228.情報収集
大隊を解散し、自分はその足で【古都】へ向かう。本当は休まねばならないが、どうしても少しでも早く話をしたい相手が居る。
「クラーヴンさーーーーーーーーん!」
「どうした?ソタロー」
「ビームって防ぐ方法ありませんか?」
そう、あのステゴサウルスの一斉攻撃を切り抜けなければ、次へと進めない。もっと無理して一体二体倒した所で、相手は50体いるのが問題だ。
緒戦のユニオン級くらい余裕を持って倒したい。つまり相手からのダメージを最低限に抑える事さえ出来れば、もっと余裕を持って次の段階に進めるはず!
とは、言えだ。自分の個人的イメージでビームとか言って、クラーヴンさんに解決できるとは思っていない。
これは信頼関係から来る戯れであって、当然クラーヴンさんも分ってくれると思う。
「まあ、何とかならんでもないが、それはソタロー一人分の話か?」
何とかなるらしい……。やっぱりこの人も自分の想像の及ぶ範囲を高く越えた変人だ。何しろ隊長の知り合いというか、仲がいい相手なんだから当たり前か。
「いえ、1000人分なんですけど」
「そりゃ難儀だな。材料と時間の双方必要だが、出来ない話じゃない。多分ソタローも予想がついてるだろうが、その手の攻撃は大体術攻撃、それも精霊術って事になるな?氷精を徹底的に高めれば、耐性が高まるが、他にも選択肢はある」
出来ない事もないらしい、1000人分って言ったら流石に怒られるか突っ込まれるかと思ったんだけど、普通に受け入れるのが、トッププレイヤーなのだろうか?
「多分どの精霊なのかって事なんでしょうけど、今の所分かってません。ただ永久凍土に封印されているので、多分氷か冷気に弱い相手じゃないかと思ってます」
「ふーん、つまりほぼ確定だがまだ確証がないって事か。それなら無駄になるものでも無いしこっちで勝手に進めておくから、お前は情報収集でもして、確証を得て来い」
と、クラーヴンさんに追い出されてしまった。
その日は一旦休み、再ログイン。
さて、北辺の怪物の情報をどうやって手に入れるかそれが問題だ。
やはり、自分の近辺のヒトで大抵のことを知ってる物知りといえば!兵長!
「すみません!北辺の怪物討伐に失敗してしまったんですけど」
「その割に余裕だな。つまりこっちの意図を理解しているという事だろう?その上で敢えてそんな事を言うんだ。大体聞きたい事は分るが、一応説明してみろ」
うん、プレイヤーどころかNPCつまりAIすらこっちの意図を理解してるって言うのが、もう……謀られた!とでも言うのだろうか?
つまり、釈迦の手の平どころか、予定調和という名の規定路線に乗せられ放題って事だ。
別にそれが嫌だとか悪いとか言わないが、正直な所自分はそれでいいのかが、分らない。
いや、自分より多くの経験がある人達や分析力というかあらゆる状況から最適解を導く能力のある機械の双方が、自分にそれを求めるのに、それ以上の答えを出せる気がしない。
それでも違和感や消化し切れない感情があるからこのゲームを始めたのだ。果たしてこのゲームは現実を越えたファンタジーに成り得るのだろうか?
「先日正式に自分に下された次の1000人級ボス討伐の件で、その得意精霊や特性、何よりその正体について、知れるだけ知りたいのですが?」
「まあ、そういう事だろうな。敵の一斉攻撃でかなり削られたと報告は上がっている。つまり北辺の怪物の情報を仕入れて、次への対策をしたいと、それなら【座学】の任務を用意してやるから行ってくるといい」
【座学】で情報を得られるって事はこのゲーム内においては結構一般的というか、NPCなら知ってるレベルの敵だったのか?
まあ確かに英雄とか急に当たり前のように出てくるし、また農民なら物語レベルで知ってるけど、ちゃんと講義を受ければゲーム内の伝承や歴史として残ってる話なのかな?
もしくは【座学】で情報を仕入れて更に聞き込みにいくパターンか、誰か情報を持ってる人に会えれば有利に戦える可能性もあるのか、そんな所だろう。
ステゴサウルスの次にはティラノサウルスも控えてるし、それでも最後じゃないだろう。永久凍土に封印された何かを倒さねばならない。
やっぱり1000人戦闘は行き当たりばったりで戦えるものじゃない、これは腰を据えて集中しよう。
幸い今回はNPCを率いての任務だ。
プレイヤーとの集団戦が嫌なわけではない。一長一短であって、個々人の強さはプレイヤー毎に突出した物があるだろう。
だが、自分の都合で招集をかけて、尚且つ運用できる集団と言うのは凄く助かるのも確か。
その辺も踏まえて、自分で裁量する事を求められてるのだろう。自分のプレイヤーとしての資質をゲーム側に見られていると思って差し支えないのじゃなかろうか?ならば、出来る限りのことをやるのみ。
「兵長、その【座学】受けます」
任務票を受け取って、いつもの講義室へと向う。