一人、また一人と状態異常を直していき、戦闘に加わる人数が増えるにつれ、こちら有利になっていき、
最後は嘴の中になんか巨大な石が露出したので、全員で一斉攻撃。
石が割れると怪鳥から力が抜けその場に崩れ落ち、勝利が確定した。
すると耳慣れぬファンファーレが急に頭の中に響き渡り、
ファーストアタックやMVPなどが発表されていく。
バルトさんが持っている肩当や、ビエーラさんが持ってる長い白い骨?のような物がきっと賞品なのだろう。
皆で<解体>タイムが始まり、剥ぎ取りをしているので、自分は隅の方で座って見守る。
「よっ!大活躍だったな!」
「いや、何も活躍できませんでしたよ。見てるだけだったんで次こそは頑張ります」
「何言ってんだ!守れって預けられた奴らは全員残ってるし、持ち場を離れず回復に専念してくれたから、皆あそこまで戦えたんだぜ!またよろしくな!」
「ありがとうございます。ところで1個、士気回復ってなんです?」
「ソタロー……<戦陣術>はまだ取ってなかったのか……」
「え?」