237.リザードマンとの対話(筋肉)
何もない砂漠の片隅、少し離れた場所にある都は砂にまかれて、まるで幻のようだ。
砂漠の幻と言えば蜃気楼を一度見てみたいが、いつかチャンスはあるだろうか?
まあそれも、目の前にいる大柄のリザードマンを倒してからの事だ。
別に敵対した訳じゃない、道行くリザードマンに声をかけたらソヘイラ様の護衛を筋力で倒したと言う事がいつの間にかリザードマンコミュニティに広まっており、我も我もと戦いを挑んでくる羽目に……。
困っていた所、この都で最強のリザードマンと力比べをする事になって、そのまま都の外れにある砂漠の一角まで出てきたというのが事の顛末となる。
そこは、昔町だか村でもあったのだろうか?殆ど風化してしまって原型は不明、ただ石の土台が残るのみのフィールドで、闘技を行う。
そしてどこから集まったのか、リザードマンに限らず都に住んでいると思われる人々がギャラリーとなって、勝負を見守っている。
「さて、力ある者よ。用意はいいか?勝負は何でもあり、この石台から出ない事それだけだ。勝っても負けても赤竜の化身様との戦いに用いたヒトの防具について教えてやるが、それで手を抜かれてもつまらぬ。勝ったら我らが故郷である赤い河近くで採れる特別な石をやろう」
石貰っても、使い道がないんだけど……くれると言うのだからありがたく貰おう!その為にはまず勝つ!正直な話、石より見るからに強敵と分るリザードマンの筋肉と語り合う方がよっぽど有意義だし、手を抜くつもりは全くない。
特に何の合図もないので剣を引き抜き地面に突き立て、
壊剣術 天沼
鋼鎧術 空流鎧
鋼鎧術 多富鎧
鋼鎧術 天衣迅鎧
鋼鎧術 灰塗鎧
自分にバフを全開で掛けていくが、相手は微動だにせず、こちらを見ているだけだ。
ゆっくり両手の平を相手に向けるように構えると、かなり大型の槍と薙刀を合体させた様な長柄武器で斬りかかって来た。
それを篭手で受け止めると、その武器の重量が増したのが分る。
武器を支えるように一瞬動きが止まった所で、もう一発武器を殴りつければ、そのまま武器を取り落としたので、間合いを詰めて、前蹴りを喰らわせる。
腹筋で受け止められそのまま右足を掴まれ振り回そうになったが、天衣迅鎧 で増した重量を引っ張りきれなかったのか敵が体勢を崩した。
今度は自分が掴みかかると、敵も足を離して正面から掴みかかってきた。
まるで相撲を取るかのようにお互い防具の隙間に手をかけたが、よく考えたら自分には投げも何もないので、
武技 撃突
取りあえず体当たりを食らわせたものの、敵も然る者で掴んだ手を放さず、自分の重心の下に入るようにして体を浮かせてきた。
このまま投げられても困るので、すぐさま敵に抱きつき、
武技 鋼締
自分の筋力を最大限活かせるように相手を締め上げていく。
しかし、それをどうやったのかするっと、肩を抜かれてしまい、腕が空を切るのと同時に地面に叩きつけられた。
硬い石のリングにしこたま腰を打ち、痛かったがここは我慢と、すぐに立ち上がる。
敵が手の平で顔面を狙ってくるので、こちらは<蹴り>で脇腹をえぐり、お互い弾け飛びながら、今度はローキックとボディブローが交錯した。
お互いノーガードで自分は<蹴り>を、相手は突きをぶつけ合いジワジワと消耗しあう。
そして、敵が目の前でクルッと回り背中をこちらに向けたかと思いきや、尻尾で胴を払われた。
一瞬息が詰まるが、その尻尾を両手で掴み、そのまま場外まで引き摺りだし、完全に力技で勝ちを拾う。
殴り倒した訳ではないので、周りで見てるギャラリー達がどう反応するかと思ったが、歓声を上げるような事がないだけで、みんな感心したような顔をしている。
多分これで勝ちという事で、いいのだろう。
場外に落ちた敵が戻ってきて、話を始めた。
「うむ、いい筋力だ。まさかこの俺が手間取るほどの重量で自在にその体を操り、更には最後まで力比べに終始するその心意気、気に入った。赤竜様にお使えするつもりはないか?」
「一応自分は【帝国】で白竜様復活の為に任務を受けている身ですので、一時に二竜にお使えするのは遠慮して置きます」
「なるほど、赤竜様と対を成す白竜様の信者だったか、それは失礼した。なれば約束通り赤竜の化身様の熱波を防いだ武器を教えてやろう。それは【鉱国】にて土で作られた防具及び盾を使用したそうだ」
「土器ですか?そんな物で熱が?まあそれは【鉱国】に行って調べてみるしかありませんね。ありがとうございます。ところで相手は北辺の怪物とは言え、元は赤竜の化身なんですけど、それと戦う方法をこんな簡単に教えてしまってもいい物ですか?」
「うむ、きっと赤竜の化身様も喜ばれるだろう。何しろ長い時を封印されてきたのだ。思い切り戦える相手がいて気に入らぬ事などないはずだ」
うむ、赤竜関係者は脳筋か……。
「そういうことなら、思い切りやれるだけやります。それじゃ!【鉱国】に行きますね」
そう言って立ち去ろうとすると、肩をガシッと掴まれ、手に何やら硬いものを押し付けられた。
「忘れ物だ。それじゃ達者で!白竜様の復活も心から願うとしよう」
「こちらこそ、赤竜様が世に顔を出す日を心待ちにします」
一応、そんな感じで別れたが手に押し付けらたのは赤く透き通った宝石だ。綺麗だが何の石なのかはさっぱり分らない。