215.久々闘技場
クリオネから手に入れた特典素材をいつも通り、クラーヴンさんに持っていったら、
「そう言えばソタロー、今の剣は例の初代皇帝のレプリカをベースにした剣だったろ?使い勝手はどうだ?」
「ああ!そう言えば、この前突き刺して術を使おうとしたら、切っ先が四角くて刺せずに失敗しましたね」
「だろうな。集団で使うには攻撃力も十分出るだろうし悪い物じゃないが、闘技で一対一となるとまた別の得物が必要と、そうなるよな?」
「まあ、あの剣でも攻撃力が不足したりとか感じた事無いですけど」
「そりゃ、ソタローの筋力に合わせた剣で攻撃力が足りない事はないだろうが、やはりスピードがない分一発の威力を求めてもいいと思うんだが、どうだ?」
「そう言われてしまうと、一撃の威力があったらとは思いますけど」
「というと思って、作っておいたから使ってくれ。どうせ集団戦のあとは【闘技場】に行くんだろ?いつものパターンだ」
「お見通しですか。NPCの復活までクエストやってもいいんですけど【闘技場】で他の【上級士官】とか【将官】を倒すのも仕事の内なもので」
そう答えると、奥からクラーヴンさんが持ってきたのは、何の飾り気もない無骨な護拳突き重剣だが一点、剣として珍しいのは真っ黒な事くらいだ。
護拳もすごく硬そうには見えるがそれだけの金属の塊、血溝が一本彫られただけの刀身、ただの二等辺三角形で出来た重剣は、手にずっしりと来て心地よい。
久しぶりに安心する重さの剣を持ったという感覚が、不思議と自信をみなぎらせる。
「問題なさそうだな。その剣にも例の霊亀の素材、アダマンタイトと言うらしいが、そいつを混ぜて硬くしてあるから攻撃は勿論、防御にも効いてくるから、まあ使ってみてくれよ」
「ありがとうございます。早速【闘技場】で使ってみます」
クラーヴンさんにお礼を言ってゴドレンの店を出るが、妙に足が軽いと言うか、すぐにでも剣を振り回してみたい衝動に駆られて仕方がない。
すぐさまポータルで【闘都】に移動、いつもの鼠のヒトの店に向かい闘技申し込みをお願いする。
「いいっすよ。筋肉の祭典以来、ソタローへの挑戦者があとを絶たないっす。マイナーな祭典の割りに優勝者の知名度は侮れないものがあるっすね」
言うが早いか、店の外に走り出てしまったので、自分もあとを追う。大体行き先は分ってるいつもの趣のある【闘技場】だ。
いつもの【闘技場】に着くなり、やたらと色んなヒトにじろじろ見られるのは何故だろうか?
ちなみに今日は黒い正装風装備の方だ。何しろ雪国仕様の方は集団戦で使ったばかりなので一旦クラーヴンさんに預けてあるのだから仕方ない。
……戦うのにパーティみたいな格好で来たから見られてるのか!
なんか恥ずかしくなってきた所で、鼠のヒトが自分を見つけて駆け寄ってきたので、
「もしかして、自分の格好変ですか?」
「変どころか、今にもパーティ出来そうで、いいと思うっすよ。それより相手が決まったっす。ソタローが闘技するなら、いの一番に声を掛ける様に言われてた筋肉自慢っす」
「筋肉自慢って事は【帝国】人って事ですかね?」
「違うっす。寧ろ筋肉と言えば【帝国】だと言われている事に強い憤りを感じてる【馬国】人っす。これは大変な事になりそうっすね」
「大変な事になりそうって……勘弁してくださいよ」
「仕方ないっす。ソタローは完全に上級に目をつけられたっす。ただ相手も上級だけあってちょっと急がしいっす。なのでそれまで食事でもしておくのがいいと思うっす」
「確かに戦闘前に食事はいいですね。特に相手が筋肉自慢となれば力と力の勝負になりかねないですから」
「じゃあ、筋肉にお勧めの食事処があるっすから、ついて来るっす」
相変わらず顔の通り人混みを素早くすり抜けていく鼠のヒトに、自分がついていくのは中々骨が折れる。
時折ヒトにぶつかりそうになるが、重装備でぶつかっては申し訳ないと避ける。
ふと、小さな子供を避けたら、代わりに巨漢にぶつかり、巨漢が2mくらい吹っ飛んだ。
「あっ!すみません!」
「てめー!何処見て歩いてんだ」
「子供を避けたらつい!」
そう言って、手を差し出したら何故か巨漢は怯えて逃げていく。
周囲のヒトにひそひそ話をされながら取り巻かれているがどういう状況だ?
「ソタロー……あんな巨漢をあっさり弾き飛ばすから、すっかり注目されてるじゃないっすか。もうちょっと気をつけて歩くっす」
「すみません」
言うが早いか、またヒトの隙間を抜けていく鼠のヒトを追いかけていく内に辿り着いたのは、割とシンプルで気軽に入れそうなお店だ。
「ここですか?筋肉にお勧めのお店って」
「そうっす」
うながされるまま、店内に入りテーブルに着く。
「それで、メニューとかって何があるんですか?」
「ここでは店主が客を見て、その客に必要な栄養素を取れるように勝手に食事を作る店なんす」
「それはまた、凄い目利きだ」
いつ何を見て判断したか分らないが、鼠のヒトにはサフランライスのような黄色いお米の上に焼肉のような肉の乗った、スパイシーな肉飯。
自分の前に置かれたのは、雑穀米とゆで卵と赤身の焼き魚とブロッコリーとアボガドのサラダと言った定食風のメニュー。
思ってた肉肉しいご飯じゃなくてちょっと驚いたが、これが今の自分の筋肉に必要なのだろう。