22.嵐の岬と食事
「随分高い場所を飛んでるようにも見えますけど、それにしては大きすぎますかね?なんか目の錯覚かな?」
「いや、多分錯覚じゃないぞ。かなりデカイ獲物だ」
森の中にぽっかり空いた広場に集結して、今はアンデルセンさんと話している。
ちなみにこの場で知ってる顔はアンデルセンさんだけだ。
何でもアンデルセンさんの所属している『嵐の岬』のメンバーらしいが、
なんとも見事にばらばらの格好、かなり自由なクランらしい。きっと居心地もいいのだろう。
「そうだ、一応うちのボスも紹介しておくぜ!ボーーース!噂のソタロー連れてきたぜ!」
「おう!よろしくな。バルト・ロメオだ。バルトでいい。お前さんが隊長より優秀って噂の【帝国】【兵士】か」
「ソタローです。よろしくお願いします。まだはじめたばかりで、優秀とかそんな事は……」
「いや、どうやらあの隊長の半分の時間で既に【下士官】なっちまったんだってよ。ソタローの方が見込みあるって!変わり者隊長よりさ」
「そうか。まあ仲良くしようぜ。隊長は正直掴みどころが無いし、今は何やってるのかもよく分からんし、連絡しても返事よこさないし……」
「ああ、真面目なんだか不真面目なんだか分からないし、強いのは間違いないんだが、何で強いのかよく分からないし……」
「愚痴ばっかりじゃないですか、やっぱり真似しちゃ駄目な人なんだ」
「悪い奴じゃないんだ。でも真似はしないでくれ」
そんな雑談をしつつ、多分メンバーが全員集まったらしく、バルトさんが仕切る。
「よし!今回の標的は上空の巨大怪鳥だ。撃ち落す所までは白い黒神達がやってくれるらしい。俺達は落っこちてきた奴の息の根を止める事!罠の設置が出来たら……」
「ご飯ですね。準備できてますので手の空いた方から取りに来て下さい」
とポーさんが、配膳を始める。訓辞の途中だろうがお構いなしだ。
流石にバルトさんが怒るかなと思いきや、
「おお!悪いな。うちの連中もボチボチ<調理>始めたんだが、バフが付くものとなると中々な。その点ポーはイベント優勝者だし、今回は世話になるぜ」
「私も普段からクラーヴンさんにはお世話になってますし、コレくらいは協力させてもらいます」
うん、怒らないどころか喜んでる。
配膳された食事は野外の割りに悪い物じゃない。
簡単に言ってしまえばパンとスープだが、肉をはじめとした色々の具材の詰まった惣菜揚げパンと赤い色の酸味の効いたスープ。
初めて食べたけど、コレがボルシチとピロシキかな?雪降る【帝国】で食べるにはおあつらえ向きと言ってもいいのかもしれない。
食事をしつつ、アンデルセンさんと再び世間話をして緊張を紛らわす。
「さっきの白い黒神って……もしかして?」
「ああ、ビエーラのあだ名だな。その名に相応しいスナイパーで、超長距離狙撃の使い手だ。現状ビエーラ以上の射程を持つプレイヤー及びNPCすら見つかってない」
「そんな凄い人だったんですね。そんなトッププレイヤーが何でこんな過疎地に?」
「そりゃ分からんな~。しかしやっぱりポーの作る飯は美味いな~」
「確かに!ここまでおいしい物が作れるゲームだったんですね~。<簡易調理>は取得してるし少し真面目にやってみようかな」
「いいじゃん!いいじゃん!美味いもの作れるってのはいい事だぜ」
「それにしても戦闘前だって言うのに、食べててもいいんですかね?」
「そりゃ、食事でバフがかかったりもするから、結構大事だぞ。戦闘の前は飯!腹が減っては戦が出来ない」
「そんなもんですか?」
「そりゃな。いや俺らも最近知ったんだけどな。コレが意外と効いてくるから、マメに飯は食った方がいいぞ」
「一応、渇水度と空腹度は注意してますけど?」
「まあそれはな。皆携帯食料なんて持ち歩いて最低限維持はしてるが、それじゃ足りないんだよ」
「え?なんでですか?」
「これは何処にも表示が無いんであくまで予想なんだが、連戦したりずっと走ってたりすると体力を使用するっぽいんだ」
「体力ですか?……確かにゲームなのになんで戦闘後に息が荒くなってたりするのかなとは思ってました」
「おお!目の付け所がいいじゃないか!そうなんだよ。その体力低下状態を続けると衰弱っていう状態異常になるんだ」
「つまりその状態異常にかからない様にする為にも出来るだけマメに食事をした方がいいと?」
「本当に飲み込みがいいな!ただ因果関係がよく分かってない。満腹に近い方が体力が低下しづらいのか、体力低下状態だと一気に空腹度が増すのか。その辺りは調べ中だな」
「なるほど、いずれにしても戦う前はしっかり食べておいた方がいいんですね」
「そういう事だ」
「ところで、一番気になった事聞いてもいいですか?」
「おう、何でも聞けよ。俺はソタロー君に期待してるから何でも教えちゃうぜ」
「なんか集まってる人数がやたら多いのは何でですか?」
「そうか?制限一杯に抑えてるし、ビエーラやクラーヴン、カヴァリー、ポーなんかの分も空けてるって考えれば、ちょっと不安なくらいだぞ」
「いやでも100人近くいますよね?」
「ああいるぜ、あのでかさだぞ?そりゃレギオンボスに決まってんだろ?」
思っていた以上の大事に息を呑んだ時、遥か上空から甲高い奇声が聞こえ、一帯に影がかかる。
降ってきたのは遠く空を飛んでいた筈の大きな大きな大大大大きな怪鳥!
ぶっとい槍のようなものが突き刺さり、真っ逆様に……。