220.久しぶりの先輩
ある日の事、ログインしたら何となく久しぶりに先輩に会いたくなったので【古都】の北にある北砦に向う。
先輩も忙しいので、早々いつも北砦にいるわけないと分っていながら、つい足が向いてしまった。
会いたくなった理由は勿論奥さんと戦ったからだが、別に含むところがあるわけじゃない。
本当に何となく、共通の話題も出来たし、たまには話したいなと思っただけだ。逆に用も無しに会いに行くのは申し訳ない気もする。
雪国でも歩きやすいよう白装備で北砦に到着すると、いつもの【訓練】広場に先輩はいた。やっぱり暇なのか?
「お久しぶりです」
「おお!ソタローじゃねーか!何だ?何かあったのか?」
「いや、ただ最近北砦に来てなかったので、ちょっと様子見です。あと先輩の奥さんと闘技場で闘ったので、その報告ですかね」
「あ~!俺じゃ階級が足りないが、実力で言えば俺かあいつが戦えば、結構な人数黙らせる事が出来るからな。もしタイミングが合ったらって、言っておいたんだわ」
「そういう事だったんですか、先輩の代わりって聞いたので、どういう事かと思いまして!でもそうなると先輩も奥さんも実力的には【上級士官】並みかそれ以上なんですね」
「まあな~個人戦ならそれなりに闘えるぜ。勿論相性もあるから絶対とは言わないがな。しかしソタローも見違えたな。もうそんじょそこらの奴らには負けないだろ?」
「いえ、まだまだ苦戦する相手ばかりですよ。この前も得意なはずの力比べで、いい勝負でしたから」
「ふーん、そんなもんか?ところで【訓練】に来た訳じゃないだろ?いい師匠がいるもんな。魔物を狩るにもこの辺の魔物じゃ物足りないだろうし、本当に世間話にしに来たのか?」
「そんな所です。いつの間にか【上級士官】になって、100人戦闘やらなにやらと忙しかったのもあるかもしれません」
「そうか、まあ北砦に来たんなら、のんびりしたらいいさ。ここには差し迫った用事なんてないしな」
とまあこんな感じであっさりと受け入れられ、ちょっとのんびり過ごすとする。逆に良く考えると、先輩も忙しいから、偶にここに来てるのか?
しかし、先輩の顔を見るくらいしか本当にやる事を考えてこなかったので、困ったぞ。
これまでログインすると、任務を受けるか闘技場に行くか、集団戦をするか大体何かをする様にしていたが、のんびりするとなると、どうしたらいいか分からない。
「あれ?ソタローじゃないですか!珍しいですね北砦を一人でうろうろしてるなんて!何してたんですか?」
丁度いいところにルークも現れたので、のんびりの仕方を聞いてみよう。
「いや、偶にはのんびりしようと思ったんだけど、のんびりって何やったらいいか分らなくてさ」
「哲学ですか?全く偉くなるニューターってのは本当に仕事が好きですからね~。何もしないで過ごすとかサボるとか、そういう発想はないんですね。はっきり言って北砦は【熟練兵】が次の兵科に就く為の研修場所も兼ねてるので、ソタロー程の階級のヒトがやる仕事なんてないですよ?」
「そうみたいだね。自分の中隊は海で戦ってきたばかりだから休息中だし、闘技場もあまり行き過ぎるのもどうかと思うし、どうしたもんかな」
「それはもう、のんびりするしかないんじゃないですか?降り積もる雪でも見ながら一日何もしないで過ごしてみるとか?」
「生産性がなさ過ぎてちょっと辛いかな。せめて趣味でもあれば良かったんだけど。そう言えば【帝国】のヒトの一般的な趣味って何かあるの?」
「そうですね~……釣りとか料理はよく聞きますけどね。皆日々の暮らしの追われてるのかもしれませんね。それにしてもソタローほど、起きてる間は何か任務をやってるなんて言うのは、働き過ぎですけど」
どうしよ~、どうやってのんびりするか全くいいアイデアが浮かばない!
腕組みをしつつ、グルグル、うろうろと北砦内を行ったり来たりしていると、
「ソタローじゃないですか珍しいですね。特に任務も受けずにこんな所にいるなんて」
カピヨンさんに声を掛けられた。
「実はかくかくしかじかで、のんびり過ごす方法を考えてたんですけど、いいアイデアはありませんか?」
「それなら、折角<調合>を使えるようになったのだし、薬作りでもしてみたらいかがですか?」
「それだ!そうか!自分も生産系のスキルを持ってるのだから、偶には戦わずに戦うための準備をしてもいい筈ですね!こうなったら薬草<採集>に行ってきます!」
「そうですか、それなら北砦から山方面に向ってずっと進んでいくと、薬草の採集地がありますから、のんびり歩いてみるといいでしょう」
確か、山方面というと昔ガンモと一緒に狼に襲われた方だな。
何となく渓谷とかの方が行き慣れて、山方面の探索はあまりやってなかった。まあ自分の重量だと山道がちょっと辛いというのもあるが、今なら狼くらいは一人で片付けられるだろうし、ゆっくり行くなら問題ないだろう。
のんびりという言葉に、妙に焦ってしまったが、ちゃんとやれる事はあったので、早速出かける事にする。