233.八陣術
【旧都】も雪がちらつく事に変わりはない。
結局【帝国】のどこへ行っても真っ白な雪と曇った空が広がり、これと言って何が違うわけでもないのに、なんで一つに国になるのに戦争が必要だったのか、それが今一番の不思議だ。
しかし、今いる【旧都】こそが皇帝陛下と国務尚書の先祖の拠点となる都市国家だった訳だから、ある意味【帝国】発祥の地と言っても差し支えないだろう。
何故立地的にも歴史的にも【帝国】の中心となる【旧都】にいるかというと<戦陣術>の上級術を得る為なのだが……。
「あの、国務尚書はお忙しいと思うのですが、ついて来ちゃって良かったんですか?」
「勿論必要な事は指示してある。敢えて放って置く事で下の者達の判断力や自主性が磨かれるし、それを後々よく精査する事で、各々の性質や向き不向き、思わぬ才能などが垣間見えたりする。なんでも自分でやる事が最善ではないと私は考えている」
その割りに部下の上級術取得についてきちゃてますけどね~。
国務尚書との二人旅とか言う、胃痛しかない状況で向った先は【旧都】の古い石造りの建物なのだが、ぱっと見は古めかしい教会といった風情、ちなみに特に十字架が飾って有るとかそんな事は無い。
木造の建物が多い【帝国】には珍しく石積みで作られた建物の壁は黒く重苦しい、窓はガラスが嵌っているが後付けなのか窓枠だけは金属製で少し新しく見える。
簡素な木の柵しかない土地に入り、誰か掃除しているのであろう飛び石の上を歩いて建物に近づくと流石に扉は木製の分厚い扉だった。
天上の高い建物内も簡素なもので、人が住むような場所でないことだけは確か。木床の広間の奥には大きな直方体の石が一個だけ安置され、誰が供えるのか鉢に花が植えられいくつか並べられている。
「ここは何の宗教施設なんですか?」
「宗教とは全く関係ないな。ただ一定の資格があると認められた者が<戦陣術>の上級術にあたる<八陣術>を手に入れるだけの施設だ。【帝国】集団術の大元となる術を記録してあり、その安置所とでも思えばいい」
「じゃあ、あの奥の石碑に上級術が記録されている訳ですか、変質したり失伝したりしないように石碑にして残したんでしょうね。ここに連れてきたって事は見てしまっても?」
「勿論、よく読んで取得するか決めるといい。別にこれといって何かする必要はないが、私か皇帝陛下、もしくはどちらかが選んだ代理人が立ち会うのが慣習となっているので、ここで待とう。ある意味それが国の儀式的な意味のある行為なので、私を気にせず熟考するといい」
そのまま国務尚書は入り口近くで待機するようだが、上司と言うか政治のトップを待たせるこちらに身にもなって欲しい。
取りあえず石碑に近づき、どんな術かを確認すると<八陣術>名の通りに八つの絵があり、名前は何気に<戦陣術>と結構被っている。
まあ大元になった術なのだから当たり前だが、
魚燐陣・鶴翼陣・雁行陣・彎月陣・鉾矢陣・衝軛陣・長蛇陣・方円陣というラインナップ以上!
つまり強力な8種類の陣形のみを操って、戦うことになるということだ。これは確かに小回りが利かない。
説明を読み進めていくと<戦陣術>のみならず、<軍略士>丸ごと消費してしまうとの事だ。
隊列に関しては術で賄えると……、戦法の様な敵に影響するデバフは使えなくなる分、自軍へのバフが強力になりますよ?士気に関しては術を使用して陣形を組むだけでついでに高まるって……士気コントロール難しすぎじゃん!
ああ、でも陣形を組むと徐々に士気が消費されるタイプなのか、じゃあ士気を上げたい時に使用して、少し時間を置くことで、落ち着くと……?
それから<八陣術>使いの隊に所属する者は士気の許容値が上がり、さらに暴走しても指揮官が敵と認識している相手を強制的に攻撃するようになるって……。
つまり、わざと暴走するまで<八陣術>を使いまくれば死兵になるのか、怖!
まあでも確かにこれを元にスキルを分解していったのは分かる気がする。どうやってスキルをバラバラにするかは知らないけど、ちょっとこのままだと使いづらいかもしれない。
どうするか……100人指揮なら<戦陣術>のままの方が使いやすい気もするけど、1000人指揮となれば、これくらいシンプルに指示を出して、あとは現場に任せる方が間違いがないのかな?
<戦法>はいざ戦いが始まると忘れちゃうし、使うタイミングは難しい。
<行軍>は<戦陣術>の効果を高める使う場合が多いし、セットになってるなら別に問題ないか?平常時はできるヒトに任せればいいもんな。
問題は<軍法>に含まれる隊全体の士気上昇と速度上昇系バフなんだけど、これも術さえ発動すれば今までの比じゃないらしいし、取得しちゃっても問題ない気がしてきた。
よし!男は度胸!上級術を取得するのは初めてだし、やるだけやってみよう。
「取得します!」
「うむ、分かったその石碑の手の跡に触れるといい」
言われるがまま触れると、石碑から柔らかい光が漏れ出し、その光に包まれた。