232.中々に大事
国務尚書と話している最中になんだが、ちょっとこの会議室は息苦しいと言うか、圧迫感があるなと思ったら、窓がない部屋だった。
熱を逃がさない為なのか、会議の内容が漏れないようにする為か、理由はそんなところだろうが、外は雪が降ってるし部屋の中はやかんの水蒸気でちょと湿度が高い気もする。
湿度までデザインされたゲームなのだとしたら、現実の再現度が高すぎな気もするけど、気の所為とも言い切れない。
まあ、そんな事を気にしてても仕方ない。忙しい筈の国務尚書が時間を作ってくれてるのだから、手短に話を済ませてしまおう。
「まず、赤竜の化身については【砂国】に行って話を聞いてみようと思います。特にリザードマンに会えればベターなのかと思いますけど、どこに行けば会えるものなんでしょうか?」
「うむ、砂漠の奥地で会いやすいとはされているが、都などで護衛として雇われている事が多いらしいから、見つける事自体に難はないだろう。【帝国】に残っているのは北辺の怪物と呼ばれる姿のみだ。そしてその姿を見たのは封印時に戦った者達だけであり、記録が古すぎて伝承の散逸も多い」
ふむ、やはり北辺の怪物の前身である赤竜の化身の情報は【砂国】で集める事を推奨されていると解釈していいだろう。
「では次に北辺の怪物は空を飛ぶと言う事なのですけど、その古の伝承ではどうやって倒したとされているんですか?」
「どうやってと言うよりは、ひたすら粘ったようだな。【帝国】ならば雪が降るのが当然だが、その雪が毒のようにジワジワと北辺の怪物の命の源ともいえる高温を奪い、結果自らを封印せざるを得ない状況に追い込んだと言うのが伝承だ。つまりヒト側は手も足も出なかったらしい」
「手も足も出ない相手をどうやって倒せと?」
「倒せるかどうか分らないが、長き事封印されていて弱ってるかもしれないから、やれるだけやってみてくれという事だ。だから最初に失敗してもいいと伝えるように指示したが?」
ルーク!言ってはいたけどちょっと説明が足りないぞ!
「そういう事でしたか、それで手も足も出ないというのはその飛行能力が厄介だと言う事で間違いないでしょうか?」
「いや、相手はかなり好戦的で敵と見れば襲い掛かってくるらしいので、厄介であっても決定的な能力の差ではない。問題は触れればただ事では済まない高温だな。当時はそれに対応しきれずかなりの犠牲を払ったとされている」
「確かにまだ本体を引っ張り出せていない状況にも関わらず、一回目失敗したのは敵の術で大隊の約半数が行動不能になったからなんですけど、本体はそれ以上という事ですか」
「報告によると一定時間溜めからの熱波と爆発する熱球となっているな。しかし先頭に立ち、殿もつとめていたソタローは生き残っているのは何故か?」
「氷精を中心とした耐性装備を使用していたからかと」
「そうだな。と言う訳で本作戦ではソタローに【帝都】の【術兵】隊の使用を許可する。更に術士ミランダ様も副官として付けよう。それでかなり状況は改善される筈だ」
「えっと、前回許可されなかったのは?」
「敵の状況、戦力分析の必要があったので、まず一戦してもらったのだが?」
うん、合理的だけど冷徹すぎる!こういうところが為政者なんだな~と思う部分だが、逆に自分には出来ない判断だし、こういうヒトがいないと世の中纏らないのだろう。
真面目に誰よりも働くヒトが合理的で頭が回るのだから、それに越した事はない。
「じゃあ、あとは<戦陣術>の上級術と言う事になりますか?」
「その通りだな。ソタローは上級術を取得するのは初めての様だが、メリットとデメリットは把握しているか?」
「いえ、そういったものがあるとしか……ただ、今より大軍を率いるのに向いた術と言う印象です」
「そうかならば簡単に説明しておこう。便宜上、上級術という言い方はするが特化と言うのがより正確かも知れない。対応力と言う点では据え置きの方がいい場合が往々にしてあるのも事実だから、必ずしも上級術がいいとは限らない。また上級への変化パターンは一つに限らない」
「というと<戦陣術>も複数の分岐があるという事ですか?」
「可能性はある。ただ【帝国】内において<戦陣術>の直系は統一戦争時代のはじまり、東から来たとされる異邦人によってもたらされた」
「前に【座学】でもちょっと触れてましたけど、最後には【帝国】に腰を落ち着けたって言う遍歴の指揮官ですよね?」
「伝説としてはそう伝えられているな。ヒトは力を合わせねば生きられないと説いた遍歴の指揮官が、貧しかった北の大地に集団戦術を持ち込み、一つの国になる原動力となったのだ」
「その原型となる集団戦術が、上級術と言う訳ですか。今までの話から察すると汎用性が失われる代わりに、特化するって事だと思いますけど」
「その通り、非常に強力な集団戦術だ。これを使いこなせればソタローの指揮能力は格段に高まり、大軍を指揮するに不足の無い力を手に入れるだろう」
「その代わり、小回りが利かなくなる?」
「誤解があるようだな。大人数になる程に力を増すという事だ。代わりに<戦陣術>の中でも戦術に分類されるような相手に効果を及ぼすような術はそぎ落とされるがな」