218.雪晶の女傑
次の相手上級【闘士】は余裕というか、さすが本職というか、こっちの得意フィールドでいいとの事なので、再び一番慣れたホームの闘技場でやる事になった。
いつも通り呼び出され、フィールドに立って思ったのは、小さいなという事。
小柄だとは聞いていたが、女性だとは聞いていなかった。全体が白を基調とした服装で、角っぽい意匠の帽子だけが何となく独特といった具合で、外見的特長からはこれと言って読み取れるものがない。
左手には大盾を持っているが、小柄な女性では完全に隠れてしまうサイズのものだ。それに右手にはいわゆる手斧を持っている。
俊敏そうと言えば、確かにその通りだが、大盾を持ってそんなに俊敏に動けるのか?という疑問も無いではない。
そんな風に自分が観察している間にも、関節を回し準備運動に余念のない相手は、どちらかというと情報を収集するというより常に自分のベストを尽くす事を旨としたタイプなのだろうか?
[鉄壁の不屈VS雪晶の女傑 Fight!]
始まりの合図と共に盾が目の前に迫り防御するも間もなく弾き飛ばされ、
さらに振りかぶってきた斧を右腕で<防御>したが、同時に適当に蹴りだした膝蹴りを踏み台に頭上から更に重量をかけた手斧の唐竹割を両腕で受け止める。
両腕が頭上に上がった事で開いた顎を蹴りとばし、その反動で地面に着地する雪晶の女傑は、休むことなく、そのまま大盾で足払いをかけてきたので、腰を落とすように、
鋼鎧術 耐守鎧
足を完全にガードした事で、やっと剣を引き抜き盾を構える隙ができた。
自分が武器を構えて、がっかりするどころか口端を釣り上げ、笑いながら更に敢えて自分の盾の上から追突してくる女傑に、タイミングを合わせて、
武技 盾衝
こちらも盾をぶつけ返して応じる。
間合いが出来た所で、
壊剣術 天荒
殴盾術 獅子打
スピードの早い相手に術を発動したままで対応する事に決めた。このままこちらも一気に畳み掛けるつもりで行く。
更に盾でぶん殴ってきた女傑の一撃を重剣で弾き、振りかぶられた斧を盾で弾き、蹴りと蹴りがぶつかった。
相手の方が明らかに小柄にもかかわらず、全然吹き飛ばない。寧ろ一撃一撃痺れが走る攻撃に、これが鋭いという事かと感心してしまう。
しかし女傑が手斧を振った瞬間、すっぽ抜けて顔に向ってきたので反射で回避、からの追撃とばかりに襲い掛かる。
ミスにつけこむようで申し訳ないが、はっきり言って余裕のある相手じゃない。
大盾の裏にすっぽりと隠れた女傑にこちらも盾でぶつかり、密着した状態で盾裏の女傑の首を狩るように重剣の普段使わない内刃で刈り込む。
そして延髄に決まったと思った瞬間、グラッときて、前のめりに倒れこみ膝をついてしまう。
倒れこんでから、寧ろ自分の延髄に衝撃が走ったことに気がつく。
女傑が手斧を拾い上げた事で、状況を理解した。さっきの手斧はすっぽ抜けたのではなく、敢えて投げて、戻ってきた手斧が背後から自分の延髄を攻撃したのだと。
勿論物理的にはおかしいが、術のある世界観だ。そういった斧操作だってあるだろう。
完全な奇襲攻撃に頭がぐらついて、体が動かない。
そこに唐竹割の斧の一撃、いや唐竹というよりは薪割りか?いずれにしても頭を真っ二つをするような衝撃に仰向けにぶっ倒れた。
「アンタ硬いね~。何で私の斧喰らって、平気なの?」
ぶっ倒れた自分に、何故か余裕で声を掛けてくる女傑に返答代わりの蹴りを見舞うが、ぴょんっとバックステップで避けられてしまった。
頭を振りつつ立ち上がり、盾を体の前に構え直す。
「ふひひひ、それでいい!いくよ!」
盾裏に完全に姿を隠しているが、自分のスキルなら盾裏の動きが見えているので、奇襲は喰らわない。
胴体を狙ってきたがそれは胴防具の性能に任せて<防御>しつつ、お構いなしで相打ちならぬ遅れ打ちだが、一発食らわせる。
一発入れては素早く避ける相手だが、流石にこちらが間髪入れずに振れば掠る位は出来るし、重量差で相手の動きに乱れが生じる。
やはり相手の威力は鋭さから来るもので、相打ちであればこそ対等だが、不意に当った攻撃なら自分の重量が有利のようだ。
だが、戦える算段がついたのも束の間の事、相手の攻撃の回転速度が急速に上がり、こちらの一振りに対して二振りで応じてくる猛攻を仕掛けてくる。
しかしここで引いたら、それこそ負けだと、こちらもとにかく相手に触れさえすればいいという覚悟で、剣と盾を振りまくり、隙間の時間も無く蹴りを打ち込む。
文字通り息をつく間もない連続の打ち合いに、もう限界かという所で、完全に偶然としかいえないクリーンヒットが、女傑の頭を捉え冑がはじけ飛ぶ。
ぐらぁぁっと仰け反った女傑の引きつる顔が、まるで鬼の様に見え、凍えるよな悪寒に、
鋼鎧術 耐守鎧
訳も分からず防御を固めた瞬間、全身が弾け飛ぶような衝撃が走る。
いつの間にか分身した女傑が正面と右斜め後ろ、左斜め後ろから同時に攻撃を仕掛け、同時に三方向から打ち込まれた斧に、内臓が口から飛び出るようだ。
両手から盾と重剣を取り落とした所に、トドメの斧が打ち込まれたが、頭は避け肩の金属部で<防御>しつつ、
武技 鋼締
メキメキという音と共に、女傑の力が抜けたので、そのまま離すと、自分の勝ちが決まった。