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MONOローグ~夢なき子~  作者: 雨薫 うろち
西帝国動乱編
225/363

224.北辺の怪物

 「あの~人数がちょっと多すぎませんか?」


 「そんな事無いですよ!敵が何だか分かってるんですか?遠い昔【帝国】北辺の永久凍土に封印されたという化け物ですよ!国家滅亡の危機に瀕して、やむを得ず封印という手段を取るしかなかったという言い伝えの残る正真正銘の人類の敵です!」


 最後の中隊級ボスと思って集合地点に向ったら、そこにいたのは明らかに100人より多いどころか、10倍はいそうな大陣営に、ルークが説明係って言う……。


 「違うんですよルーク、自分は中隊級ボスだと思って来たのになんで、1000人いるんです?大隊級ボスとでも言うんですか?」


 「?そりゃそうですよ。隊長に代わってこの国専属の大隊長として活躍してもらう為の最後の試練ですよ?当然ながら1000人率いてもらいます。そして【帝国】の大隊級ボスと言えば、北辺の怪物です」


 「じゃあ【将官】とか大規模戦闘に関わるヒトは皆倒してきてるんですね?」


 「そんな訳ないじゃないですか?普通の【将官】は様々な実務をこなして、最終的に管理職として相応の地位についた方々ですよ。勿論1000人率いる事の出来るヒトもいますが、北辺の怪物と戦うなんて試練はソタローのようによっぽど短期間で昇格する場合だけですよ」


 「じゃあ、隊長は?」


 「隊長は各国代表中隊を混成した大隊で【王国】の伝説に謳われる将軍と戦いましたよ?最後は将軍本人と一騎打ちしたそうです。ソタローもそっちの方が良かったですか?」


 「いや、無理ですね。分りました北辺の怪物討伐、皆さんの力をお借りします」


 「そう堅くならなくても、駄目そうなら逃げても大丈夫な相手ですので、気楽に行きましょう」


 「え?逃げても大丈夫って、危険な相手なんじゃ?」


 「そうなんですけど、じゃあ今迄何故放っておいたか?何度もいろんなヒトが挑戦しては敗れてきたからです。それでも永久凍土にいる限り勝手に凍りついて再封印されるので、失敗しても大丈夫です。良かったですね」


 良かったですねって、勝つのは難しいけど負けても安心みたいな?そんな都合のいい事って……あるんだろうな~。妙に優しい時は優しいもんなこのゲーム。


 北辺の怪物に会う為、まずは渓谷に出た。それから【帝国】北辺にあたるチーリィ川の川辺を歩き【偵察兵】の一人がマーキングした地点から、対岸に渡る。


 南側の大河と違い北部のこの川は浅い所は本当に浅い、自分達が渡河に選んだ場所は丁度ヒト一人通れる幅しかないが、足首までしか水がかからない砂利の積もった誂えたような道になっている。


 そして川を越え対岸の丘沿いを行くと、急な丘だが斜めに切られ歩けるような道がある。


 人工的に作られたもののようだが殆ど雪に埋っていて、よっぽど【帝国】の雪と地形に慣れてなければ見落とすレベルだ。


 その丘を登りきれば、向こうは本当に雪と氷しかない不毛の地が眼前に広がる。


 永久凍土どころか世界が凍って、木すらも氷で出来ている白と透明と灰色の空しかない世界に思わず見入り、言葉を失う。


 あらゆる境界というのだろうか?普段自分が色んな言葉で区分けしている世界は、結局世界と言う一つのものでしかないと強制的に自覚させてくるような、そんなただの空間が自分と世界の境界すらも失わせる。


 自分を先頭に1000人ものヒトが薄く口を開き白い呼気を空中で凍らせている。寒さに対して完全防備で臨んでいる筈の大隊メンバー達の表情は分らないが、それでもこんな辺境も辺境、ヒトを拒絶するか、もしくは溶かして一体化させてくる様な地には用もないだろう。


 「皆!気持ちを飲まれてて、戦える敵じゃなさそうだし、ご飯にしよう!」


 あえて、大きな声で口に出し、皆に炊事の用意をするように促す。


 こんな特殊環境の戦いは、まず平常心を取り戻さなければ戦えないだろう。当たり前の事だ!ヒトは血糖値を安定してこそ安定した思考を取り戻す事が出来るのだ。


 よく考えて欲しい、基礎代謝と言うのは第一に脳への糖供給が優先される。何しろ生命維持に第一優先事項なのだから、そして次に筋肉だ。


 筋肉を動かすのは筋グリコーゲン!つまり糖が無ければ筋肉は動かない!ヒトは筋肉無しに戦えるのか?否である!


 特に【帝国】と言う極寒の地において、基礎代謝や基礎体温は最重要事項となるのは、当たり前だ!


 勿論消化吸収の早すぎる糖素の物では、脂肪にばかり溜まってしまって逆に効率が悪くなるが、ゆっくり消化吸収される炭水化物は、正に【帝国】の筋肉達が必要としているものだ。間違いない!


 何しろここには1000人分の筋肉がある。その合唱を奏でるような悲痛の声が聞こえない者など存在しない筈!


 まずは糖と水分を結合させ、筋肉に十分な筋グリコーゲンを蓄える。それこそが勝利への道筋であり、それ以外に正義は存在しない。


 正義とは倫理、合理性、法律、自然法、宗教、公正などに基づく道徳的な正しさだ。つまり倫理的にはちゃんと食事を取らせる事、合理性としては極寒の地にて基礎体温を維持する事、法律としては隊の代表者として隊員を食べさせる義務、自然法としてはヒトは食事をするものと言う事、宗教としては【帝国】の白竜はヒトに力をつけることを望んでいる事、公正?全員同じ釜から同じものを食べる!これこそが軍の紐帯を繋ぐものだ。


 つまり、


 「諸君!炭水化物を十分に摂取するんだ!」


 「「「「「「「「「「了解!!!!」」」」」」」」」」

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― 新着の感想 ―
[一言] >その合唱を奏でるような悲痛の声が聞こえない者など存在しない筈! 少なくともルークは聞こえてないんじゃねぇかなぁ? どう考えても筋肉枠じゃないし
[一言] 帝国名物 戦の前の腹拵え(//∇//)
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