21.クラーヴン事件
「そうなの?【兵士】は強制的にジョブチェンジなんて初めて聞いたの」
「ああ、でも確か隊長もよく兵長からぞんざいに扱われてたし、そういうものなのかもね」
「そうなんですか?まあ、もし合わなければ変えてくれるみたいなので、別に気にしてないんですけど」
「多分お試し期間みたいなものだと思うの、ソタロー君の好きにしたらいいの」
「ありがとうございます。そうします。しかしカヴァリーさんって既婚者だったんですね~。どうやって出会ったんですか?」
「偶然としか言いようがないですね。若い頃は親に敷いてもらったレールの上を生きてていいのだろうかと思う事もありましたが、結果彼女に会えたので、世の中何がいいのかなんて分からないものですね」
「そうなの。縁って言うのは不思議な物、正解なんてないの」
は~、まあ、人並みには彼女がいたらと思う事もあるけど、この二人みたいに自然に出会えるのって理想だな~。
その時アンデルセンさんが、いつに無く真剣な面持ちで店に入ってきた。
ここは【古都】の片隅にあるちょっとした飲食店、昔から【古都】を拠点にしてきたプレイヤーが情報交換をしているらしい。
急にアンデルセンさんから呼び出されて、来てみたのだが、
その場にいたのはカヴァリーさんと奥さんのビエーラさん、そして料理大会で優勝したポーさん。
ビエーラさんはβプレイヤーらしく何気に最古参だとか。
しかし何と言うか、のんびりした空気感の人達ばかりで、居心地は悪くない。
飲食店なのだからと戴いたお茶を飲みながら話を聞いていると、どうやらクラーヴンさんが出掛けたらしい。
別に何の問題があるのか分からないのだが、その話になってから全員若干顔が引き締まって見えると言うか、先ほどまでとは違う緊張感が漂っている。
「あの、新参の自分が言うのもなんですが、普通のプレイヤーがクエスト受けて、フィールドに出かけただけなのに、何の問題があるんですか?」
「ああ、ソタロー君からすると変に思うかもしれないが、【古都】のやつらは根っから皆行動がおかしいんだ。まともなのは俺だけだと言っていい」
いや、多分アンデルセンさんが一番怪しいよ。確か所属は【海国】って話なのに【古都】に入り浸ってるし、誰でも旧来からの知り合いのように平気で話しかけるし……。
そんな事を考えていると、クラーヴンさんも店に入ってきた。
散々皆緊張の面持ちで話しておいて、普通に帰ってくるじゃん!全く人騒がせな……?
なんかクラーヴンさんも沈んだ顔をしている。なんだって言うんだろうか?
「全員集まってたのか、急な話だが手を貸して欲しい」
ふむ、やっぱり【帝国】特にこの【古都】は助け合いが基本なのかな?
同じクランメンバーでもない人に頼みごとをしたりするのが普通だとしたら、やっぱりプレイヤーが少ないゆえに相互扶助で成り立っているのだろう。
なんでも、今度の運営主催イベント 鍛冶武器大会 に出場する為に必要な素材があるらしい。
相手は巨大怪鳥スネージャか……。
全然想像がつかない。皆は知ってるみたいだけど、そもそもどれ位巨大なんだ?
部隊級?確かプレイヤーはユニオンボスって言うんだよな。
だとしたらこの場で戦えるのって、ビエーラさん、カヴァリーさん、アンデルセンさん。
流石にこの人数でユニオンボスはやらないよな~。
自分が普段戦ってる少し大きめボス位なら手伝えるかもな。折角こうして呼んでもらってるんだし、協力しよう。
何だかんだ今の装備が揃ったのだって、
そりゃ素材を集めて買ったものかもしれないが、実際優遇はしてもらってるんだと思う。
クラーヴンさんは何も言わないけど、多分相当良い物だと思う。それを【兵士】お使いクエストの報酬と緊急召集なんかの討伐報酬、そこらで狩った魔物の素材で作ってもらってるのだ。
多分相当割引してくれてるんじゃ無いかな?
カヴァリーさんだって手が空いてれば、狩りを手伝ってくれるし、しかもシェーベルって言う鹿だかヤギだか分からない生き物に乗ると強さがまた異常なのだ。
そして奥さんのビエーラさんはβプレイヤーなんだからもっと強くてもおかしくない。
そんな中で自分に何が出来るか分からないが、精一杯やる事が経験なるだろう。
「分かった。人数が必要だろうから俺からもボスに連絡しておく」とアンデルセンさん。
話はまとまったようだ。
クラーヴンさんは戦闘職じゃないが、スネージャを倒す算段があるらしい。
そして人数を集めるというアンデルセンさん。
やっぱりユニオンボスなのだろうか?確かアンデルセンさんもまだ100人率いる事は出来なかった筈だ。
ふう……どきどきする。
前に戦った黒い蠍の時はまだ士気に慣れてなかったけど、今回は大丈夫だろうか?
まあ頑張るしかないか!