225.前哨戦トサカワニ
腹が満ちたところで、行軍再開。ひたすらに広がる白い辺面地帯は木々の多い【帝国】には珍しい光景だ。
凍った湖や森喰いに食われた平原は見た事もあるが、地平線の見える雪原と言うのはここに来なければ見れない光景ではなかろうか。
行き先は隊員達に任せ、また【偵察兵】たちを先行させて道行きにも今の所問題はない。
【帝国】内にしては妙に明るい地平に自分達が登ってきた丘が見えなくなるにつれなんともいえない不安が変な動悸を生むが、今はまだ見ぬ北辺の怪物に集中だ。
1000人規模の戦いと言えば、魔将戦しか経験がないが、あの戦闘力の敵だとして専用武器も無しに果たして倒せるものなのだろうか?
ふと、気がつくと地平の見え方にちょっと違和感がある。そして今大隊は真っ直ぐそっちの方向へ進んでいる。
「もしかして、アレが北辺の怪物?」
「分りましたか?って言っても自分もこんな所まで来たのは初めてなので、噂しか聞いた事無いですけど」
ゆっくり近づいていくに連れて、それが無数の凍りついた恐竜の像だと分るが、何となく口が大きくて二足歩行のワニって感じ?大きさは大体身長で自分の二倍、尻尾までの長さも含めると相当に大きいし、確かに強そうではあるが、精々通常のパーティボス程度にサイズだ。
頭が赤く背中まで鱗がヒレのように逆立っているのが特徴的だが、似たような個体が大量に凍ってその場に佇んでいる。
「これが、怪物?数は多いし見た目は強そうだけど
「よく思い出してくださいソタロー。敵は永久凍土、自分達の足元に埋もれてるんですよ。今見えてるのはその尖兵達です」
「どういう事?」
「最低限の生命維持の為に手先達を外に出して、太陽光からエネルギーを吸収してるって話ですね」
魔物の生態ってのは滅茶苦茶だし、理なんてものは無いのだろうが、このトサカワニ達がエネルギー源ならこいつらを潰すしかない。
「じゃあ、こいつらぶっ壊しちゃおうか?」
「仕掛ければ、こいつらも攻撃を仕掛けてきますから、慎重に!」
だよね~。当然戦わねばならない。その為に派遣されたんだから当たり前の事だ。
息を一つ大きく吐き、そして凍る様な空気を細く吸い込みゆっくり肺を満たす。
「全員隊列を組んでください。当面目の前の敵は小隊級ボスとして扱います。前衛は【重装兵】薄く横隊を並べ2列目【歩兵】3列目【弓兵】及び【衛生兵】の混成という形で、まずは正面から力のぶつかり合いで様子を見る方針です『行きます!』」
戦陣術 激励
1000人規模で薄い横隊を作ると本当に幅が広く、自分一人で全部を見る事など到底出来ない。
つまり、各中隊長級に任せる他無いのだが、【弓兵】ルーク、【衛生兵】カピヨン、【偵察兵】ルースィ、【歩兵】スペーヒ、【重装兵】チャールイと先輩。
「あの先輩なんで【重装兵】隊に入ってるんですか?」
「おい!戦闘始まってからかよ!チャールイとはコミュニケーション取れてないだろうから、俺も入ってやっただけさ。安心しろ盾は使わんが、そん所そこらの【歩兵】よりは堅いから問題ない。何よりうちの【重装兵】のトップはお前なんだから副官ポジションに二人いた方が、楽だろう」
「副官だとしたら、何で解説はルークだったんですか?」
「あいつが喋りたいって言うからだ」
そんな事を話している内に、最前の【重装兵】……じゃない。先輩が一番足が速かったので、話しながらトサカワニを両手剣でぶん殴る。全く持って迷いも怯みもない一撃に、氷像が割れるんじゃないかと思ったが、
『グルゥォォォォオオオン』
まるで氷像のように凍っていた事は忘れたかのように雄たけびを上げ、大量のトサカワニ達が一斉に動き出す。
さて、まずはこの尖兵達の殲滅から、だが見たところ敵はただバラバラに襲い掛かってくるようだ。
つまり本当に力任せの相手に、こちらは陣形を持って対応できるのだから、ここは引き寄せて叩く。
戦陣術 斉射
戦陣術 壁陣
戦陣術 槍襖
自分が術を使う間もなく、各隊長達が先行して術を使用してしまった。
空を埋め尽くす矢が敵の進軍速度を緩め突撃力を抑え、盾を持つ【重装兵】の壁がきっちり敵の巨体を受け止め、隙間から突き出される【歩兵】の槍が確実にトサカワニを削る。
とりあえず、一当たり目は安定というか、拍子抜けするほど普通に進行しているので、自分は全体の把握に努めよう。
「現状綻びはありません。このままじっくり取り組んでください!『行きます!』」
戦陣術 激励
更に士気を高めいつでも術を使えるようにしつつ、何かあればいつでも向える様に待ち構えているのだが、まず戦端を開いた先輩が【重装兵】らしからぬ攻撃力で、敵一体屠ってしまい、そこに空白地帯ができてしまう。
しかしそのまま士気に浮かされ敵を深追いしないのが先輩の凄い所、隊列を優先して周囲の指示に徹している。
次に【歩兵】隊長スペーヒのいた地域が空白になり、更には元々自分直属だったチャーニンも一体打ち破る。
続々と勝報が続き、敵総数が徐々に減るに連れこちらが有利の展開になっていく。