238.クラーヴンさんと【鉱国】
酷暑の【砂国】から極寒の【帝国】へ、一旦【兵舎】でログアウトして再ログイン。
今日は熱波を防ぐ土器を探す為に【鉱国】で情報収集の予定なのだが、最近はすっかり行動範囲が増えたものだ。
土地勘のない場所に適当に行って何とかなるかと言えば、経験上結構何とかなってしまうのだが、しかし今回の目的は装備の情報収集、筋肉で語るよりももっと効率のいい方法が有るかもしれないし、まずはクラーヴンさんに相談しようと思う。
早速ゴドレンの店に向かい、
「クラーヴンさん!土器の情報収集するのにいい方法がありますか?」
「あ?あ~熱を防ぐ為のセラミックシールドを手に入れるつもりか?それならお前の冑のバイザーに嵌ってるガラスを作ってる職人がいるから、連絡を取ってやろうか?」
わざと、隊長っぽく、フワッと適当に聞いてみたのに、的確な回答が帰ってくる辺りさすがクラーヴンさん。
「よく言いたい事が分りましたね。例の北辺の怪物と戦う為に情報収集をいている最中なんですけど、どうやら【鉱国】で作れる土の防具で熱波を防げるらしいんです。今も防具の作成を進めてくれているとは思うんですけど、これで負担が軽くなるかと」
「それは、あるな。セラミック装備は腐食と熱に強いってのは知識として持ってた筈が、すっかり忘れてたぜ」
「クラーヴンさんでもそんな事有るんですね」
「そりゃ俺もうっかりってのはある。セラミック装備が存在してる事は知っていても、使ってる奴ってのはいないんだ。何しろ<手入れ>や修理ができない使いきり装備でな。まあその分耐久力はあるが、それでも武器防具に使い捨ての物を使うってのは珍しい」
「確かに装備というと修理しながら大切に使う物だから、使い切りって何か勿体無い気がしますね」
「だろ?その職人で有名なのが一人知り合いにいるから、一緒に行ってみようぜ。いつかセラミック装備作りたいと言いながら、だ~~~れからも依頼されずに眼鏡作ってる変人がいるからよ」
また変人か。っ本当にクラーヴンさんは面倒見がいいと言うかなんと言うか、変人であっても当たり前に普通に対応するし、自然とそういう人達から信用されるのかな?
それに変人だとしても、そのヒトにセラミック装備?を作ってもらう事で北辺の怪物を倒せるなら何の問題もない。
何しろこのゲームの変人達は、行動が変なだけで人はいい場合が多い。そうつまり奇行の多い人達が結構いると言うだけだ。
だけといいつつ、ちょっと不安になってしまったが、クラーヴンさんと一緒なら大丈夫。何しろ、変人扱いのプロ!あの隊長すら適当にあしらう人なんだから、全部お任せしよう。
クラーヴンさんと一緒に連れ立ってポータルで【鉱国】のサンハッカーに飛ぶ。そのサンハッカーが【鉱国】のどの辺なのかは全く土地勘がないので分らない。
よくよく考えれば【帝国】以外の土地はポータルで移動しているので、土地勘がないのが当たり前か。そして大抵のプレイヤーがポータルを使っているのだから、そう珍しい事もないだろう。
どこかの変人は歩いて世界を巡るとか、気にしたら負けだ。
ポータルで飛んだ先は広い地下空間?空が見えないので屋内で間違いないのだが、何となく雰囲気が地面の下の地下都市といった風情だ。
なんでそう思うのか、まず都外周の壁が土っぽい事と空気の流れを感じない事が根拠だ。
まあ、全く空気の流れがなかったらもっと息苦しいかもしれないが、なんとも変な感じのまま、クラーヴンさんについていく。
すると、やたらと明る気な声が、自分達を呼び止めた。
「やあ!クラーヴン!そちらが、セラミック装備を欲してるって言う御仁かい?立派な装備に身を包んでいるのに、不思議だね!それでどんな物をご所望で?」
勢いに押されて自分が困っていると、代わりにクラーヴンさんが対応してくれた。
「まあ、落ち着けよポッター。こいつはソタローと言ってな【帝国】じゃ既に相応の地位にいるんだ。今1000人を率いて熱を使う敵を倒さなきゃならなくて情報収集及び装備調整中でな。それで熱に強いセラミックシールドを量産できないかって、話なんだが……」
「出来るとも!この日をどれだけ待ち望んだか!コツコツコツコツコツコツコツコツ眼鏡とNPCクエストの焼き物ばかり焼き続けて、浮いたお金でセラミック装備を作っては溜め込む日々!それで何が幾つ必要なんだい?」
いきなり幾つとか言われても、ちょっと思いつかないんだけど、まずは大盾が?
「大盾が200と小盾が400、その他に携行しやすい物があれば教えてくれ」
さすがクラーヴンさん。装備を作っているだけあって、何を幾つ必要かまできっちり把握している。だが一点気になる事が!
「すみません、自分の資産に限りがあるんですけど、おいくら位する物ですか?」
「う~ん、それだけの数となるとね~」
「ああ、それはいい俺が立て替えておくし、ちゃんと【帝国】からも報酬が出るから、安心しろ」
「いや、立替とかそんな訳には!」
「じゃあ、僕の方が後払いでいいよ。NPCからの依頼と言う事であれば、まず未払いと言う事はないだろうし、なんならその依頼人と直接交渉するさ」
それだけ言うなりクラーヴンさんとポッターさんは連れ立って【帝国】に帰って行った。
全く入る隙もない。これがトップの生産者なのか?